2010年3月アーカイブ

 
これまで、英語と日本語の相違点として語順と語尾を例としてあげてきましたが、文章が長い・短いということもその違いのひとつです。

英語には、考えを全て表出するという基本ルールがありますから、文を長くするため前置詞、副詞、接続詞、関係詞(関係代名詞、関係副詞、関係形容詞)等色々な"連結"装置が備わっています。

(例1)I guess that just proves that the things which make a biochemist happy are a little different than those which make a pharmacologist happy. (Biochemical Pharmacology 7:88-95, 1961)

これに対し、日本語では主に助詞・副詞が文延長の作用を担っています。
英語の装置は、その文法的機能が明確であり、修飾‐被修飾関係も明確であることから意味も明確となるのに対し、日本語の助詞・副詞は意味の解釈が訳者により様々となる可能性があります。

今回は、訳の上で誤りやすい日本語の末尾をみてみましょう。以下の例文はいずれもそれらしき(意図的な)作文です。

(例2) 濃縮した化合物溶液(エタノール溶液)とエタノール2.5 mLを混和した。但し技術的な問題があったため、実際の溶液濃度は200 mg/mLであった。
A concentrated ethanol solution of the compound (final concentration 75% v/v) was mixed with 2.5 mL of 99.5% reagent-grade ethanol. However, the actual concentration of the resultant solution was 200 mg/mL due to a technical error.

訳自体がどの程度正確かということはさておき、今回の問題は"但し"です。"但し"は however あるいは but と訳されることが多いのですが、文を "However," でつなぐことにより、前後の文がどのような関係として読み手にとられるかということです。シンプルに書くと、A was mixed with B. However, the actual concentration was 200 mg/mL. です。ここに however が必要かどうかという問いです。

however の意味は、nevertheless; yet; on the other hand; in spite of that: no matter how: in whatever manner ですから、前後の文にそうした関係がなくてはいけません。もし、前の文に "to prepare a 210 mg/mL solution" とでもなっていれば、"However, the actual concentration was 200 mg/mL." と "however," が必要です。しかし、前後に関連性がないのであればこの however はなくてもよいことになります。
つまり、訳した文が英語として成立するか否かを考える必要があります。もし、however 本来の意味が必要でないのなら however は消去してください。

(例3) 低用量群では、雄1例において投与後24時間目の血漿中濃度がNDであったため半減期は4例にて計算し、その値は6.78時間であった。
In the low-dose group, the plasma concentration was not obtained in one male at 24 hours postdose, but the mean half life for other four males was 6.78 hours.

あまり深く考えずに訳すとこうしたことも起こりえるという例です。"あったため"が but となっています。日本語から英語にすることに気は使われていても、完成した英語自体が成立しているかが考えられていません。訳す時に一文は一文に訳すものというとらわれがあると、こうした接続詞を使ってしまうことになります。"低用量群では、雄3例において投与後24時間目の血漿中濃度がNDであった。""半減期は7例にて計算した。その値は6.78時間であった。"といえるのであれば but や however は必要でなく、文を切ればスッキリします。日本語では、単に視点を変える時にも"でも"とか"しかし"が使われますが、but は前の内容を否定することが主な役目ですから、その使用には気をつけましょう。

(例4) 血漿中濃度を同一用量群の雌雄で比較すると、1 mg/kg群及び10 mg/kg群では、投与後30分で雌よりも雄で高値となり、投与後2時間では雄よりも雌で高値となった、AUC0-24は同等であった。
In a comparison between males and females in the same dose groups, the plasma concentrations in the 1- and 10-mg/kg dose groups 30 minutes after administration were higher in the males than in the females; whereas 2 hours after administration the concentrations were higher in the females than in the males. However, the AUC0-24 values were approximately the same between the males and females.

最も気をつけて欲しい接続詞が"が(~であるが、~したが)"です。学校では、"が"は"しかし"の意味だからbut又はhoweverと習っているかもしれません。しかし、そうとは限らないのです。この例では、"however, AUC0-24値は雌雄でほぼ同等であった"となっていますが、この場合の"however,"にどういう意味があるでしょうか。"が" は頻出するだけにhoweverと訳すには注意が必要です。必要か必要でないかよく考えてください。

もうひとつ気をつけてほしいのが"しかし、…であるため…である"の文型です。この時の"しかし"に深い意味のないことがあるからです。訳すとhowever, sinceとなりますが、次の例を見てみましょう。

(例5)先の試験で観察されたとおり、傾眠と悪心の発現率が高用量群よりも中用量群に高い傾向がみられた。しかし、これらの有害事象は他剤でも報告されており、問題はないと考える。
As was noted in the previous report of the product, the incidences of somnolence and nausea tended to be higher at the mid dose than at the high dose. However, since these adverse events are reported with other drugs in the same class, the events are not considered to be problematic.

この時、前の文と後ろの文との間に論理的一貫性があるかどうかをみます。そして、一貫していない場合には、however を削除できないか、あるいは内容そのものをリライトすべきか否かを考えます。

(例6) 第三相試験の対照薬として糖質ステロイドが考えられる。しかし、negative feedback effect による間脳-下垂体-副腎系の抑制が問題となる。
Possible comparator drug for the planned phase 3 clinical study of the study drug includes oral glucocorticosteroids. However, since glucocorticosteroids have a negative feedback effect on CRF and ACTH, it is considered impossible to induce serious adverse events associated with dysfunctions of the hypothalamic-pituitary-adrenal axis.

この場合の"However," は必要でしょうか。

"However, since…" 自体は native表現であり、問題はありません。但し、字面訳で however と訳すのではなく、前後の論理展開に注意し、必要性があるかどうかを考えるというのが今回のポイントです。