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ASCA

 第14回:読みやすさへの工夫 8(句点)

まずは、「なぜ句点」が問題となるのでしょう。理由として、次の3つが挙げられます。

  • 句点についての文法的規則はない。
  • 日本語は本来短いものであるが、英語には長文化するための装置がたくさんあり、訳した日本語が往々にして長くなる。
  • 句点の打ち方は訳者の自由裁量であり、基本は読み手への配慮である。

元来、日本語には句読点というものはありませんでした。始まりは明治39年(1906)、文部省により「句読法」が作成されてからです。しかし、日本語文法の議論によくみられる通り、改定を重ねつつも、なお(案)のまま今日に至っています。
とはいえ、役に立つものですから、まずは、そのまま拝借しましょう。

句読点の使い方
 ア) 文の中の言葉の切れ続きを明らかにする。(例、白い花と、葉の緑が目にしみる。
 イ)対等にならべる語句の間に使う。(例、アジア諸国との外交関係の緊密化と、経済策の再検討と、貿易の振興とが、現下の難問題である。)
 ウ)文頭におく接続詞や副詞のあとに使う。(例、しかし、真実は曲げられない。)
 エ)条件や限定を加える語句のあとに使う。(例、風が吹けば、花が散る。)
 オ)並列する語句が簡単なとき、条件・限定の語句が簡単なときは、使わない。

ア)でいう言葉の切れ・続きは、例文ほど簡単には見極めがつきません。
例:Alzheimer's disease (AD) is an age-related neurodegenerative disease that affects approximately 4.5 million people in the United States.
これを句点を打たずに訳すと、「アルツハイマー病(AD)は米国にて約450万人もの患者がいるとされる加齢性神経変性疾患である。」となります。読み手は読みにくいと感じます。読みにくい理由は簡単で、日本語は出ていく息の量が多い言語ですから、句点がなく、息継ぎがないと、軽い呼吸困難を引き起こすからです。読み手は自身で息継ぎをしなくてはならず、内容の理解が妨げられます。それは読み手に優しくありません。
この文にはthatがありますが、関係代名詞や接続詞が入っていて、修飾する文の単位が明確な場合は句点を入れてみます(で、続き具合をみます)。すると、「アルツハイマー病(AD)は、[米国にて約450万人もの患者がいるとされる]、加齢性神経変性疾患である。」となります。

もし、次の文章のように区切りのない長文であったら…
例:Alzheimer's disease (AD) is the most common neurodegenerative disorder characterized by progressive cognitive deficits and associated with the deposition of extracellular amyloid beta plaques in the brain.
「アルツハイマー病(AD)は進行性の認知機能障害を特徴とし脳内細胞表面へのアミロイドβ斑の沈着が関与している最も一般的な神経変性疾患である。」のように、区切りを入れないのはいけません。「アルツハイマー病(AD)は、[進行性の認知機能障害を特徴とし]、[脳内細胞表面へのアミロイドβ斑の沈着が関与している]、最も一般的な神経変性疾患である。」となるでしょう。この時、ふたつの[ ]は イ)の「対等にならべる語句」となります。また、「アルツハイマー病(AD)は、…、最も一般的な神経変性疾患である。」という関係が成立していることも句点により明快となります。

ウ)の文頭の接続詞または副詞の観点からも、「また、委員会は…」、「現在、治験は…」、「2000年以来、国内では…」など、面倒と思わず句点をいれましょう。この時、「現在の治験は…」、「2000年以来の国内では…」といった連続文としないこと。句点があることにより、「現在」や「2000年以来」を頭の中のから一時的に外すことができ、内容理解の助けとなります。

エ)は自明として、見過ごしがちなのが オ)です。「投与量は10mg/dayであった。」のような短文は、息継ぎも必要なく一気に読めますし、修飾・被修飾関係も明確ですから、句点を入れるとかえって目障りとなります。「以下に述べる結果に基づいて、25 mgを開始用量として選択した。」という場合も句点はなくてよいでしょう。短いですからね。また、[以下に述べる結果に基づいて]の「…いて」は、なお文が続くことを示しています。「…基づき、」だと句点が入っても構いません。同様に、「…を特徴として」と「…を特徴とし…、」では、続けるか切ってよいかの違いがニュアンス的にでてきます。さらに、次の例文も句点の打ち方を間違っている例です。
「報告対象となるのは、治験対象施設からの報告書に記載された、…に関連する感染症例のみです。」
このような場合は、「報告書中の…に関連する」のようにリフレーズし、読み手が意味の単位について考えなくて済むようにします。

これら以外の留意点として「は」があります。「は」の後には必ず句点を打つと思われていますが、case-by-caseが正解です。
「…は」と「…である。」との間にフレーズがなく、ストレートに繋がっていれば「は」の後の句点は、上の「投与量は10mg/dayであった。」のように不要です。

以上をまとめます。

  • 文が長い場合、適宜句点を入れ、読み手の視覚的、意味的理解の補助とする。
  • 句点までの長さは、息継ぎのし易さを基本とする。
  • 句点に基づくフレーズは論理的=意味的単位とする。

これらの3要件は、同時に成立することが望ましいと思います。

最後に、いささか古いのですが、「日本語相談2」(1990)の中で丸谷才一が次のようにまとめています。「筆者は、かなりのところは読者の自由な読み方に任せながら、しかしどうしても打つしかない箇所にテンを打ってゐる。その、どうしても打つしかない理由は、おそらく、休止の指示と論理の明確化の二つでせう。」