Keynote speech

Dr. Rush D. Holt
Chief Executive Officer and Executive Publisher of Science Family of Journals, AAAS

Science / AAASJapan & Science / AAAS:
For the Future of Science and Innovation in Japan

すべての人に科学リテラシーを

「すべての人に科学リテラシーを(Science Literacy for all People)」と題された基調講演が、AAASのCEOであるとともにScience姉妹ジャーナルのExecutive PublisherでもあるDr. Rush Holtにより行われた。Dr. Holtは講演を通じて「科学リテラシー」の役割の重要性を強調し、AAASの目指すものが、単に将来の科学者や、科学機関に属して将来科学を支える人々だけを対象とした科学教育にあるのではなく、より大きな社会に利益を還元することであると述べた。

AAASは、公共の政策、決定および言説をより良いものとする「good science」を牽引することにより、科学教育を社会に浸透するための取り組みを続けてきた。そしてその活動は、米国のみならず世界に影響を及ぼしてきた。「good science」を通じた国際的な活動のひとつとしてDr. HoltはPolicy Alert(科学政策に焦点を当てた毎週発行のニュースレター)を例に挙げ、AAASの提供するサービスは、いずれも科学政策に最良の科学を取り入れるというミッションを反映したものだと説明している。

「Good science」の推進のため、AAASの年次集会には、研究者だけでなく700名を超えるライターやレポーターが集まる。我々は年間の最優秀の科学論文、メンタリング、および科学者による公共活動に対して賞を提供している。さらにGolden Goose Awardでは、一見些細なようで、笑ってしまうような、しかし極めて重要な研究を対象としている。このようにあらゆる活動において、AAASは科学の振興を模索している。学術集会だけでなく、March for Scienceなどの一般社会に向けたイベントにも積極的に参画している。Dr. Holtは、AAASが非営利組織であり、「科学のための力(Force for Science)」をモットーとしていることに着目してほしいと述べた。すなわち、AAASにとってのゴールは、科学者の振興ではなく、全ての人々の利益となるような科学の振興を目指して科学者と共働することである。今やAAASの会員は世界中で120,000名を超え、科学とエンジニアリングのあらゆる分野をカバーしている。

科学出版は科学振興のひとつの方法であり、インパクトの高いジャーナルを刊行することはAAASの重要な活動である。創刊から数年を経て、Science Advancesは早くも科学全般を対象とした研究ジャーナルとして最も重要なもののひとつとなりつつある。新ジャーナルであるScience RoboticsScience Immunologyは、日本でも多くの研究者が多大な関心を寄せてくれている。

AAASは、科学コミュニケーションを目的とした二つの新しいプログラムを立ち上げた。SciLineはライターとジャーナリストのためのサービスであり、ライターと科学者を結ぶコミュニケーションを提供する。ライターが、自身の書く記事の中で「正しく科学を書く」には専門家の助けを必要とするが、科学者は文脈と事実のチェックを行うことができる。SciLineには初年度で数千名の科学者が登録しており、多くのジャーナリストを支援している。もうひとつのプログラムであるEpi Centerは、この日本で行われたミーティングで初めてアナウンスされた。AAASは、公共的な問題に科学的根拠を提供するためのセンターとして、このプログラムを立ち上げた。これにより、幅広い様々な決定者に対して科学的根拠が適時に提供されることになろう。

社会のために科学を振興するには、科学が全ての人に関わりのある重要なものであることを、科学者は全ての人に知らしめる必要がある。科学は素晴らしい発明を生み出す。しかし、科学による最も偉大な発明は、科学そのものの発明である。これは言い換えると、科学者のように考えることは、あらゆる人にとって価値のあることだということである。Dr. Holtは、科学者の役割は科学により得られた結果をただ一般市民に伝えることではなく、科学がもたらす約束を、科学の力を、そして科学そのものを一般市民に伝えなければならないと指摘した。科学が力強く前進していくためにはいくつかの条件が必要である。それは、アイデアを交換する自由、十分な財政的支援、十分な施設と組織、そして人々の多様性である。政策決定とは外交的あるいは経済的な問題にとどまらず、科学の問題でもある。こうした条件が揃ってこそ、一般市民は科学を理解し、尊重することができるようになる。

科学者は、コミュニケーションというものは事実を伝えることだと考えているかもしれない。しかし、AAASが大学院生を対象として行ったコミュニケーションに関するワークショップでは、聴衆に対する配慮が十分になされなければ、科学者同士のコミュニケーションでさえ難しいという事実が浮き彫りになった。。そうした違いはジャーナリストとのコミュニケーションではさらに大きくなり、相手が立法者、政策決定者、そして一般大衆ともなればその違いはさらに大きくなる。最も難しい課題は、科学に関心を持たない、科学的根拠と意見とは同じものだと考えているような一般市民に科学を伝えることである。

一般大衆とのコミュニケーションを可能とするために、科学者はコミュニケーションを通して、科学を、知識を、そして人類の幸福を振興することに努めている。それは我々自身の研究上の関心を超えることかもしれないが、我々は自らの研究により得られた知識を通じて、人類の福利に資するようなコミュニケーション体制を、明確で、シンプルで、できれば刺激的なやり方で構築しなければならない。もう一つの重要な伝え方としては、科学を通して今日の問題、例えば気候、食物、健康および安全といった問題に取り組むことができる、というやり方がある。科学者はまた、これらの問題に対する解決策を提供するために自分たちは何ができるのかを、一般市民に対して説明を試みるべきである。

アルバート・アインシュタインはかつてこう述べた。「宇宙に関する永遠の謎は、宇宙が理解可能であるということだ」。科学者のこれからの使命は、アインシュタインのような考え方を、なんら偏見を交えずに確立すること、そして、宇宙でさえも理解できるかもしれないということを一般市民に伝えることである。もしも科学の根拠と信頼性が蔑ろにされるならば、科学技術は人類の目にはむしろ増大していく脅威として映ることになる。しかし、カール・セーガンがかつて述べたように、「もしあなたが科学を尊重して生きないならば、あなたは悪魔に取りつかれた世界に生きることになるだろう」。「科学リテラシー」とは、一般市民が科学技術を正しく位置付けるのを助けるだけでなく、彼らが科学を歴史の中に適正に位置付けることを助けること、また彼らが人類が存在する意味という永遠の問題と、科学による根拠のもつ力についてじっくり考えることができるような、成熟した市民となることを助けるものである。

Dr. Holtはこの講演を締めくくってこう述べた。「最も重要なことは、明日の知識へと通じる道があること、そしてそれは全ての人に対して開かれている、ということを伝えることである」。その道とは科学であり、科学的な考え方である。

ページの先頭へ