株式会社アスカコーポレーション - 医薬翻訳・英文校正・メディカルライティング ・通訳

ASCA

 第8回:読みやすさへの工夫 3(てにおは助詞)


文は語彙から成り立っていますが、日本語と英語の表記上の違いから一番訳者を悩ますものが日本語の助詞です。
英語は文中の位置によりそれぞれの語の役割を示していますが、日本語では位置よりも助詞とくっつくことにより意味を表します。そのため直訳による和訳ではたくさんの助詞が現れ、特に、単語数が多くなるとダラダラした文となります。

助詞は"自立語に付いて自立語同士の関係を表したり対象を表したりする"ものですが、特に体言に付く格助詞「を・に・が・の・と・にて・へ・して・から・より」は文意の中核を成す語彙に付く重要な助詞です。
格助詞の他にも2つのものを並立させる並立助詞、文や句の末尾に付く終助詞、文節末尾に付いて語調を整える間投助詞、副詞的に働く副助詞、付いた語の意味を強調する係助詞、文と文を接続する接続助詞などがありますが、困ったことに助詞については分類そのものも用法にも標準語として確立したものはありません。ですから深入りはできませんし、その使用法は個々人の日本語力にまかされることになります。

和訳ではまず直訳(一次訳)をし、続いて review しつつ二次訳を行いますよね。一次訳で完成することはないでしょう? 通常、一次訳では助詞の数が多くなり、とても読めたものではありません。名詞や形容詞の訳がたとえ訳する人全員で同じであったとしても、訳者それぞれの言語感覚によりニュアンスは様々となります。つまり、スラスラ読める文章とするには助詞に対する感性が大きく関わってくるのです。

例をみてみましょう。

These findings raise several obvious questions of clinical interest.

「これらの知見からいくつか明らか臨床的興味深い疑問生じる。」

この訳文には引っ掛かりがあります。「に」の重なりも含め助詞のリズムをとりづらく、どこを修飾しているか分かりにくいこと、「知見から明らか」ではないようだし、「明らかに興味深い」なのか「明らかに生じる」なのか、また、「興味深い疑問」という聞かない表現があるなど、一度読んだだけでは分かりにくいのです。

同じ community language を使う者同士では、誰しも似たようなパターン(文型)で作文しているものです。ですから、読みながら次にくる語彙を予測しています。その予測と違うとウン?となるのです。これが、直訳がオールマイティでない理由です。

まずは、基本的に、助詞の連続は「の」を除いてしないことです。リライトのコツは語彙の括り方です。
「臨床的に興味深い疑問」ではなく「臨床的に重要な問題点」と慣用表現へ二次訳しておき、「これらの知見からいくつか(臨床的重要問題点)が提起されてくる。」とすれば助詞「の?に?な?が」のリズムも一般的なものとなり理解しやすい文となります。

もうひとつ例。

A phase 2 study can target a wide-range of subject groups in order to obtain preliminary evidence of efficiency in patients with various stages of the disease to be targeted.

まずは直訳すると、「第II相試験予定される対象疾患における様々な病相の患者での有効性予備的証拠得るため幅広い患者集団対象とすることができる。」

英語は一文をなるべく長くしようとします。長い文は助詞の数が多くなり、増えれば増えるほど読み手は語彙の修飾?被修飾関係を考えながら読まなくてはいけません。当然、正しい・正しくないの問題ではなく、理解に時間がかかるというデメリットが生じます。そこで読みやすくするための二次訳を行います。まずは括りなおしです。

「(第II相試験は)(予定される対象疾患における様々な病相の患者での)(有効性の予備的証拠を得るため)(幅広い患者集団を対象とする)(ことができる。)」

訳には訳者の意図が入ります。それは文の末尾で決まるのですが、ここでは次の2文型が可能です。

(1)「第II相試験は幅広い患者集団を対象とする試験である。」
(2)「第II相試験は有効性の予備的証拠を得るための試験である。」

この2文型にあわせてリライトすれば、
(1)「(第II相試験とは)、(標的疾患に対する有効性のエビデンスを予備的に得るため)(様々な病相を示す患者を幅広く対象)とする試験である。」
または、
(2)「(第II相試験とは)、(様々な病相を示す標的疾患患者を幅広く対象とし)(有効性についての予備的エビデンスを得るための)試験である。」となります。

やり方としては、以上のように意味的に括れる内容をグループ化すると、各グループの末尾がひとつの区切りを示す助詞で終わることになります(は?ため?とする?である;は?とし?ための?である)。これにより意味の区分が明確となり、文構造が簡易化され、助詞の数を削減できます。

なお、文の終わり方(末尾)は、続く文にどのような内容がきているかにより決まります。
以上をまとめると…

  • 助詞にも読み手が期待する順番がある。
  • 内容を括りグループ化する。
  • 結果として助詞の数を減らせる。


これらを可能にするためにも医学日本語文を(リズムをとりながら)たくさん読み、文型のデータベースを豊富にしていってください。