News of the Week 5月22日
新型インフルエンザ発生
過去のパンデミックからH1N1型の次の動向を知る様々なヒント
インフルエンザ研究者たちに、新型インフルエンザ(ブタ由来インフルエンザ)の流行が今後どうなっていくと考えるか、聞いてみよう。すると、たいていは、推測を拒否する、ときっぱりした答えが返ってくる。しかし、他のインフルエンザウイルスに関する研究や過去のパンデミックの経緯が何らかの手がかりになるかと訊ねると、彼らには膨大な見識があるので、多くの過去の教訓はこれまで重要視されてきた定説を覆す、と言うだろう。
公衆衛生当局者は、ハリケーン監視官のように、今回の集団感染の原因となったA型インフルエンザウイルス、すなわち新型H1N1の速度や進路を予測しようとせねばならない。なぜなら彼らには、ワクチン、抗ウイルス薬、学校閉鎖のような軽減戦略をどれくらい積極的に推し進めるべきかという、高額費用を要する難しい決定を下す必要があるからだ。この新型ウイルスの挙動に関するデータが不明瞭なため、汎発性インフルエンザの季節性・地域性、新型ウイルスと従来型ウイルスの関係、さらに、この新型H1N1ウイルスの親(起源)であるブタのウイルスについて、研究陣は過去に手掛かりを求めている。
インフルエンザの未来を予測したい人達は、こう予測している。このH1N1はもうすぐ北半球を去ってより涼しい南方地域に行き、そこで数百万人もの感染者を出し、より強くなって、再び気温が下がる頃に北へ帰ってくるだろう。北半球では、第一波よりも大きな打撃を与える第二波の感染を起こすことになるだろうと。「これは起きることです、でもこのウイルスに関しては、みんな複数の可能性を考えておきたいのです」と、国際疾患監視協会(International Society for Disease Surveillance)の研究主任を務める疫学者かつ歴史学者のドナルド・オルソン氏は述べている。インフルエンザの季節性を裏付ける多くの証拠があるにもかかわらず、去年サイエンス誌(2008年4月18日号、p. 340)に掲載された別種のインフルエンザウイルスH3N2型についての入念な調査では、同ウイルスは通常東アジアや東南アジアで発生し、確かに北から南へと移動するが、再び北へ帰ってくることはまれであることが示された。テネシー州メンフィスにあるセントジュード小児研究病院(St. Jude Children’s Research Hospital)のウイルス学者ロバート・ウェブスターは、今回の新型H1N1が北半球における冬の終わりを少しも意に介してないことはすでに明らかだ、と言い添えている。「この時期にヒトの間で感染するとは季節的には遅すぎますが、実際に今感染しています」とウェブスターは言う。「インフルエンザウイルスに規則を定めてやることはできません。いつでも破られます。ウイルスが規則を読んで、『まったく反対のことをやってやる』と言っているかのようです。」
1890年以降におこった4回のパンデミックについては、比較的良いデータがあり、それらすべての場合で異なる季節性パターンが示されている(図を参照)。最初のパンデミックの第二波で、ロンドンは1891年4月から6月の間に大打撃を受けた。かの悪名高き1918年のスペイン風邪では、第一波がコペンハーゲンで7月に起きている。1957年のアジア風邪の第一波は、9月に米国を襲った。「パンデミックをひきおこすインフルエンザウイルスは、正常な季節性なんておかまいなしです」と、ワシントンDCにあるジョージ・ワシントン大学のローン・シモンセンは結論付ける。この疫学者は、歴史上のパンデミックそれぞれについて詳細な研究をおこなっており、新型H1N1が今後数週間の間に北半球を去るかどうかさえ、疑問視している。「夏に感染の波が起きる可能性もあります」「今はまだ防御を解くべきではないという意見に賛成です」と言う。
アナーバーにあるミシガン大学公衆衛生学部の疫学者アーノルド・モントーは、1957年にインフルエンザが米国で表面化した際には、同様な北-南-北パターンが生じるかもしれないと多くの研究者が疑った、と言う。「当時の人々は、1918年の再現になるのではないかと恐れていました」と言い、また、その頃には飛行機による移動が普及していなかったことも指摘している。「だから、南半球に人を送って、--- 離陸後に集団発生するかどうか研究しようとしたのですが、ほとんどの国で発生しませんでした。」
1918年の悪夢のシナリオが再び繰り返されるのであれば、新型H1N1は第二波の際に破壊力を増す可能性がある。1918年のパンデミックでは、ウイルスは、遺伝的浮動というウイルスの突然変異を導くような過程を経たのではないかと、シモンセンらは疑っている。ロンドン帝国大学(Imperial College London)の数理疫学者であるニール・ファーガソンは、「もし今回のウイルスが北半球か南半球で一度でも大規模な流行を引き起こすことがあれば、非常に迅速な浮動がみられると予想されます」と語っている。
ニューヨーク市にあるマウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)のウイルス学者ピーター・パレーズは、新型H1N1による脅威を正しく評価しようとするなら、これまでのパンデミックのウイルス株で見つかった病原性に関わるタンパク質PB1-F2を今回のウイルスが持っていないという点に留意しておくべきだ、と言っている。「この点からも、今回のウイルスが多くの問題を引き起こすことはないだろうと思います」とパレーズは言う。今回の新型H1N1が完全に消滅する可能性もある。「この感染が続くかどうかは、五分五分でしょう」と予測している。
1つ心配なのは、この新型ウイルスが、再集合(reassortment)と呼ばれる過程で他のインフルエンザから遺伝子を獲得し、薬剤に対するより強い抵抗性や他の危険な特性を発現するようになることである。あるウイルス系統がどれくらい再集合を起こしやすいかについて評価する指標はないが、セントジュード小児研究病院でウェブスターの同僚であるウイルス学者リチャード・ウェビーによると、このH1N1の親ウイルスについてはよく研究されており、その結果、このウイルスが乱交雑の系統由来であることが示唆されているとのことだ。この新型ウイルスは、いわゆる三種再集合体(triple reassortant)といわれるように、ブタ、ヒト、トリのウイルスの遺伝子が混ざったものであり、1998年に初めて北米のブタから発見された。それ以降、ヒトの遺伝子がこれらのブタウイルスと再集合した3つの異なる実例が発見された、とウェビーは言っている。
しかしまたウェビーは、いい知らせとして、これまでに検出されたブタの三種再集合体はいずれもブタに重症を引き起こしてはいない、と言っている。このことは、新型H1N1の親と推測されているもう1つのウイルス、ユーラシア系ブタウイルスについても同様に言えることだ。「哺乳類の宿主の間で長い間進化し続けてきて、今回、新型ウイルスの親となったウイルスについては、われわれに十分な知識があります。なので、今後症状の増悪がみられるという確信は、まったくありません」とウェビーは言う。「このウイルスが北へ帰ってきて、第二波が起こるとは、あまり思いません。」
しかし結局のところ、今回の新型H1N1の次の動向について予測を立てるのは、むだな骨折りである。「インフルエンザについて一番予測可能なことは、それが予測不可能だということです」と疫学者モントーは警告する。「北米から何かが出てきて、最初にメキシコに飛び立ち、それから米国とカナダに行ってしまうなんて、いったい誰が思ったでしょうか?」
Past Pandemics Provide Mixed Clues to H1N1's Next Moves
Jon Cohen
http://www.sciencemag.org/cgi/content/summary/324/5930/996
Science Express 5月22日
2009年ヒトに伝播しているブタ由来インフルエンザウイルスA(H1N1)の抗原特性および遺伝子特性
北米系とユーラシア系の両方のブタに由来する遺伝子断片を独特な組み合わせで含有するA(H1N1)型ウイルスは、2009年4月に発見・同定され、それ以降、ヒト間での伝染が続いている。この2009年A(H1N1)型ウイルスと、その最も近縁のウイルスとの間に類似性がないことから、この遺伝子断片は、長期間にわたり検出されないまま伝播していたことが示唆される。またウイルスの遺伝的多様性が低いことから、ヒトへの導入は、類似したウイルスの導入が1回もしくは複数回起きたことが示唆される。現在のところ2009年 A(H1N1)型ウイルスには、ヒトへの適応が推定される分子マーカーは存在していない。このことから、これまでに認識されていない分子レベルの決定因子がヒト間における伝染の原因となっていることが示唆される。抗原性に関しては、このウイルスは均一であり、北米のブタA(H1N1)型に類似しているものの、季節性ヒトA(H1N1)型とは異なっている。
Antigenic and Genetic Characteristics of Swine-Origin 2009 A(H1N1) Influenza Viruses Circulating in Humans
Rebecca J. Garten, C. Todd Davis, Colin A. Russell, Bo Shu , Stephen Lindstrom, Amanda Balish, Wendy M. Sessions, Xiyan Xu, Eugene Skepner, Varough Deyde, Margaret Okomo-Adhiambo, Larisa Gubareva, John Barnes, Catherine B. Smith, Shannon L. Emery, Michael J. Hillman, Pierre Rivailler, James Smagala, Miranda de Graaf, David F. Burke, Ron A. M. Fouchier, Claudia Pappas, Celia M. Alpuche-Aranda, Hugo Lopez-Gatell, Hiram Olivera, Irma Lopez, Christopher A. Myers, Dennis Faix, Patrick J. Blair, Cindy Yu, Kimberly M. Keene, P. David Dotson Jr., David Boxrud, Anthony R. Sambol, Syed H. Abid, Kirsten St. George, Tammy Bannerman, Amanda L. Moore, David J. Stringer, Patricia Blevins, Gail J. Demmler-Harrison, Michele Ginsberg, Paula Kriner, Steve Waterman, Sandra Smole, Hugo F. Guevara, Edward A. Belongia, Patricia A. Clark, Sara T. Beatrice, Ruben Donis, Jacqueline Katz, Lyn Finelli, Carolyn B. Bridges, Michael Shaw, Daniel B. Jernigan, Timothy M. Uyeki, Derek J. Smith, Alexander I. Klimov, Nancy J. Cox
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1176225
新型インフルエンザ特集1
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