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  • 2019.06.27
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医療現場のつぶやき 「攻めのこだわり守りのこだわり」

第9回「攻めのこだわり守りのこだわり」

今朝ふと高校時代の地理の先生のことを思い出しました。
いつも力の抜けている感じのテキトーな授業をする先生で、私はとても好きでした。

その先生が話してくれたことで最も記憶に残っているのは、授業の内容ではなく、教師になってから仕事をサボったことが一度あるという話です。ある時期とても仕事が嫌で嫌で、学校(職場)に行くのが嫌になって、通勤方向と逆向きの電車に飛び乗って1日仕事をサボったそうです。
サボって何をしたのかということについても話してくれたように思いますが、そこは記憶にありません。ともかく、当時高校生だった私は社会人でもサボることがあるんだということに驚きました(当時の私は真面目でした)。しかし、今になって考えてみると、ギリギリまで追い詰められている状態の時に「サボるのもあり」だという選択肢を示してくれた、先生なりのメッセージではなかったかと思うことがあります。

そう思って振り返ってみると、その先生なりのメッセージが授業にもあったのではないかと思いました。あるとき先生が、今日の授業は外でやると言って、みんなでぶらぶらと学校の周りを歩いたことがあります。今でいうブラタモリみたいな感じで。
そうやってぶらぶらと歩きながら、ここがなぜ小さな坂になっているかというと昔ここは堤防だったからだとか、ここの道路はなぜこんなにクランクが多いのかというと昔からここは寺内町なので馬で走り抜けられないように曲がり道がわざと多くしてあるとか、そういうことを教えてくれたんですね。その時はじめて「地理」ってそういう分野なんだと知りました。ずっと自然の中でできてきた地形とか、〇〇県の特産物がどんなだとか、なんだかよくわからないけどともかくシーズンによって取り扱われる対象が違っていて、とにかく覚えておけばそれでいい科目なんだ、と思っていました。そうじゃなかったんですね。ある土地があって、そこの自然や歴史がそこに住む人たちに影響し、そこに住む人たちによって土地が影響を受ける。そういうロングスパンの人間の営みというか、そういうものを学ぶ科目だったんですね。その時はじめて気づきました。

こうやって振り返ってみると、先生は全然テキトーな授業をしていませんでした。
むしろ、こだわりのある授業をされていたのだと大人になって気がつきました。

あなたのこだわりは!私に伝わりましたよ!!
と声を大にして言いたいです。

こだわりは大事です。こだわりが人を動かすのだと、そう思います。

ところで、障害のある人の支援について研究している私の分野では、この「こだわり」という言葉は別の文脈でよく見聞きします。それは自閉症スペクトラムの特徴のひとつとしての「こだわり」です。「興味の著しい偏り」などといわれることもあります。

曰く、いつも同じルートでしか移動しようとしない、同じことばかりしたがる、同じものばかり使いたがる、など。文献によっては自閉症スペクトラムの大きな特徴の一つとしてこの「こだわり」があると書かれたものもあります。「こだわり」が強いことが自閉症スペクトラムかどうかを判断する一つの手がかりとなるということです(正確にはこれは言い過ぎなのですが)。

ところで、どうして自閉症スペクトラムのある人はこだわるのでしょうか。自閉症のある人はこだわるのだ、そういうものなのだ、なんて言説は説明ではないですよね。私は「それ以外のやり方が不安だから」だと説明するのが一番しっくりくるように思います。

人はそもそも、この先どうなるかわからないといった不安や、これをすれば失敗したことがあるといいう経験があると、そういう手続きをとりたくなくなるものです。暗い夜道が怖いのは、何が起こるかわからないからです。犬に吠えられたり車にはねられかけたりした道はなるべく通りたくなくなるものです。そういうなかで、リスクを受け入れられるまで不安をできるだけのぞくことができた場合に「いつもと違うやり方」にチャレンジできるものだと思います。

もう一度いいます。「こだわる」のはそれ以外のやり方のリスクが大きいからです。
こだわりには理由があります。今回書きたかった話はこの部分です。

誰も気づいてくれないかもしれない。でも誰かが気づいてくれるかもしれない。
だからこそこだわりたい。そういう攻めのこだわり。
いつもの方法以外だと失敗するかもしれない。ひどい目にあうかもしれない。
だからこそいつもの方法でやりたい。そういう守りのこだわり。

こだわりは大事です。
こだわりというものは個人を特徴付けてくれるものなのだろうと思います。
こだわりが人の魅力になる。拡大解釈しすぎでしょうか。

この話のオチが見えません。ここで終わるつもりだったのに。
よくわからない終わり方になってしました。
そこはこだわれよ、と心の中の厳しい自分が言いますが、もう一人のテキトーな自分がまあいいんじゃないかとも言います。
ここは高校時代の先生に敬意をこめてテキトーな終わり方で...

滋慶医療科学大学院大学 医療管理学研究科 准教授
岡 耕平

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