コラム

  • 2021.05.26
  • コラム

翻訳は世界平和につながる:長尾真先生のご冥福をお祈りする

京都大学元総長、AAMT(アジア太平洋機械翻訳協会)創立者であり、第28回、第29回JTF翻訳祭でお世話になった長尾真先生が5月23日にご逝去された、と聞いた。ショックでまだ呆然としている。

私がJTF翻訳祭の会長として京都大学医学部併設の芝蘭会館で28回の翻訳祭を開催した際に乾杯のご発声をいただいた。懇親会に遅れるとの知らせを受け、おかしいな、とは思ったが、この日の内閣府で文化勲章の内示があったと後で知った。翌朝のニュースで知り、京都大学の黒橋先生のご講演の時に発表いただき、会場は喜びの祝賀ブームで会を終えることができた。この時のテーマは「時代が創る翻訳イノベーション in 関西」。機械翻訳、NMTの進化が翻訳業界を動かす、まさにそのタイミングで長尾先生に乾杯のお言葉をいただき、文化勲章につながったのだから、主催者として震えるほど感激したのをはっきり覚えている。

実は長尾先生には、その前の年に名古屋で開催された「MTサミット」の懇親会場で、ぶしつけにも、翻訳祭で乾杯のお言葉をいただきたい、と直接お願いしたら、手帳を確認されて、「いいよ」とおっしゃって下さった。その後は確認もせず、正直なところ、覚えてくださっているのかな、と不安もあったので、覚えてくださっていて、それも大感激だった。

翻訳祭の翌年のAAMT総会の懇親会のスピーチの中で、翻訳は世界平和につながる、とおっしゃった言葉が忘れられない。言語の壁で疑いや争いにつながるかもしれないが、誰もが平等に情報を得られれば、争いを避けることができるかもしれない。機械翻訳の進歩は世界平和に貢献する、と。手書き文字の認識方法を提案され、郵便番号読み取り装置につながったとも聞いた。自然言語、情報処理から機械翻訳開発に至るまで、情報の価値をここまでけん引されてきた長尾先生の功績をたたえ、心からご冥福を祈りたい。

第28回翻訳祭会議録 https://journal.jtf.jp/topics_list30/

アジア太平洋機械翻訳協会 https://aamt.info/

ページの先頭へ