株式会社アスカコーポレーション - 医薬翻訳・英文校正・メディカルライティング ・通訳

ASCA

 第9回:読みやすさへの工夫 4(文末動詞の工夫)


今回はいささか難しいお話です。
学校では、英語 S+V+O+C を日本語に訳すと「(主語)(目的語)(補語)(他動詞)する」と教わります。
自動詞でなく他動詞の場合、そのまま訳すと直訳であれ意訳であれ、動詞は末尾にきますから、「(動作)する」となります。
これでよい場合とそうでない場合があります。原文に忠実に訳すよう求められた場合は特に工夫する必要はありませんが、日本語として独立して読めるよう求められるとややこしくなります。

まずは一度ザッと訳し(1次訳)、その後、全体を読み下しつつ日本語としてオカシクない文章とします(2次訳)。この 2次訳は、原文を離れることですから、訳者にとっては勇気のいることですし、二度訳となるため時間もかかります。ただし、翻訳とはなにかを考えている訳者としては例え時間がかかっても是非心がけてほしいことです。

日本語動詞で多用される文末のカタチは be動詞で訳せる「である」と受身形の「される」です。一方、英語動詞で多い表現は do動詞「する」であり、medical writing では We が省略された受身形「される」も多用されます。
英文が be動詞であればそのまま訳せばよいでしょう。
Objective tumor response is a common endpoint in clinical trials to evaluate the efficacy of anti-cancer agents.
とあれば "腫瘍縮小効果は抗がん剤治療効果のエンドポイントである" のように。

日本文には受動の意味ではなくカタチだけの受身形があります。"…を目的に実施される試験である"、"…を示唆するものと考えられる"。これらは一種の謙譲表現であり、書かなくともよい表現ですから、訳す時、それらに引きずられないよう注意します。
受動ではあるが、自明であるため主語が省略される受身形もたくさんみられます。英語でも、主語が自明である場合には頻繁に受身形が使われます。一般論として英語は能動形が好ましいのですが、We が主語である場合は受身形で訳してなんら問題はありません。英語の受身形を訳す場合はそのまま受動の意味で訳す場合と "We/我々" を主語として能動の意味で訳す場合とがあります。

例:Baseline disease severity was assessed using the 17-item Hamilton Rating Scale for Depression.
  "ベースラインの重症度は Hamiltonうつ病評価尺度 17項目版により評価されている。"
  "ベースラインの重症度は Hamiltonうつ病評価尺度 17項目版を用いて評価した。"

いずれを採るかは場により適宜選択することになります。英語の受身は常に日本語でも受身に訳すものではないことさえ覚えておけばよいという意味です。

さて、特に注意が必要となるのは能動形の文です。直訳した場合、訳文が日本語として見られない表現となる場合です。英語と日本語では動詞の種類/数に違いがありますが、これは動詞の使い方に差のあることを示しています。ですから辞書訳した動詞が日本語として使用されない表現であると日本語のニュアンスとして違和感を与えることが少なくないのです。

例:The recent development of new classes of anti-cancer agents and progress in imaging technology have required new methodology to evaluate response to treatment.
  "…の発達が新たな方法論を必要とした。"

例:Adding plaque and carotid intima-media thickness (CIMT) to traditional risk factors (TRF) improved coronary heart disease (CHD) risk prediction in the risk assessment study.
  "リスク評価試験では、プラークと CIMT の TRF との併用 CHDリスク予測を向上させた。"

直訳でも違和感のない場合はそのままの訳で構いません。しかし、"…を必要とした""…を向上させた"といった動詞で終わる文は、Native Japanese にこだわりのあるクライアントにとって違和感のある文体であればリライトしなければならなくなります。

対処法ですが、お勧めはふたつあり、そのひとつは動詞を名詞化することです。"方法論の必要性"、"リスク予測を向上"と名詞化し、それからリライトするのです。なんとなく書けそうな気がしませんか。

例:atients who responded to the drug
  薬剤により改善する患者
  vs.
  改善例/有効例

例:The IRB at each site approved the study protocol before the study began. 
  IRB は…を承認した
  vs.
  IRB の承認は…に得られた。

もうひとつのお勧めは、"である"形の使用です。"である"は日本語の一番おちつく文型です。

例:The ANCOVA model included baseline… 
  ANCOVAモデルにはベースライン値、…等を含めた
  vs.
  ANCOVAモデルに算入したのはベースライン値、…等である

例:All but 1 participant (n = 149) agreed to enter the double-blind continuation phase. … 
  1例以外の全被験者(n=149)が二重盲検治療継続期に進むことに同意した
  vs.
  二重盲検治療継続期へ進むことに同意したのは、1例を除く全被験者(n=149)である。
  あるいは、この1次訳から2次訳として、
  …進むことへの同意は、1例を除く全被験者(n=149)から得られた。

英語を辞書的に置換するのが翻訳ではありません。あくまで訳文が日本語として違和感のないものとします。上に挙げた対処法はあくまで例えばの話ですから自身のテクニックを考えてみて下さい。
ともあれ、そうした対処を1次訳として行った後、全体を見直ししつつ2次訳をすると読みやすい文章とすることができます。