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昔、日本は中国から文字を輸入しました。中国語では、漢字の語順でそれぞれの語の役割が決まります。日本語では、語順に明確な決まりがないため、ひらがなをつけて語の役割を決めます。ですから、漢字を輸入した後、日本人は、漢文の読み方に苦労しました。

今回は、エレガンスのお話です。
英文法では、時計上の現時点が時の起点になっています("一般論として"、以下、同じ)。2011年3月9日を起点として過去、現在、末来があり、ある事象については、それが起こった時を現在からながめて、過去完了、過去進行、現在完了、現在進行、未来完了、未来進行といった細かな区分がなされます。英語の訳を英文法のみで行うと、過去形は「た」のみとなります。

関西では、美容整形外科の「ちょっとした勇気を持ってください」という優しい口調のTV CMがあります。個人的に違和感を覚えるCMですが、今回は、辞書訳を内容訳に変える勇気の大切さについてのお話です。

まずは、「なぜ句点」が問題となるのでしょう。理由として、次の3つが挙げられます。

  • 句点についての文法的規則はない。
  • 日本語は本来短いものであるが、英語には長文化するための装置がたくさんあり、訳した日本語が往々にして長くなる。
  • 句点の打ち方は訳者の自由裁量であり、基本は読み手への配慮である。

これは英訳でも和訳でも同じことですが、日本語と英語との言語体系の違いから、原文を全く同じ意味内容の表現に訳すことはまず不可能です。

よく訳が正確でないといった評価を下したり、下されたりしますが、"正確さ" が何を意味するのかは人によりまちまちです。
そこで提案したいのが、originality という捉え方です。

今回は主語の訳し方についてみてみましょう。
主語は「は」と訳すというのが学校文法の基本です。今回はその基本ルールである中学・高校英語からの脱却です。

今回はまず結論から。ひらがなの数は少ないほうがいい。

皆さんもご存知の通り、日本語における内容表現は基本的に漢字に拠っており、ひらがなは漢字を補完する役割を担っています。漢字は内容を体現(表意文字)しています。よって、その数が多いほど視覚的にも理解の助けとなります。

今回もいささか難しいお話です。
日本語文は、文を長くする装置がないため、多くの文はシンプルな構造をしています。

「Drug-X は、選択的阻害作用を持つ経口剤である。BBB増殖因子受容体とそのリガンドの結合により増殖シグナルを伝えているが、Drug-X はその BBB の選択的アンタゴニストであり、○○腫瘍に有効であると考えられる。このように Drug-X は、T細胞に選択的に作用するという新規作用機序を持つことから、既存薬とは異なる有効性および安全性のプロファイルをもつと期待される。」

このように日本語文は、「…は…である」「…は…であり…である」「…は…ではあるものの…である」など、単文か、途中の転調が一度ないし二度の簡単構文がほとんどです。
一方、英語はたくさんの情報を一文に入れ込むためいろんな長文装置が備わっています。


今回はいささか難しいお話です。
学校では、英語 S+V+O+C を日本語に訳すと「(主語)(目的語)(補語)(他動詞)する」と教わります。
自動詞でなく他動詞の場合、そのまま訳すと直訳であれ意訳であれ、動詞は末尾にきますから、「(動作)する」となります。
これでよい場合とそうでない場合があります。原文に忠実に訳すよう求められた場合は特に工夫する必要はありませんが、日本語として独立して読めるよう求められるとややこしくなります。

まずは一度ザッと訳し(1次訳)、その後、全体を読み下しつつ日本語としてオカシクない文章とします(2次訳)。この 2次訳は、原文を離れることですから、訳者にとっては勇気のいることですし、二度訳となるため時間もかかります。ただし、翻訳とはなにかを考えている訳者としては例え時間がかかっても是非心がけてほしいことです。

日本語動詞で多用される文末のカタチは be動詞で訳せる「である」と受身形の「される」です。一方、英語動詞で多い表現は do動詞「する」であり、medical writing では We が省略された受身形「される」も多用されます。
英文が be動詞であればそのまま訳せばよいでしょう。
Objective tumor response is a common endpoint in clinical trials to evaluate the efficacy of anti-cancer agents.
とあれば "腫瘍縮小効果は抗がん剤治療効果のエンドポイントである" のように。

日本文には受動の意味ではなくカタチだけの受身形があります。"…を目的に実施される試験である"、"…を示唆するものと考えられる"。これらは一種の謙譲表現であり、書かなくともよい表現ですから、訳す時、それらに引きずられないよう注意します。
受動ではあるが、自明であるため主語が省略される受身形もたくさんみられます。英語でも、主語が自明である場合には頻繁に受身形が使われます。一般論として英語は能動形が好ましいのですが、We が主語である場合は受身形で訳してなんら問題はありません。英語の受身形を訳す場合はそのまま受動の意味で訳す場合と "We/我々" を主語として能動の意味で訳す場合とがあります。

例:Baseline disease severity was assessed using the 17-item Hamilton Rating Scale for Depression.
  "ベースラインの重症度は Hamiltonうつ病評価尺度 17項目版により評価されている。"
  "ベースラインの重症度は Hamiltonうつ病評価尺度 17項目版を用いて評価した。"

いずれを採るかは場により適宜選択することになります。英語の受身は常に日本語でも受身に訳すものではないことさえ覚えておけばよいという意味です。

さて、特に注意が必要となるのは能動形の文です。直訳した場合、訳文が日本語として見られない表現となる場合です。英語と日本語では動詞の種類/数に違いがありますが、これは動詞の使い方に差のあることを示しています。ですから辞書訳した動詞が日本語として使用されない表現であると日本語のニュアンスとして違和感を与えることが少なくないのです。

例:The recent development of new classes of anti-cancer agents and progress in imaging technology have required new methodology to evaluate response to treatment.
  "…の発達が新たな方法論を必要とした。"

例:Adding plaque and carotid intima-media thickness (CIMT) to traditional risk factors (TRF) improved coronary heart disease (CHD) risk prediction in the risk assessment study.
  "リスク評価試験では、プラークと CIMT の TRF との併用 CHDリスク予測を向上させた。"

直訳でも違和感のない場合はそのままの訳で構いません。しかし、"…を必要とした""…を向上させた"といった動詞で終わる文は、Native Japanese にこだわりのあるクライアントにとって違和感のある文体であればリライトしなければならなくなります。

対処法ですが、お勧めはふたつあり、そのひとつは動詞を名詞化することです。"方法論の必要性"、"リスク予測を向上"と名詞化し、それからリライトするのです。なんとなく書けそうな気がしませんか。

例:atients who responded to the drug
  薬剤により改善する患者
  vs.
  改善例/有効例

例:The IRB at each site approved the study protocol before the study began. 
  IRB は…を承認した
  vs.
  IRB の承認は…に得られた。

もうひとつのお勧めは、"である"形の使用です。"である"は日本語の一番おちつく文型です。

例:The ANCOVA model included baseline… 
  ANCOVAモデルにはベースライン値、…等を含めた
  vs.
  ANCOVAモデルに算入したのはベースライン値、…等である

例:All but 1 participant (n = 149) agreed to enter the double-blind continuation phase. … 
  1例以外の全被験者(n=149)が二重盲検治療継続期に進むことに同意した
  vs.
  二重盲検治療継続期へ進むことに同意したのは、1例を除く全被験者(n=149)である。
  あるいは、この1次訳から2次訳として、
  …進むことへの同意は、1例を除く全被験者(n=149)から得られた。

英語を辞書的に置換するのが翻訳ではありません。あくまで訳文が日本語として違和感のないものとします。上に挙げた対処法はあくまで例えばの話ですから自身のテクニックを考えてみて下さい。
ともあれ、そうした対処を1次訳として行った後、全体を見直ししつつ2次訳をすると読みやすい文章とすることができます。
 


文は語彙から成り立っていますが、日本語と英語の表記上の違いから一番訳者を悩ますものが日本語の助詞です。
英語は文中の位置によりそれぞれの語の役割を示していますが、日本語では位置よりも助詞とくっつくことにより意味を表します。そのため直訳による和訳ではたくさんの助詞が現れ、特に、単語数が多くなるとダラダラした文となります。

助詞は"自立語に付いて自立語同士の関係を表したり対象を表したりする"ものですが、特に体言に付く格助詞「を・に・が・の・と・にて・へ・して・から・より」は文意の中核を成す語彙に付く重要な助詞です。
格助詞の他にも2つのものを並立させる並立助詞、文や句の末尾に付く終助詞、文節末尾に付いて語調を整える間投助詞、副詞的に働く副助詞、付いた語の意味を強調する係助詞、文と文を接続する接続助詞などがありますが、困ったことに助詞については分類そのものも用法にも標準語として確立したものはありません。ですから深入りはできませんし、その使用法は個々人の日本語力にまかされることになります。

和訳ではまず直訳(一次訳)をし、続いて review しつつ二次訳を行いますよね。一次訳で完成することはないでしょう? 通常、一次訳では助詞の数が多くなり、とても読めたものではありません。名詞や形容詞の訳がたとえ訳する人全員で同じであったとしても、訳者それぞれの言語感覚によりニュアンスは様々となります。つまり、スラスラ読める文章とするには助詞に対する感性が大きく関わってくるのです。

例をみてみましょう。

These findings raise several obvious questions of clinical interest.

「これらの知見からいくつか明らか臨床的興味深い疑問生じる。」

この訳文には引っ掛かりがあります。「に」の重なりも含め助詞のリズムをとりづらく、どこを修飾しているか分かりにくいこと、「知見から明らか」ではないようだし、「明らかに興味深い」なのか「明らかに生じる」なのか、また、「興味深い疑問」という聞かない表現があるなど、一度読んだだけでは分かりにくいのです。

同じ community language を使う者同士では、誰しも似たようなパターン(文型)で作文しているものです。ですから、読みながら次にくる語彙を予測しています。その予測と違うとウン?となるのです。これが、直訳がオールマイティでない理由です。

まずは、基本的に、助詞の連続は「の」を除いてしないことです。リライトのコツは語彙の括り方です。
「臨床的に興味深い疑問」ではなく「臨床的に重要な問題点」と慣用表現へ二次訳しておき、「これらの知見からいくつか(臨床的重要問題点)が提起されてくる。」とすれば助詞「の-に-な-が」のリズムも一般的なものとなり理解しやすい文となります。

もうひとつ例。

A phase 2 study can target a wide-range of subject groups in order to obtain preliminary evidence of efficiency in patients with various stages of the disease to be targeted.

まずは直訳すると、「第II相試験予定される対象疾患における様々な病相の患者での有効性予備的証拠得るため幅広い患者集団対象とすることができる。」

英語は一文をなるべく長くしようとします。長い文は助詞の数が多くなり、増えれば増えるほど読み手は語彙の修飾-被修飾関係を考えながら読まなくてはいけません。当然、正しい・正しくないの問題ではなく、理解に時間がかかるというデメリットが生じます。そこで読みやすくするための二次訳を行います。まずは括りなおしです。

「(第II相試験は)(予定される対象疾患における様々な病相の患者での)(有効性の予備的証拠を得るため)(幅広い患者集団を対象とする)(ことができる。)」

訳には訳者の意図が入ります。それは文の末尾で決まるのですが、ここでは次の2文型が可能です。

(1)「第II相試験は幅広い患者集団を対象とする試験である。」
(2)「第II相試験は有効性の予備的証拠を得るための試験である。」

この2文型にあわせてリライトすれば、
(1)「(第II相試験とは)、(標的疾患に対する有効性のエビデンスを予備的に得るため)(様々な病相を示す患者を幅広く対象)とする試験である。」
または、
(2)「(第II相試験とは)、(様々な病相を示す標的疾患患者を幅広く対象とし)(有効性についての予備的エビデンスを得るための)試験である。」となります。

やり方としては、以上のように意味的に括れる内容をグループ化すると、各グループの末尾がひとつの区切りを示す助詞で終わることになります(は-ため-とする-である;は-とし-ための-である)。これにより意味の区分が明確となり、文構造が簡易化され、助詞の数を削減できます。

なお、文の終わり方(末尾)は、続く文にどのような内容がきているかにより決まります。
以上をまとめると…

  • 助詞にも読み手が期待する順番がある。
  • 内容を括りグループ化する。
  • 結果として助詞の数を減らせる。


これらを可能にするためにも医学日本語文を(リズムをとりながら)たくさん読み、文型のデータベースを豊富にしていってください。