前回は日本語と英語の語順に焦点をあて、それらが根本的に違う構造を持っており、英訳に際しては英語の構文に当てはめて考えなければならないと言う話でした。
今回はそこからもう一歩踏み込んで、日本語の語尾の処理について説明します。翻訳文が nativeな表現にならない(J-Eng となる)理由のひとつに、この語尾の処理が不適切であることがあげられるためです。
日本語の語尾の基本形は「...である」で、気がつきにくいかもしれませんが、多くの文が「...である」またはその変形で終了しています。さらに、医学日本語では主体が多くの場合"我々"ですから、主語が表記されない「...(名詞型)する」も基本的な形となっています。
こうした語尾に来る動詞の処理を誤るとどうなるか。これらの動詞の使用例としてプロトタイプの原稿をみてみましょう。
(例1) (目的)「本邦では...を検証した報告が少ないため、本試験では...を検討した。また、薬剤Xの有効性と安全性を評価するとともに、背景因子を検討することにより、別の治療が必要となる予測因子についても検討した。」
(例2) (方法)「患者250例をプロスペクティブに組入れ、QOLスコアにより自覚症状を評価した。投与前の状態に基づき対象患者をA群とB群に層別し、...を評価した。また、A群における症状改善例、効果不十分例における背景因子を比較検討した。
Bold部が訳文の動詞となる日本語です。字面訳をすると、次に示すように動詞が be(である)となる文か主語が We となる文となります。
(例3) Since there are few reports..., we investigated the prevalence of... We evaluated the efficacy and safety of DRUG-X and investigated demographic factors of patients and prognostic factors for...
(例4) We prospectively enrolled 250 patients with... in this study and assessed subjective symptoms based on QOL scores. We stratified the patients into Groups A and B and evaluated their... We compared clinical characteristics of responders and non-responders in Group A for...
元々、日本語は「名詞+する/なる」が基本ですから、英文法でいう他動詞が少なく、同じ末尾が繰り返し使われることになりますが、日本語では同じ表現の繰り返しを気にしません。
そうして訳された英語は、There と We が "頻出する" 文体となります。there や we の文はもちろんごく普通にあります。が、それらの多用は native 表現ではありません。
英語という言語は文の展開で読ませるものです。英語の主語にはテーマを示すという役割がありますから、テーマではない there や we が連続する文はマズイのです。また、there や we では、本来主語にくるべき語彙も述部に書かれるため、文構造が複雑となり理解しがたいものとなりがちです。
手元に文献があればみてください。英語は同じ表現の繰り返しを嫌いますから、主語は一文ずつ違っており、テーマが変化していくことがみてとれるはずです。
では、どのように主語の選択という問題に対処すればよいのでしょうか。
言うまでもなく、基本は常日頃基本文型をストックしておくことです。訳にあたってはじめて文型を探していては時間が足りなくなります。まめに主語と動詞の組み合わせを収集しておき、その記憶の箱から適切な表現を選び出すのです。様々な表現形を豊富に収集しておくことが、native な表現で書くことをより早く可能にしてくれます。
例えば、以下のように、文献から主語と動詞の組み合わせを集めておくのです。
(例5) Background: A randomized, double-blind, multicenter study was conducted to compare the anti-tumor activity of letrozole vs. tamoxifen in postmenopausal women with ER and/or PgR positive primary untreated breast cancer. Patients and methods: Three hundred thirty-seven post-menopausal women with ER and/or PgR positive primary untreated breast cancer were randomly assigned once daily treatment with either letrozole 2.5 mg or tamoxifen 20 mg for four months. At baseline none of the patients were considered to be candidates for breast-conserving surgery (BCS) and 14% of the patients were considered inoperable. The primary endpoint was to compare overall objective response (CR + PR) determined by clinical palpation. Secondary endpoints included overall objective response on ultrasound and mammography and the number of patients who qualified for BCS. Annals of Oncology 12:1527-1532,2001.
もうひとつの主語選択のアプローチは、サイトから文型を見つけることです。
もういちど例1の文に戻ってみましょう。冒頭の「本邦では...少ないため」のセンテンスで、there are を避けるため他の表現がないかを探してみます。主語をfew reportsと考えることができれば(それくらいのセンスは必要です)、"few reports have"で検索してみます(動詞をみつけたいので完了形を入力)。すると、以下のような表現がありました。
・Only a few reports have discussed MRI findings of...
・A few reports have described endoscopic repair of...
・Few reports have addressed the management of...
・Few reports have evaluated the relationship between...
・Few reports have shown detailed methods of...
・Few reports have verified the effect of...
これらの中から適切と思う組み合わせを選択すれば能動形の文章とすることができます。
続く文、「本試験では...を検討した。また、薬剤Xの有効性と安全性を評価するとともに、背景因子を検討することにより、別の治療が必要となる予測因子についても検討した。」は、字面訳をすると例3のような文章となりますから、"evaluated" と "efficacy and safety" の組み合わせからサイト検索し、the objective of this study was を見つけ、The primary objective of this study was to investigate the prevalence of... とすると続く文も書きやすくなります。そして、In addition, the efficacy and safety of DRUG-X were evaluated, and demographic factors of responders and non-responders were scrutinized to identify prognostic factors for... などとすれば、今回のテーマ、we を多用しない文章とすることができます。
We prospectively enrolled 250 patients with... も "prospectively""enrolled""patients" の組合せで検索すると以下のような文型が得られます。
・Consecutive patients with IBD were prospectively enrolled into a study of...
・Sixty-two patients with known ulcerative colitis were enrolled into a prospective cohort study
・Patients with MI were prospectively screened and enrolled from 19 US centers
今回のポイントは「である」、「層別し、...を評価した」とあっても there や we ではない主語で表現できないか考えること。テーマとなる語彙を主語としてサイト検索を行い、頻出する表現を定型的ととらえてnative表現に倣うと"らしい"翻訳をすることができるようになります。
日本語の主語は非人称の"である"か、人を主語とした動詞がメインですが、英語では非人称の名詞も動作を表す他動詞をとれるのです。つまり英語の主語はバラエティに富んでいるのです。それらを集めて、蓄積しておくようにしましょう。