『医薬情報Trend Navi』始めます―今知りたい!変わりつつある日本の治験環境 (第1回)

2026.01.23

  • ピープル

このコラムでは、医薬翻訳に携わる皆様のために、業務に直結する最新の医薬品開発関連の情報やトレンドをわかりやすく発信しています。読むだけで、今知っておきたい医薬品開発の重要トピックを手軽にキャッチできます。日々の翻訳業務にぜひお役立てください。


いま日本の医薬品開発(臨床開発)はどう変わる?

(第1回)「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」中間まとめを読み解く

目次:

はじめに

近年、日本では「ドラッグロス」問題が大きく取り上げられています。これは、欧米では既に承認されている医薬品が日本では未承認のまま開発もされず、患者さんが新しい治療を受けられない状況を指します。この問題を背景に、日本の医薬品産業の国際競争力の低下や、産学官が一体となった総合的な戦略・実行体制の不足が課題として認識されるようになりました。

こうした状況を受け、政府は医薬品産業を日本の科学技術力を活かせる成長分野と位置づけ、政策強化に乗り出しています。2023年12月には、内閣官房主導で「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議1)」が発足し、2024年5月にはその中間まとめが公表されました(図1)。また、7月には当時の岸田首相も出席した「創薬エコシステムサミット1)」が開催され、創薬エコシステムの強化に向けた政府のコミットメントと官民連携による取り組み強化が宣言されています。現在も2026年夏の最終まとめに向けて、ワーキンググループ(創薬力向上のための官民協議会ワーキンググループ2))で議論が続けられています。

本コラムでは、こうした医薬品開発をめぐる最新の政策動向の中から、翻訳に携われる私たちが知っておきたいポイント、特に臨床開発に関わるトピックをシリーズで紐解いていきます。

第1回目の今回は、総論として「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議(以下、創薬力向上構想会議)」中間まとめのポイントを紹介します。

創薬力向上構想会議では、1. 我が国の創薬力の強化、2. 国民に最新の医薬品を迅速に届ける、3. 投資とイノベーションの循環が持続する社会システムの構築、の3つの柱が掲げられています。

これらは幅広い戦略から構成されていますが、我々の業務に関連がある臨床試験や翻訳業務の観点から主なポイント整理してみました。

創薬力向上構想会議中間まとめのポイント

1. 国際水準の治験実施体制への変換・治験エコシステムの導入

  • ドラッグロスの原因のひとつでもあった日本独自の治験実施体制への治験エコシステムの導入、ICH-GCP改訂に伴う薬事規制(改訂J-GCP)の見直しが行われています。国際共同治験の初回治験計画書届出件数を2028年度までに年間150件(2021年度の約1.5倍)に増やすという目標が設定されています。
  • 具体的には、国際共同ファースト・イン・ヒューマン(FIH)試験に対応できる実施体制の整備、Single IRBの原則化、国内治験にかかるコストの削減(治験費用の算定方法の合理化・透明化)や治験に携わる従事者の負担軽減や治験の効率化(ICF共通テンプレートの普及、各種文書の様式統一他)などが進められています。

2. 国際共同治験の推進・国際化推進による海外企業の国内開発促進

  • PMDAは2024年にワシントンDC事務所を設置し、米国のスタートアップやベンチャー企業への日本の規制情報の提供や相談対応を開始しました。また、国際化推進を目的に日本のガイドラインの英語化や海外への発信も強化されています。
  • 「日本法人や日本事務所を有しない外国企業」を対象に承認申請書の英語資料受入れの試行運用も始まっています3)

3. 新たな医薬品開発に適応した薬事規制・PMDAの相談・審査体制の見直し

  • 新規モダリティや治験デザイン(例:マスタープロトコール、リアルワールドデータの活用、分散型臨床試験[Decentralized Clinical Trial:DCT])を用いた治験の浸透に伴い、これらに対応できる規制の改訂や審査体制強化が進められています。
  • これまで積極的に行われてこなかった小児・難病・希少疾病医薬品の開発を促進するためPMDAの支援体制整備が進められています。
  • ICHガイドラインの改訂に伴い、来年度想定されている改訂J-GCP(ICH-E6(R3))、電子的に構造化・調和された臨床試験実施計画書(CeSHarP)(ICH-M11)への対応準備が製薬会社では進められています。

4. 創薬エコシステムの推進

  • アカデミアや創薬スタートアップのシーズ創出・育成、特に創薬スタートアップへの投資環境整備が進められています。
  • 薬価制度の見直しについても議論が進められており、創薬イノベーションの推進、日本市場の魅力度の向上、投資とイノベーションの循環が持続する社会システムの構築を目指しています。

翻訳業務への影響

これらの政策動向は、、翻訳に携われる私たちの業務にも大きな影響を与えます。

1. 治験関連文書の翻訳依頼増加
国際水準の治験実施体制への変換・治験エコシステムの導入により国際共同治験の増加が予想され、既存の製薬会社からの治験関連文書翻訳依頼数の増加やCROを介した翻訳依頼数の増加が期待されます。

2. 新規海外企業からの翻訳依頼の増加
国際共同治験の推進・国際化推進による海外企業の国内開発促進により、新たな海外企業による日本での開発が進む一方、参考資料やスタイルガイドが必ずしも整備されていない依頼の増加も予想されます。またPMDAの英語文書受け入れの動向次第では、和訳業務の内容や量にも変化が生じる可能性があります。

3. 新しい治療形態・治験デザイン・治験プロセス・用語への対応
新たな医薬品開発に適応した薬事規制・PMDAの相談・審査体制の見直しにより、これまでと異なる治療形態、治験デザイン、対象疾患、治験プロセスの導入が進むと予想されます。これらに対応した翻訳をするためには、最新情報のキャッチアップと新しい考え方への理解と柔軟な対応が求められます。ICHガイドラインの改訂に伴う治験用語の変更やテンプレートの把握も重要になっていきます。

おわりに

今後のコラムでは、治験の話題を中心に医薬品開発の変化について紐解いていきます。
次回は3月(予定)に、Single IRB、DCTについて考えてみたいと思います。


図1

参考リンク

  1. 創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議(内閣官房)
    https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/souyakuryoku/index.html
  2. 創薬力向上のための官民協議会ワーキンググループ
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_61500.html
  3. 試行運用:新医薬品の承認申請に際し承認申請書に添付すべき資料の提出について(厚生労働省)
    https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc8711&dataType=1&pageNo=1

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