2025年ASCA年末座談会:翻訳の現場から見たAI・ツール活用と今後の課題

2026.01.13

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AIの進化は、翻訳プロセスに大きな変革をもたらしました。効率とスピードが飛躍的に向上し、AIは大量のテキストを瞬時に翻訳できるようになり、特に定型的な文書や一般的な内容についてはかなりの精度での訳出が可能になっています。その結果、「AIが進化したのだから、安く、早く、質のいい翻訳ができて当たり前」という、翻訳料金の低下圧力が強まり、単純な翻訳業務の市場価格は下落傾向で、価格競争も激化しています。

その一方、翻訳者にはより高度なスキルが強く求められるようになりました。具体的にはAIの誤訳を見抜く「校正力」、専門分野の深い知識に基づいた「専門性の担保」、そして「多文化理解に基づいたローカライズ能力」などです。

このような状況を踏まえ、本座談会ではASCAのベテラン翻訳者4名に集まってもらい、AI・ツール活用の現状と翻訳の今後の課題についてお話いただきました。

本記事では、その内容をご紹介させていただきます。

参加メンバー:
司会:橘(アスカコーポレーションSPM)
翻訳者:西村さん、三原さん、TCさん、アルヴィンさん
座談会日時:2025年12月22日

まず、AI翻訳やCATツールが普及したことで、作業効率や質にどのような変化があったと感じているか、お伺いできますか?

【ASCA/橘】
本日は、AI翻訳やCATツールの導入によって、翻訳現場がどのように変化したのか、皆さんの率直なご意見をお伺いしたいと思います。
まず、AI翻訳やCATツールが普及したことで、作業効率や質にどのような変化があったと感じているか、お伺いできますか?

【アルヴィンさん】
私が2017年にこの業界に入った頃と比べると、AI翻訳やCATツールの進化は本当に目覚ましいです。プロジェクトをツールで開いて最初に出てくる訳文のクオリティが格段に上がっています。特に、簡単な文章なら、ほとんど手を加えなくても良い場合もあります。複数エンジンの出力を見比べて良い部分を組み合わせて最適な訳を作るといったこともできるようになってきました。ただ、やはりAI翻訳の出力そのままで使える訳は少なくて、専門用語や文脈の理解、表現の統一など、人の手による修正は不可欠ですね。

【西村さん】
確かに、AI翻訳の下訳があることで、昔に比べて入力作業は格段に楽になりましたね。ただ、AIの訳は流暢すぎて、逆に細かなミスや文脈のズレに気づきにくいこともあります。特に専門用語や固有名詞は、結局自分で公式サイトや業界資料を調べる必要がありますし、用語のブレや表記の統一は必要です。

【三原さん】
私もAI翻訳の進化は実感しています。ただ、タグや数字、記号の扱いなど、AI翻訳やCATツール由来のエラーや手間が増えたと感じています。例えば、セグメントの分割が不自然だったり、タグが余計に入っていたりして、逆に修正に時間がかかるケースもあります。特にパワーポイントなどのファイルだと、原文とツール上の表示が違うので、原本を見比べながら作業することが多いですね。

【TCさん】
AI翻訳は毎回同じ出力をするわけではないので、表記の不統一などが起こり、繰り返しの自動入力機能を使って作業したまま修正すると、思わぬところにミスが発生します。こうした細かい作業はツールなのだから自動化できそうだと思うのにできていない部分が多いので、たとえば、記号・括弧・数字などの統一などの作業は、もっと機械的に解決できるようになればいいなと思います。半角カッコ+スペースを、全角カッコに置き換えるのは単純作業ではありますが、一斉置換できない箇所もあるので確認しながらの作業は意外と手間と時間を使います。

【ASCA/橘】
AI翻訳の得意なところ、苦手とするところ、CATツールの得意なところとそうでないところなどをもっと共有した方がいいのかもしれません。ツールによって便利な点もあれば不便な点もありますし、同じツールでも、翻訳者さんによって使い方や工夫はさまざまです。うまくいっている方法や失敗した点なども共有できたらいいですね。

では、現場で感じる「本当の課題」についてお聞きしたいと思いますがいかがでしょうか。今もお話にあがっていましたが、AI翻訳やCATツールが導入されても依然として残っているのは用語や表現、表記やスタイルの統一などの問題でしょうか?

【三原さん】
用語や表記の統一は本当に大きな課題です。参考資料や用語集の中で、同じ用語でも複数の訳語が混在していることが多く、どれを優先すべきか迷う場面が頻繁にあります。クライアントやPMからの指示が曖昧だと、翻訳者側で判断してコメントを残す手間も増えます。最初に明確なルールがあれば、作業効率は格段に上がるのですが…。

【西村さん】
私も同感です。例えば、第一優先の資料の中でも用語がブレていると、どれを使えばいいのか毎回確認しなければなりません。その都度クライアントに質問しても、なかなか答えが返ってこなかったり、同じクライアントでもプロジェクトごとにルールが変わったりするので、「これ」ときっちり決められず、統一が難しいです。

【TCさん】
略語や部署名、固有名詞も会社ごとに違うので、最初からクライアント専用の用語集やテンプレートがしっかり整備されていれば、かなり作業が楽になると思います。今は自分なりのルールを決めてコメントを残していますが、本来はクライアント側で統一してもらえたらとても助かりますね。

【アルヴィンさん】
また、複数人で作業する場合、他の翻訳者やチェッカーとリアルタイムで情報共有できるチャットルームやコメント機能があると、用語や表現の統一がしやすくなります。今後はこうした仕組みをもっと活用してもらえると嬉しいですね。

【ASCA/橘】
AI翻訳やCATツールをどう活用するか、というより、まずはプロジェクトマネージャー(PM)がクライアントや翻訳者からいかにきちんと情報を得られるか、そして得られた情報を双方に簡潔かつ明確に伝えられるかも重要なポイントなのですね。特に納期がタイトになっている今の状況では、用語集の確認や作成、表記ルールなどが後回しになりがちです。急ぐからこそタイムリーなコミュニケーションは本当に重要ですね。私たちも工夫していきたいところです。ありがとうございます。

【ASCA/橘】
さて、AI翻訳やMTPE(機械翻訳+ポストエディット)の限界についてはどう感じられていますか?た、「人間の翻訳者」としてどんな価値を提供できるとお考えでしょうか?

【三原さん】
AI翻訳は「速さ」には確かに貢献できるかもしれません。セグメントごとの対応だけをみて、意味があってさえいればいいのであれば、AI翻訳だけでも、もっとスピーディに仕上げることはできると思います。でも、文章の全体像を見ての「用語統一」、「文脈理解」「読みやすさ」まで踏み込んだ仕上がりを求めるならば、人間の介在が不可欠だと思います。クライアントが求める品質レベルによって、作業内容や納期、コストも大きく変わるので、どこまでの品質を求めるのか、事前にしっかりすり合わせることが重要なのではないでしょうか。

【西村さん】
私も翻訳の仕事自体が好きですし、AI時代でも「人間ならではの判断力・表現力・統一性」が最大の付加価値だと感じています。クライアントに対しても、品質とスピードのバランスを提案していく姿勢が大切だと思います。

【アルヴィンさん】
今あるクライアントとの信頼関係を大切にして、付加価値を示していくことが重要なのではないかと思いますね。AIやツールの進化に合わせて、機械的に解決できる部分は自動化しつつ、人間ならではの強みを活かしていきたいです。

【TCさん】
MTPEだからこそ、用語集やテンプレート、参考資料の活用についてしっかり決めてもらうことが重要です。そのルールに沿って私たち翻訳者がこだわり、適切な判断をしていくわけですが、AIではセグメント単位ではなく文章全体を見渡すことは難しいと思います。AI時代でも、言葉へのこだわりや表現力がモチベーションになるので、翻訳者の役割はなくならないと信じています。

【ASCA/橘】
現場のPMがクライアントと向き合う時にも重要なポイントについてご意見いただきありがとうございます。最後に、今後の翻訳現場への提案やビジョンについてもお聞かせいただけますか?

【三原さん】
AIと人間の強みをうまく組み合わせて、クライアントの要望に応じた柔軟なサービスを提供できる現場づくりが理想です。例えば、品質レベルごとに作業内容や納期を調整したり、用語や表記の統一を徹底したりすることで、より良い翻訳サービスを実現できると思います。

【アルヴィンさん】
また、クライアントやPMとのコミュニケーションを強化し、現場の声を反映した仕組みづくりを進めていくことが大切なのではないでしょうか。翻訳者同士の情報共有やフィードバックの場も、今後ますます重要になってくると思いますね。

【西村さん】
AIやCATツールの進化で現場は大きく変わっていますが、「コミュニケーション」「品質レベルの明確化」など、人間ならではの課題や価値は依然として重要だと思うんです。好きな仕事を続けるためにも、AIと共存しながら自分たちの強みを発揮していきたいですね。

【TCさん】
現場の課題を一つずつ解決し、より効率的で質の高い翻訳を目指していきたいですね。今後もクライアントやPMと連携しながら、現場の声を活かした改善を進めていってもらえればうれしいです。用語集やテンプレートの統一などは、現場の翻訳者だからこそ提案できることもあると思いますし、いつも対応しているクライアントのものなら作成もできると思うので、ぜひ協力したいです!

【ASCA/橘】
本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!

AIやCATツールの進化によって翻訳現場は大きく変化していますが、今日のお話を伺って、現場の課題の本質は、私自身が翻訳に関わるようになった20年前から実はあまり変わっていないのかもしれないと感じました。
「人間ならではの判断力・表現力・統一性」といった文章全体を通しての翻訳が最大の付加価値であり、これはAI時代だからこそ決して失われることはないと感じました。また、クライアントとの信頼関係を大切にし、品質とスピードのバランスを提案していく姿勢こそが、これからも翻訳者、そして私たちに求められる重要な役割だと再認識できました。

また、「翻訳という仕事を好きだから続けたい」「言葉へのこだわりがモチベーション」という皆さんの言葉からも、AI時代でも人の役割はなくならないことがよく伝わってきました。AIやCATツールは確かに作業効率を高めてくれますが、用語・表記の統一、コミュニケーション、品質レベルの明確化など、人間ならではの課題や価値は依然として重要ですね。

今後は、AIと人間の強みを活かしつつ、現場の声を反映した仕組みづくりやクライアントとの連携強化を進めていくことが、より良い翻訳サービスの提供と仕事の拡大につながっていくと感じました。ASCAが掲げる「人×テクノロジー」をモットーに、これからも皆さんと共に現場をより良くしていければと思います。本日は本当にありがとうございました。

  • AI翻訳・CATツールの進化で効率は上がったが、専門用語や表記の統一、ツール特有のエラーなど新たな課題も。
  • クライアントやPMとの明確なルール設定やリアルタイムな情報共有が作業効率化・品質向上の鍵。
  • AI時代でも「人間ならではの判断力・表現力・統一性」が不可欠であり、翻訳者の役割や価値は今後も重要。


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