Science

  • 2020.05.20
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第2回Science Cafe 開催(2020年6月26日)

Science CaféではScience及び姉妹誌にその論文が掲載された日本人研究者の方を講師にお招きし、ご研究内容の紹介のみならず、その発見・成果に至った経緯やマインドセットなど、革新的研究にまつわる貴重なご経験をウェブセミナー形式でお話しいただいております。
今回は京都大学防災研究所附属地震予知研究センター 学振特別研究員 西川友章先生にご講演いただきました。

講演日時

2020年6月26日(金) 14:00-14:30

講演者: 西川 友章先生 

京都大学防災研究所附属地震予知研究センター 学振特別研究員 Dr.Nishikawa.jpg

Science 2019年8月23日号掲載 "The slow earthquake spectrum in the Japan Trench illuminated by the S-net seafloor observatories"
https://science.sciencemag.org/content/365/6455/808


講演テーマ:「スロー地震ってなんだ?」

Science 2019年8月23日号で「S-net 海底観測網が明らかにした日本海溝のスロー地震」についての論文が紹介されました。膨大な地殻観測データを用いてこれまで明らかではなかった東北地震に関係するスロー地震活動の全容が明らかになったのです。スロー地震とは普通の地震と比べて極めてゆっくりと断層がすべる現象であり、この現象と巨大地震の関係が盛んに研究されてきたとのこと。今回の研究成果を手始めとしてさらにスロー地震の謎を解き明かすことによって、巨大地震の予測可能性が見えてくるかもしれない。

過去のScience Cafe

第1回:「セレンディピティ」と「ぶれ」と「ずれ」
東京医科歯科大学 統合研究機構 先端医歯工学創成研究部門 創生医学コンソーシアム 教授 武部 貴則 先生

Science Cafe in Japan のご講演者およびご参加の皆様へ

Publisher of Science Family of Journals, AAAS のMr.Bill Moranからのメッセージ

お問合せ先

Science Japan Office 担当:吉川/谷 
E-mail: science_cafe@asca-co.com

ScienceCafe_Science-AAAS.jpg

ウェブセミナー開催時にいただいた質問について

ウェブセミナーの際にご質問いただいておりましたが、時間の関係でご紹介できなかったご質問について、西川先生にご回答いただきましたので、以下の通りご紹介させていただきます。

質問: 
バリアの存在は、(地球環境への影響だけでなく)「社会への被害」にどの程度影響がありそうでしょうか?その有無でどの程度、差があるのでしょうか?

西川先生回答:

スロー地震多発地帯というバリアの存在は「社会への被害」の低減にとても大きな影響を持ちます。バリアが全く無ければ断層全体が一気にずれ動き、巨大な津波や揺れが発生します。バリアは巨大地震の断層のすべりを抑制することで、被害の拡大を抑制していると言えます。
例えば、2011年東北地方太平洋沖地震(以下、東北地震)は日本海溝の1/3の面積をずれ動かしましたが、もし巨大地震の断層すべりがスロー地震多発地帯で停止していなかったなら、日本海溝全てがずれ動いていた可能性もあります。その場合、地震のエネルギーは約3倍になります。

質問: 地震予知研究センターの所属ということで素朴な質問です。地震はほんとに予知できますか?今まで成果例ありませんか?

西川先生回答:

残念ながら現段階では地震を予知することはとても困難です。
一方で、地震の中には比較的予測がしやすい極めて特殊な地震もあります。繰り返し地震と呼ばれる種類の地震です。この地震はとても規則正しい発生周期を持つので予測できる可能性が他の地震と比べて高いです。実際、東北大学の研究グループが2001年と2008年に岩手県釜石沖で発生した繰り返し地震(マグニチュード4.8)の予測に成功しています。しかし、このような予測しやすい地震は極めて珍しく、ほとんどの地震は予測できません。今後少しでも予測できる地震の割合を増やしていくことが研究の目標です。

質問: 2011年の東北地震はなぜ予知できませんでしたか?

西川先生回答:
一般的に言えば、東北地震に限らずどんな地震も予測するのは困難です。
東北地震の場合は、
(1)震源が陸から遠いはるか沖合いだったこと
(2)2011年当時、日本海溝に海底地震観測網が整備されていなかったこと、
(3)過去に東北地震のような巨大地震が観測された例がなく想定されていなかったことが
予測をさらに困難にしました。

質問: 大勢が被害受けてから論文を書いても意味がない気がしますが、いかがでしょうか?

西川先生回答:
日本海溝のスロー地震分布の全容を2011年東北地震前に解明できなかったことは大変、残念に思います。
その一方、将来(いつかは分かりませんが)、東北地震に匹敵する巨大地震が必ず発生します。その時、可能な限り被害を低減できるよう、研究に取り組み続けることが重要であると考えます。

質問: どのようにバリアになり、どのように前兆になるのか、メカニズムについて現在のイメージを教えてください。

西川先生回答:
バリアのメカニズムについて:
諸説ありますが、「スロー地震多発地帯の断層は、断層の滑りが高速になると急激に摩擦抵抗が増大する性質を持つ」という説が有力です。巨大地震の高速な滑りがスロー地震多発地帯に侵入すると、断層の摩擦抵抗が急激に増大し、巨大地震のすべりにブレーキをかけるのです。

前兆のメカニズムについて:
主に2つの仮説があります。
1つ目は、スロー地震が巨大地震を誘発しているという説です。スロー地震が発生すると周囲の断層にほんの少し余計な力がかかります。この力が巨大地震発生領域に蓄積していき、ついに限界に達すると巨大地震が誘発されてしまいます。
2つ目は、巨大地震断層のすべり始め直後のゆっくりとした断層すべりが「スロー地震」として観測されているという説です。どんな断層も突然高速にすべりだすことはできません。すべりが加速するにはある程度の時間が必要です。十分に加速する前のゆっくりとした断層すべりは、普段観測されるスロー地震と見分けがつかないでしょう。いつものスロー地震だと思っていたら、実は巨大地震の断層すべりの加速段階だったというわけです。

質問: 地震を予測した上で、予防するという研究はあるのでしょうか?

西川先生回答:
地震を予防することは、地震を予測する以上に難しいことだと思います。
地震は、地球が溜め込んだ膨大なエネルギーを一気に解放する現象です。例えば、東北地震で解放されたエネルギーは水素爆弾10個分以上に相当します。地震を予防するには、この膨大なエネルギーを非常にゆっくり解放する必要がありますが、そのような技術は現在ありませんしそのような研究もされていないかと思います。

質問: 
スロー地震が起こる地殻と他の地殻との違いは何ですか?

西川先生回答:
これは最先端の研究テーマです。最新の研究成果では、スロー地震が起こる地殻は他の地殻と比べて、水を豊富に含むことが指摘されています。なぜ豊富に水があるとスロー地震が発生するのかは諸説あり、まだわかっていません。

質問: スロー地震が大地震の予兆になった具体例を教えてください。

西川先生回答:
2011年東北地震一ヶ月前にも、東北地震すべり領域"内部"でスロー地震が発生していたことが知られています。
今回の講演でご紹介した通り、日本海溝では、普段、東北地震すべり領域"外部"(南北)でスロー地震が頻繁に発生します。ですので、すべり領域"内部"で発生したこの前兆スロー地震は今から考えればとても珍しい現象です。この"珍しさ"が前兆スロー地震とそうでないスロー地震を見極める鍵かもしれないと私は考えています。このほかにも、チリ、メキシコ、ニュージーランドなどでスロー地震が大地震の前兆となった例が報告されています。

質問: スロー地震領域の「挟み方」が東北と南海トラフで異なるわけですが、挟み方が違っても、スロー地震領域の果たす役割が同じになると予測できるのでしょうか。

西川先生回答:

断層すべりにおける役割(巨大地震発生可能領域または巨大地震に対するバリア)は断層面上の物質的・摩擦的性質で決まっていると考えられています。断層面上の物質的・摩擦的性質は「挟み方」のような幾何学的配置とは直接は関係ないので、「挟み方」によらず同じ役割を果たすと考えられます。

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