Lecture 3

小谷 元子 氏
東北大学大学院理学研究科教授, 材料科学高等研究所(AIMR)所長

Science / AAASJapan & Science / AAAS:
For the Future of Science and Innovation in Japan

日本における革新のための共同イニシアティブ

世界トップレベル研究拠点プログラム(World Premier International Research Center Initiative:WPI)のAdvance Institute for Materials Research(AIMR)の責任者である小谷元子教授は、「世界トップレベルの研究センターの発展:WPI-AIMRの活動(Development of world-class research center: activities of WPI-AIMR)」と題して講演を行った。小谷教授は、科学・技術・工学・数学(science, technology, engineering, and mathematics:STEM)分野における女性による研究の草分け的存在として指導的役割を果たしていること、またその研究分野における業績によって有名である。小谷教授は、日本における多くの女性研究者のために科学研究の道を模索し切り開いてきた。
近年の教授の中心的活動は、物質科学の分野における世界の最先端の研究所として、東北大学に創設されたWPI-AIMRにおいて数学を活用した新しい材料科学を展開することであった。日本の文部科学省(Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology:MEXT)によってデザインされたプログラムWPIは、世界から目に見える(globally visible)」研究センターを日本国内に創設することを目的としている。AIMRは2007年にその創設メンバー5拠点のうちのひとつとして参加し、10年間WPIの4つのミッション「トップレベルのサイエンス」「国際化」「システム改革」「新しい研究分野への挑戦」を果たしてきた。WPIは現在13の研究所を全国に設置し、国際化の促進に努め、学術研究における大きな業績を上げている。

WPI-AIMRは質の高い研究を材料科学分野で推進し、多くの論文を国際誌に発表してきた。さらに、海外に15の連携研究機関をもち、そのうちの3つをコアパートナーとし海外ジョイントラボを置いている。これらをベースに多くの共同研究プロジェクトやジョイントワークショップを開催し、国際的な知の循環(global brain circulation)のハブ」となることを目指している。WPI-AIMRは、学術組織との共同だけでなく、産業界との共同研究ラボの設置や、ドイツフラウンホーファ・プロジェクト・センターを置くなど、基礎研究を社会へ展開する活動についても率先して行ってきた。

もっとも挑戦的なミッションが、研究領域を超えた学際的な融合による新しい科学分野の創設である。WPI-AIMRは、世界にさきがけて、数学者と材料科学の実験科学者が一つ屋根の下に集結した研究所である。数学の視点を物質科学に組み込むことで、新しい科学分野を創り出そうと試みてきた。材料科学の基本的な問いは目指す機能を持つ物質の構造とプロセスを見出すことであるが、「離散幾何解析学」という21世紀の新しい数学によって物質を階層ネットワークとして理解し、機能ー構造ープロセスの相関を明らかにしようという難しい挑戦である。しかし、小谷教授らの取り組みは、2013年にScienceに掲載された論文を契機に、その後WPI-AIMRでは数学・理論・計算・実験の連携を強力に推進し、萌芽的な成果を発表してきた。「データ駆動型(data-driven)の物質科学」が世界中で期待されるなか、小谷教授はデータから情報、意味、理解そして知恵を生み出すために数学による概念化が重要であると主張した。
講演を終えるに当たり小谷教授は、物質科学の分野において「効率の高いエネルギーの変換および保存」ならびに「社会インフラのための信頼性の高い物質」が社会と基礎研究を結ぶ重要な課題であろうと述べ、さらにWPI-AIMRには東北大学の全材料科学者が参画するプラットホームとなり「持続可能な社会を目指して科学およびトップレベルの革新を先頭に立って指導する」役割が期待されると表明した。

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