2025.10.30
今回はScience誌 2025年10月23日号に掲載された論文『Ancient origin of an urban underground mosquito(都市の地下に生息する蚊の古代起源)』について、著者の羽場優紀氏からのコメントとともにご紹介します。
米プリンストン大学(現:米コロンビア大)の羽場優紀氏らのチームがScience誌10月23日号に発表した論文では、ロンドン地下鉄の蚊(Culex pipiens form molestus)という都市環境に適応した蚊の一系統について、その起源を明らかにしたという研究成果が掲載されています。molestus型は行動面ではpipiens型と異なるものの、形態的には区別がつかないため、その起源は長らく不明確であったといいます。この曖昧さを解消するために、羽場氏らはヨーロッパおよび北アフリカ全域から収集した357の現代標本と22の歴史的標本のC. pipiensをゲノム解析し、全遺伝子配列を調べることによりこれまで知られていなかったその蚊の起源に迫りました。(Munshi-SouthとEvankowによるPerspectiveも参照)。
【論文著者 羽場優紀氏からのコメント】
全世界規模で急速に進んでいる都市化は、人間以外の生物にもこれまでにない環境変化と淘汰圧をもたらしています。今回の研究では、都市化による急速な生物進化の代表例とされてきた「都市型の蚊」チカイエカの進化起源を大規模なゲノムデータ解析により再検証し、その定説を大きく覆しました。都市型の蚊の起源は近代都市ではなく何千年も前に人類が作り上げた古代都市の環境であり、すでに人間の環境に適応した種がそのまま現代の都市環境へ入り込み「都市型の蚊」として定着したことを明らかにしました。

*イメージ画像
Department of Ecology and Evolutionary Biology, Princeton University
Princeton Neuroscience Institute, Princeton University
(現:Zuckerman Mind Brain Behavior Institute and Howard Hughes Medical Institute, Columbia University) 羽場優紀
Science 2025年10月23日号
原著論文:Ancient origin of an urban underground mosquito
「蚊」と聞くと、私たちは「刺される」「病気を媒介する」など、ネガティブな印象を持つことが多いと思いますが、そのような蚊にも、何千年にもわたる人間との共存と進化の歴史があることを知り驚きました。人間の活動が生物の進化に与える影響は、思っている以上に長期的で深いものなのですね。
(執筆:松田)
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