第5回:Phrase(前置詞/副詞句)の位置


日本語の語順には、極端に言えば、動詞が末尾に来ることも含め、絶対的なルールがありません。つまり、助詞により区切られる意味の単位=フレーズは、文のどの位置にあっても言葉として成立することができます。

今回は、日本語の表記順に英訳すると意味があいまいになるphraseの位置についてのお話しです。

翻訳をされている方々の印象として、主語から始まる英語を日本語に訳しているせいか、日本語も "は"、"が" で始まると思われている方も多いことでしょう。しかし、日本語では、主語が "は"、"が" 以外の表現でなされたていたり、省略されたりするため、文の開始はバラエティに富んだものとなっています。例えば、"近年、日本では..."、"化学療法の進歩に伴い..."、"本治験の結果に関連して..." など後にどのような内容が続くのかピリオドまで読まないと分らない文が結構あります。これは、日本語が文全体を読んだ後に解釈するという特徴からきています。つまり、文頭にこようが、文中にこようが意味に影響がないのです。

しかし、原稿そのままの語順で訳すと、英語文の開始に前置詞/副詞句がくることになります。そして、その phrase がどこを修飾するのかは読み手が考えなくてはならなくなり、英語で大切な "accurate writing" を損なわれることにもなります。

(例1)「発現した有害事象については,治験終了時に回復又は軽快していない場合,治験終了後も可能な限り追跡調査を行った。」
(訳例)Regarding adverse events occurred, when patients did not recover or failed to substantially improve by the end of the study, they were followed as far as possible even after study completion. (※意図的に訳しています。以下、同じ)

Regarding が浮いてしまっているのが分るでしょうか。ちなみに、Regarding adverse events の表現でサイト検索し、文のどの位置にあるかを確認してみてください。勿論、先頭もあります。しかし、本来、文中/文末に書かれるものであることが理解できます。
もし、次のように、Prior to the start of the study, が文全体を修飾しているのであれば先頭にきても問題はありません。

(例2)「試験開始に先立ち、試験責任医師は、被験者となるべき者に下記の内容について、試験責任医師が作成し、試験審査委員会の承認を受けた説明文書および同意文書に基づいた説明を十分に行ない、患者に説明文書を手渡さなくてはならない。」
Prior to the start of the study, the investigator will explain details of the clinical trial to each prospective subject in accordance with a document to be used for explanation of study ("written information") and consent form approved beforehand by the IRB, obtain his or her informed consent in writing, and provide a copy of the signed and dated consent form to the person signing consent.

しかし、直訳により問題となる前置詞/副詞句が文の先頭にくる例は山ほどあります。

(例3)「日本では、...の報告例が少ないため、今回、小規模な試験を行なった。」
In Japan, in view of a small number of reports, a survey was carried out to establish an early recognition and detection of increased cases of communicable diseases and a small-scale trial was conducted to obtain supporting evidences that must include:

この場合、In Japan, は全文を修飾する訳となっていますが、著者の意図として、in Japan は a survey のみに掛かるものです。この字面訳では、読み手が誤った理解をしてしまう可能性があります。

(例4)「プラセボ群と比較し、被験薬群での脱落例は少なく、...との結論が得られた。」
As compared to placebo group, significantly fewer patients withdrew from the Drug-X group (ranging from 36% to 38.6%) and it was concluded that ...

このように訳すと、読み手に対し compared と concluded との関係を解釈するよう求めることになります。文章として "accurate writing" ではありません。

他にも、In 2006, ...、Because...、Concerning... などと書き始めると、途中までがそうなのか、文末までなのか読み手は考えこむことになります。
会話の中で "Talking about...," といきなり言われたらやはり困りますよね。

対策は、考えれば分るだろうと言わなくて済むように翻訳することです。(例1)であれば、
Any adverse events that remained intolerable or were not substantially improved by the end of the study were followed even after study completion.
とでも訳し native check へ回すとよいでしょう。

また、語順通りに訳すとこうしたphraseが文中にくることもあります。

(例5)「試験の時期は同じでないが、地域社会を対象とした試験と比べても、死亡率に大きな違いは認められなかった。」
Although study periods were different, comparing with community-based studies, mortality rates were not too different.

この場合、comparing withの位置がよくありません。前後のいずれを修飾するのか読み手に考えることを求めてしまいます。
"考えれば分るだろう"はいけません。medical writers の責任として、一気に読み下せる文を書きましょう。

日本語で phrase の位置は定まったものではない。文の先頭にきた場合にそのままの表記順で英訳をすると文全体を修飾する。それでよいのかどうかを確認する、というのが今回のポイントです。