Lecture 2

永野 博 氏
AAASフェロー
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェロー・研究主幹

Science / AAASJapan & Science / AAAS:
For the Future of Science and Innovation in Japan

若手研究者から革新を生み出す

永野博教授は、AAASのフェローであり科学技術振興機構[JST]研究主幹でもあるが、長年にわたり若い世代の育成に携わってきた自身の活動を、「若手研究者を支援するためのシステムを確立する(Establishing systems to support young scientists)」と題して紹介した。永野教授は、1996年に新技術開発事業団(JRDC、現在のJST)で個人研究推進室長を務めており、このことが若手のために研究支援を行うという課題に取り組むきっかけとなった。

世界的にみると、特にEUでは、若手研究者の能力を開発することにますます重点が当てられるようになってきた。例えば、欧州研究会議(ERC)は、若手研究者を対象に、インパクトの高い研究を行うための「若手助成金(Starting grant)」を提供するようになった。

永野教授は、さきがけ研究21(PRESTO)を介して若手研究者を支援する活動を指導してきた。これは、JSTの戦略的創造研究推進事業の一環として、長期的な視点から各領域の基礎研究を促進することを目的としており、参加要件および資金援助における柔軟性を特徴として、新しく自由なアイデアを引き出すことを促すものである。永野教授は安西祐一郎教授(前 慶應義塾長)とともに、1997年にPRESTOの新しい領域として「情報と知(Information and Human Activity)」を創設した。情報科学は、現在でこそ重要な研究分野の一つとして脚光を浴びているが、1990年代にはこの領域の研究に向けられている関心はまだまだ少なく、JSTにとっても、これが情報科学に取り組む初めての事例となった。例えば同領域の研究者の一人である後藤真孝氏は音楽情報処理を専門としていたが、勤務先の産業技術総合研究所(National Institute of Advanced Industrial Science and Technology:AIST)では、音楽は研究分野として認識されていなかった。PRESTOの「情報と知」領域の選考メンバーは、この後藤氏の支援を行うことを決定し、彼は後に消費者生成メディアという新しいマーケットを開拓する第一人者となる。永野教授は、PRESTOの成功は、リスクを認識したうえで、研究者および研究そのものの可能性に価値を見出だそうとするマインドセットによるものだと述べた。

若手研究者に対する活動の最近の例として、2007年に開始された京都大学の「白眉プロジェクト」が挙げられる。将来世界において指導的な役割を果たすような科学者の育成を目的として、このプログラムは、あらゆる分野の研究に携わる博士研究員を国際公募で採用して、期限付き(5年間)の雇用を行う。白眉プロジェクトでは最終的な成果に重きをおくのではなく、研究者の独立性と創造性を尊重している。

若手研究者を支援する活動は日本において盛んになってきた。しかし永野教授は、日本が数多くの課題に直面していると指摘する。日本におけるPh.Dへの修士課程からの進学者が、ここ15年で半数に減っているという驚くべき事実にみられるように、政策決定者は次世代につながる持続的な研究支援を行うことの重要性を認識し、科学者とコミュニケーションを行うチャンネルを開くべきである。

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