株式会社アスカコーポレーション - 医薬翻訳・英文校正・メディカルライティング ・通訳

ASCA

 第11回:読みやすさへの工夫 6(ひらがなの数)

今回はまず結論から。ひらがなの数は少ないほうがいい。

皆さんもご存知の通り、日本語における内容表現は基本的に漢字に拠っており、ひらがなは漢字を補完する役割を担っています。漢字は内容を体現(表意文字)しています。よって、その数が多いほど視覚的にも理解の助けとなります。

科学技術系論文と新聞や週刊誌を見比べてください。漢字とひらがなの密度に違いがあるでしょう。もし、漢字で書くところをひらがな表記すると、視点の置き所にうろたえが生じ、読んでいてもなんとなくもたついた感じとなります。また、速読にも支障を来すでしょう。
昔から研究論文は漢字主体であり、漢字密度の高さ=難解な感じが研究論文らしさに繋がっているという側面もあります。

ひらがなの数ですが、英語の前置詞、接続詞、代名詞であるwhichやthat等を直訳的に丁寧に訳すと多くなってしまいます。翻訳者はなるべく英語原稿に忠実であろうとします。しかし、日本語と英語は全く体質の違う言語ですから、日本語に訳す時には端折るといった気持でいないと、長い英語から長い日本語が生まれてき、読みづらい訳文なってしまいます。
例えば、よくみかける文章として、When a subject discontinued or was withdrawn,...を「被験者が治験を中止したまたは被験者の治験を中止させた場合、...」とすると訳は正しくとも、一気読みができません。
また、日本語を推敲するときに、例えば「繋がっているのかもしれません」を考えに考え、丁寧に表現したつもりで「繋がっていることもあるのかもしれません」としたら、かえって冗長感を生じてしまいます。

ひらがなは、主語や目的語といった文要素の単語の訳と違い、訳者がその場その場の言語感覚に基づき生み出すものです。よって、訳者は、その数が多くならないよう、medical community languageである医学日本語の文型をたくさん覚え基礎訳力を高めなくてはなりません。また、ひらがな表記に違和感を感じるだけのsensitivityを養うことです。

ひらがなが多くなる具体的な理由には、次の3つが考えられます。

(1)不要なひらがなが推敲・整理されていない。この場合、単純に削除するか、名詞主体の文へ変更します。

例文1:because that would require a legal acknowledgement that...
訳例)というのも、その理由は、
→ 改)"というのも"はredundantゆえ削除。

例文2:primary Axis II disorder
訳例)原発性II軸障害
→改)原発性II軸障害(連語/熟語として存在するかどうかを、検索して調べます)

例文3:The study design is summarized in the flow chart shown in Fig. 1. 
訳例)試験デザインを図1に示すフローチャートにまとめる
→改)試験のフローチャートは図1に示す。(訳例は直訳です。...shown in Fig. 1に対応する日本語本来の表現は何かを意識し集めておくと容易に"意訳"できます。)

例文4:their prednisone dose was reduced by 50% for 3 days.
訳例)用量は3日にわたり半減させていった
→改)用量は3日で半減させた。

(2)医学日本語でなく口語的表現が使用されている。この場合、漢字化によりひらがなの数を削減。(口語表現か文章表現かについてのあまり意識されていない気がします。日頃の注意力と自己訓練が必要です。)

例文5:the relapse rate for children with JMML may be as high as 50%
訳例)小児での再発率が50%にものぼることがある
→改)再発率が50%に達する可能性もある。

例文6:an unexpected finding was...
訳例)予期しなかったこととして
→改)予期せぬ症状/知見/結果として

(3)訳文型が複雑なため修飾・被修飾関係が入り組んでいる。この場合、原文から離れリフレーズします。原文の構造に忠実であることと読みやすい文章とは常にイコールではありません。
英語は一文になるべく多くの情報を入れようとするということはこれまでにも述べています。つらつらと訳すとひらがな(特に助詞)の多いダラダラ文となりかねません。下記の改定文のように意味の塊(フレーズ)を意識して訳すと、簡単に簡潔な文を書くことができます。

例文7:A further possible explanation for the transient worsening of the condition of the subjects after re-randomization in the continuation period is the occurrence of adverse events associated with the discontinuation of the study drug in patients who were randomized to placebo.
訳例)試験継続期無作為割付後の被験者の状態が一過性悪化した理由としてはこの他、プラセボ群における治験薬投与の中止に関連する有害事象の発現が考えられるであろう。(助詞「に」が多いため修飾・被修飾関係が捉えにくい)
→改)(試験継続期の無作為割付後)、(プラセボ群の被験者の状態が一過性に悪化した理由のひとつとして)、(治験薬の中止による有害事象の発現が考えられる)。

例文8: There were no clinically significant mean changes in blood pressure or heart rate between baseline and the end-point in any of the groups in any of the study phases.
訳例)いずれの群・試験期においても、血圧および心拍数のベースラインからエンドポイントまでの臨床的に意義のある平均変化は認められなかった。
→改)(いずれの群または試験期においても)(ベースラインからエンドポイントに至る期間の)(血圧および心拍数の平均値に)(臨床的に意義ある変化は認められなかった)。

ひらがなは語や句がその他の語や句とどのような位置関係にあるかを示すものです。しかし、実際に使われる種類は案外と少ないものです。よって、頻用される「は、が、を、の、に、と」が何と何の関係をどのように規定しているかが一読して分かる文章でなくてはなりません。

たかがひらがな、されどひらがな。ひらがなは訳者の責任です。