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  • 2021.05.25
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Science Japan Meeting 2021会議録 ー会議録を公開します。ScienceのPublisherであるBill Moran と編集長Holden Thorpの講演はビデオでご覧いただくことが可能です。ー

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第2回Science Japan Meetingが無事終わりました。2018年9月に第1回Science Japan Meetingを東京アメリカンクラブにて開催。第2回を2020年3月に日本科学未来館にて開催する予定でしたが、コロナ感染拡大の影響により延期し、この度2021年4月、改めてオンラインで開催。400名以上のお申込みをいただき、皆様に心より御礼申し上げます。

Science/AAASからはPublisherのBill Moran氏、編集長のHolden Thorp氏が初めて日本に向けてメッセージを発信。日本からはJAXA宇宙科学研究所のサイエンスコミュニケーターでもあるElizabeth Tasker氏に宇宙とアウトリーチに関する興味深いお話を伺った。後半は、若手研究者を代表し、早稲田大学の丸山剛先生、名古屋大学の中村匡良先生からの研究成果の報告に加え、国立遺伝学研究所の髙祖歩美氏にモデレータをお願いし、科学の未来につながるパネルディスカッションを展開した。最後に日本学術振興会学術システム研究センター 顧問の黒木登志夫氏に、日本の科学の現状と可能性について提言をいただき終了した。

開催概要

テーマ:日本の科学の未来を創る
日時:2021年4月21日(水)14:00~16:20
形式:Zoom Webinar
参加者:Scienceおよびその姉妹誌に論文が掲載された研究者、アカデミアおよび企業の研究者または関係者、科学振興に努めておられる方々

プログラム
開会挨拶

Overviews Science/AAAS Plan S in regards to Open Access at the American Association for the Advancement of Science Billmheadshotsuit.png
Mr. Bill Moran
Publisher of Science Family of Journals, AAAS

Science Japan Meeting 2021参加者へのWelcomeメッセージとともに、科学の発展に寄与する為に設立されたNPOである米国科学振興協会(AAAS)としての、Open Accessの取り組み、情報公開のPolicyについて述べた。

AAASはGold Open AccessのJournalであるScience Advancesを提供している。Science本誌を含む他の5誌はSubscriptionベースで提供しており、これらはGreen Open Accessのポリシーにて、著者はAcceptされた論文を所属施設のレポジトリーまたは自身のWebサイトに掲示可能としている。著者に金銭的負担を求めるGold OAだけでは不平等が助長されると考えハイブリッド型を採用している。全ての研究論文は掲載後12カ月後には無料で公開し、今回のCOVID-19のように、Public Healthに緊急に影響を与える研究論文は即時無料公開としている。HINARIやSciDevNetを含むプログラムに参加しており、発展途上にある国々に対しては低料金または無償にて情報を公開。論文著者にはPreprint サーバーの利用を奨励している。

2021年1月15日には、cOAlitionS加盟機関(参照:https://www.coalition-s.org/plan-s-funders-implementation/)から助成を受けた研究者は受理済の論文(AAM)にCC BYまたは CC BY-NDライセンスを付与できるようになったことを発表した。これにより著者はAAMを自らが選んだレポジトリーに掲示することができる。
最後に、若手研究者を支援する目的で設立されたNoster & Science Microbiome Prize(日本企業Noster株式会社との共同Prize)を紹介した。

基調講演

A Year Like No Other: Lessons from DC and Isolation" Trends and challenges of research under COVID-19 situation: Science Editor-In-Chief's perspective and messageHeadshot AAAS.png
Holden Thorp, Editor-in-Chief, Science family of journals
ホールデン・ソープ(編集長)

COVID-19パンデミック下で科学者や科学誌が果たした役割を、具体的な例を挙げて示し、AAAS(米国科学振興協会)の一部でありNon-Profitの学術誌であるScience誌の特徴と、論文掲載にとどまらない使命、科学研究の迅速さと私たちの生活につながる研究成果の意義を分かりやすく伝えてくれた。

CNS Papers (Cell, Nature, Science)と並び称される三大学術誌の一つであるScience誌は、姉妹誌を含め6誌で構成される。常にあらゆる科学分野の最高の内容を入手して発信すること、オンライン・印刷の両方で可能な限り双方向のコミュニケーションを取り、効果的に公正に運営することがゴールである。多くの論文が投稿されてくるが、掲載基準は厳しく、その多くはScience誌以外の学術誌に載る結果となる。

昨年は、COVID-19関連含め全分野で投稿が劇的に増加した。通常は投稿のうち6%程度が掲載されるが、4000弱のCOVID関連の投稿のうち、3%の128が掲載。重要な示唆に富んだ記事が含まれている。例えば、かなり早い時期にKisslerが、「2022年頃までソーシャルディスタンスを取って生活することになる」と発表したが、当初、多くの人は内容について懐疑的だった。時間が経つにつれ、論文通りの現実を目の当たりにすることになり、注目の論文となった。

同様に、2020年2月19日、感染の仕組みに関するSpike Proteinの構造についての論文で分かるとおり、既に科学者たちは病気の原因を研究し、ワクチン開発までも進み始めていた。一方で、この論文発表の時点では、米国の政治家の間でパンデミックの発生は想定外、対応策など皆無の状態だった。「自分たちは迅速に動いて対応している」などと言うが、実際は科学者の研究の速さと努力に比べたら何もしていないに等しい。

2020年3月には、COVID-19が無症候性の感染者から感染するという研究成果が掲載された。これは、症状が出てからの検査では感染の14%しか検出できず、症状のある人のみの行動制限ではパンデミックのコントロールが不可能という、公衆衛生の観点から重大な問題を示していた。しかし、当時、この現実を米国のみならず世界の政治的指導者たちに理解してもらうことは困難を極めた。その結果、一年以上経った今、患者が世界中で爆発的に増加する現実に直面しているが、科学は先んじて一年前の時点で既にこうなる原因と仕組みを理解し世の中に発信していた。

ワクチン開発や治療に関しても、既に2020年5月には、L. Corey, J. Mascola, A. Fauci, F. Collins4名の大物科学者がCOVID-19ワクチン研究開発への戦略的な取り組み方について示し、直近の論文では、感染後回復した人がmRNAワクチン接種により、ほぼ全ての変異株に対しての免疫効果を発揮する可能性が示されるなど、科学者の取り組みは早い時期から継続的に行われている。

学術論文の使われ方・解釈のされ方の問題も指摘したい。米国議会で議論を呼んだ2021年2月のS. Crottyの論文は、感染後免疫が8ヶ月継続することを示していた。一方で、その免疫がいかなる変異株にも有効だとも、ワクチン接種した人が感染を引き起こさない、とも述べていない。しかし、論文に述べられていないこれらのことが議会では争点となってしまった。著者の意図に反し、パンデミックを軽視する人々によって都合よく解釈され悪用されてしまった。Science誌では、科学的な正しい理解のため、こういった誤った理解を正すべく立ち向かい対処している。

2020年9月には、トランプ元大統領が故意に誤った情報を米国民に発信し続けることに科学者として危機感を抱き、"Trump lied about science" と題したEditorialを自ら掲載した。トランプ元大統領は、専門家から正しい情報を得ていたにも関わらず、米国民を欺いていたのだ。ニュースで目にした彼による嘘は、パンデミックとの闘いで必死に仕事をしている多くの科学者たちに無力感を与えるほどひどいものだったので、それを正したかった。トランプ政権がパンデミックに関して恥ずべきとしか言いようのない対応をしてきたことが残念だ。Science誌は他の学術誌とも協力し、科学による正しい理解を人々に広めるための努力をしてきたし、これからもしていく。

米国では、COVID-19のパンデミックだけでなく、人種問題もパンデミックのように大きくなってしまった。Science誌は人種や社会の正義のための声もあげて社会をよくする一翼を担っていく。

最後にこのパンデミックで大きな役割を果たした科学者を挙げたい。mRNAワクチンのパイオニアとして20年以上研究をしてきたK. Karikó、彼女の研究成果がPfizer社とModerna社両方のワクチン開発に大きく寄与している。NIHのポスドク研究員だったK. Corbettは、Moderna社のワクチン開発に直接的につながる研究をした。そして、NIAID所長でトランプ政権含め6代の大統領政権で感染症助言をしてきたA. Fauci。米国の最も有名になった優れた現役の科学者として誇れる人だ。

Scienceは今後もパンデミックを含めた幅広い分野の科学論文を掲載し、今後の起こりうる将来についても含め、科学者、公衆衛生や政策にかかわる人たちの意見や提案、解説などもこれまで同様に掲載し、様々な発信をし、科学の振興に、社会に貢献していく覚悟だ。

招待講演

From space, to Japan, to the world: international outreach for Hayabusa2 and our next space missionsSJM_Elizabeth.png
Elizabeth Tasker
Associate professor and science communicator at JAXA's Institute of Space and Astronautical Science (ISAS)
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 准教授
エリザベス・タスカー氏

はやぶさ2のミッションの簡単な紹介を踏まえ、JAXAがどのようにミッションのプロセスや発見、その研究成果を社会に伝えているか、そして、それを支える科学者たち自身が研究成果を発信する必要性について、分かりやすく、楽しく、熱く語ってくれた。

小惑星リュウグウに近づいていく画像や、タッチダウンの動画、rover camによる小惑星表面の画像を示し、発見や研究成果が161の学術論文(うち6つはScience誌)として発表されたが、研究は続き、科学誌への発表だけでは十分ではないというJAXAの立場を「はやぶさ2」プロジェクトチーム ミッションマネージャ吉川准教授の言葉を引用して語った。"Missions must be such things that make people happy" 「人々を幸せにしないと本当のミッションとはいえない」

小惑星へのタッチダウンの動画が、すっかり科学への興味を忘れている人に新たな興味の対象を与えたり、小さい頃に興味を持っていたが天文物理の分野へ進まなかった多くの人たちにかつてのワクワク感を思い出させたりするかもしれない。何より重要なことは、はやぶさ2の科学的意義が「『我々はどこから来たのか』という根源的な疑問を解決するために、太陽系の起源や進化、生命の原材料を調べる」*ことなので、全ての人が自分のルーツを知るために興味を持ってこのミッションを追いかけることができる、ということだ。また、ミッションでは、ドイツ・フランス、アメリカというパートナーとの協力があり、様々な研究は分野横断的なものなので専門分野以外の研究者にも理解され横断的研究が進むように、専門用語を使わずに発表されることが望まれる。

科学コミュニティの枠を超えて多くの人々にメッセージを届けるため実際にJAXAがとってきた4タイプのOutreachの方法を紹介する。1)学術誌での発表、Twitterによる写真付きの発表、オペレーションの流れを文字ではなく絵や図(infographics)で解説;2)Twitterでタッチダウンの画像や動画をリアルタイムで共有し臨場感を味わってもらう工夫;3)様々な人を巻き込むため、小惑星に名前を残す「星の王子さまに会いに行きませんか」キャンペーンの実施;4)事後の講演の開催

発信を日英両方でおこなっているが、ここでも正しく楽しんで理解してもらうことに徹底している。言葉遊び(同音)や文化的文脈は英語への直訳が全く意味をなさないため、英語で読んで理解され、面白いと思ってもらえるように全く違う話に置き換えて訳すような工夫もしている。

最後に、科学者・研究者たちへ、素敵なそして大事なメッセージをいただいた。「科学者の皆さんは、あなたの研究テーマについて時間を割き打ち込んできたはずです、ですから、そのテーマの重要性について世の中に分かってもらうために、あなた以上に適任の人はいないのです!がんばって!」

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*https://www.hayabusa2.jaxa.jp/mission/objectives/ から引用

若手研究者によるFlash talks(研究解説)  

Talk1

上皮細胞受容体AltRによるMHC-I認識と異常細胞の排除Maruyama_photo.jpg
丸山剛氏 (早稲田大学高等研究所:WIAS)准教授

細胞内異常を細胞外に提示するクラスI-MHC(MHC-I)は、免疫細胞のみが認識する。このコンセンサスがある一方で、非免疫細胞である上皮細胞のAltR(Suboptimla Alteration recognizing protein)は、新規に生じたがん変異細胞のMHC-Iを認識する。演者らは、上皮細胞は、がん変異細胞を細胞競合的に排除することを世界に先駆けて見出した。上皮細胞が免疫細胞様の機能を有することを例示する新たな生命現象制御機構の発見である。さらに、非遺伝学的ストレスである細胞外ストレスを経験した細胞も類似した機構により上皮層から押し出されるのみならず、「貪食」により排除されることが分かってきた。このように、AltR/MHC-Iを介した細胞間コミュニケーションは、異常な細胞を排除するために、重要かつ普遍的な働きをすることが示唆される。これまで、細胞競合現象は、発生における準適合細胞、変性神経細胞、さらにはウイルス感染細胞の排除に重要な働きをすることが分かっている。そのため、今回発見された機構により、様々な生命現象を人為的に制御できる可能性が期待できることが報告された。

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研究成果:
Science Signaling 21 Jan 2014: Vol. 7, Issue 309
Roquin-2 Promotes Ubiquitin-Mediated Degradation of ASK1 to Regulate Stress Responses
https://stke.sciencemag.org/content/7/309/ra8


Talk2

動く植物Dr. Masayoshi NAKAMURA ITbM.jpg
中村匡良氏(名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所:ITbM)特任講師

多くの動物と異なり、植物は生まれた場所から移動しない。変動する環境に適切に対応ため、植物は正確に環境を感知する能力と細胞間での効率的な情報共有システムを有しているはずである。そして成長方法を変えることで環境刺激への柔軟な対応を分子・細胞レベルで行っている。例えば、土の中で発芽した種子は土の外に葉を押し出し、光合成を効率よく行うため、その茎を早く長く成長させる。植物の成長による動きは、細胞骨格に制御される細胞の形態に大きく依存している。環境に応答した植物の動きがどのように制御されるかを、最新の研究結果とともに紹介してもらった。

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研究成果:
Science 06 Dec 2013: Vol. 342, Issue 6163, 1245533
"A Mechanism for Reorientation of Cortical Microtubule Arrays Driven by Microtubule Severing"
https://science.sciencemag.org/content/342/6163/1245533

パネルディスカッション

モデレータ:髙祖 歩美氏(国立遺伝学研究所 ナショナルバイオリソースプロジェクト広報室長)SJM_Koso_headshot.jpg

丸山先生と中村先生をパネリストとして迎えて、"日本の科学の未来を創る"というScience Japan Meeting 2021のテーマに即して、日本の科学が現在抱えている課題や解決策についてパネルディスカッションが行われた。

丸山先生から、社会に役立つ実装性の高い研究ばかりを求められ、研究分野に偏りができるのは懸念があり、プレッシャーがきついとよいアイデアは出にくい、また中村先生からは、結果を求められる期間がどんどん短くなっているが、2~3年では結果を出すのはたやすくはない、との現状認識が語られた。

そうした中、研究成果を出すために、どのような環境や制度が必要なのかについて、研究グループ間の壁がないことが最重要であり、日本学術振興会が助成するWPI拠点ではそうした環境が与えられるので、そのような研究機関が持続可能であるとよいと、中村先生は、自らの経験を元に見解を示した。丸山先生は、教育と研究を分け、成果を早く出すための研究機関があれば研究スピードは上げられるのではないかと話した。ただし教育がおろそかになると10年後の日本の科学が不安なので、研究と教育のバランスは難しい、との懸念も示した。

普段の研究活動の中で心がけている事柄については、研究のスピードをあげるという観点から、中村先生は自ら新しいところへ飛び込むこと、周りと対話することと話した。一方、科学に対する親近感や理解を深めるために、飲み会で若い世代と話すなど、コミュニケーションを大切にし、様々な分野の人と意見交換をすることを大切にしていると、丸山先生は語った。

最後に丸山先生からの、異分野である企業の人とどう付き合えばいいのか、どんな研究者が求められているのか、という質問に対して、製薬メーカの方から、約束を守る人、研究に独創性があること、また、価値観が異なる人を受け入れ、考えることのできる人と仕事をしたいという回答が寄せられた。

日本の科学が抱える課題を即座に解決することは難しいという認識を共有しつつも、それぞれの立場でできることを改めて確認する機会となった。


閉会の辞

日本の研究の将来についてDrKuroki.jpg
黒木登志夫氏(日本学術振興会 学術システム研究センター 顧問、前WPI(世界トップレベル研究拠点プログラム)アカデミー・ディレクター)

パンデミックの状況の中、日本の科学研究に関する実力が分かってきた。
感染症の基礎研究や理数分析が弱い、政治家が科学を理解しない、科学コミュニケーション力が弱いといった状況がある。科学研究費の集中や研究者の固定化(海外での学位取得減少)のデータにその原因が表れている。
日本の科学を発展させるためにはどうすればよいのか。
研究は選択と集中ではなく、多様性と流動性が必要である。先の見える研究が重要視されるが、Curiosity Drivenの研究が大事であり、分野にとらわれない自由な討論や国際性が必要である。日本のWPIプログラムはこれらの点を重視して成功している。日本では24名ものノーベル賞受賞者を輩出した実績もある。彼らは44歳以下の時の研究に対して受賞している。若いときに自由に研究ができるプラットフォームを提供することで、日本の科学はさらに伸びると考える。

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講師、司会・モデレータの皆様、協賛くださいました株式会社ユサコ様に心より御礼申し上げます。


関連コンテンツ :
第2回Science Japan Meetingご案内
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第1回Science Japan Meeting記録集
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第13回Science Café案内 
https://www.asca-co.com/blog/science/entry20210521185719.html

「Science 求人・広告・ブランディング」
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