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ASCA

 ~第7回~

ふーちゃんこと田村房子です。もうすぐ夏休みですね。夏休みの予定はたてられましたか?
さて、今月も「覚えてほしい」フレーズや用語を紹介します。サイエンス誌へのご質問も含め、多くのご意見をおまちしています。ご意見はこちらへ

▼今月のフレーズ

1. Onset and progression thus represent distinct disease phases

Onset and progression thus represent distinct disease phases defined by mutant action within different cell types to generate non?cell-autonomous killing of motor neurons; (SCIENCE 2 JUNE 2006; 1389)

発症と進行は明らかに異なる病期であり、この病期は異なる細胞群(ミクログリア)に発現する変異酵素の作用により規定される。

<解説>

representには、多くの意味がありますが、medical fieldでよく出てくるのは、...を表す(stand for)、象徴する(signify)、描く(depict)、...の典型となる、...に相当する、などでしょう。

しかし、そのいずれも今いちぴったりしないと感じる場合があります。例えば、上記の文のように。「...である」といいきった方が納得できます。Medlineでrepresentを検索すると、最初の方に同じ様な例文がでてきました。

--- that the wild-type JAK2 MPDs may represent another distinct entity with a related but different molecular etiology. (Semin Thromb Hemost. 2006 Jun;32(4):307-40)

2. challenge with pathogenic SIV

We immunized monkeys with plasmid DNA and replication-defective adenoviral vectors encoding SIV proteins and then challenged them with pathogenic SIV. (SCIENCE 9 JUNE 2006; 1530)

われわれは、複製能を欠損させたアデノウイルスベクターを用いて、SIVの蛋白質をコードするプラスミドDNAによりサルに免疫を与え、その後に病原性SIVを投与した

<解説>

"challenge" は、Medline PlusのMedical Dictionaryには、次のように説明してあります。

動詞としては、:to administer a physiological and especially an immunologic challenge to (an organism or cell)、名詞は: the process of provoking or testing physiological activity by exposure to a specific substance; especially : a test of immunity by exposure to an antigen after immunization against it

回の投与で感作し、2回目に投与する場合にchallengeを使います。a challenge doseという使い方もご存じでしょう。

3. identify Synthesis of Cytochrome c Oxidase 2 (SCO2)

We identify Synthesis of Cytochrome c Oxidase 2 (SCO2) as the downstream mediator of this effect in mice and human cancer cell lines. (SCIENCE 16 JUNE 2006; 1650)

マウスおよびヒトの癌細胞において、この効果のメディエーターとして、Synthesis of Cytochrome c Oxidase 2(SCO2)が、p53の下流にある事を発見した。

<解説>

メディエーターとしてidentify されるのは普通「もの」ですが、ここでは酵素の合成というプロセスであり、それをSCO2と略してあります。珍しいので印象に残りました。いや、これは合成でなく、統一体という、やはり「もの」なのですね。貴重なご指摘を受けました。この場をおかりしてお礼申し上げます。
前文で、p53が出てくるので、downstreamというのは、p53の下流とまではすぐ結びつきます。さらにas the downstream mediator of this effect=as the mediator of this effect, which acts downstream of p53と考えれば、上記の訳に納得できるではありませんか。

4. a parallel pathway

Here, we describe a parallel pathway, in which the pseudokinase Tribbles 3 (TRB3), whose abundance is increased during fasting, stimulates lipolysis by triggering the degradation of ACC in adipose tissue.(SCIENCE 23 JUNE 2006; 1763)

今回われわれは、この経路とは別に、絶食時に量が増加するTRB3という偽キナーゼが、脂肪組織でACCの分解を誘発することによって脂肪分解を促す経路について報告する。

<解説>

すぐ前の文で、アセチルコエンザイムAカルボキシラーゼ(ACC)がリン酸化され不活化される経路が説明されており、それとparallelな(平行する・類似した・同じ方向への)経路について報告する、という意味です。

一方、アブストラクトの最後にthese results demonstrate how phosphorylation and ubiquitination pathways converge on a key regulator of lipid metabolism to maintain energy homeostasis.とあり、2つの経路が1つの調節因子に収束する、ということですから、二つの文が矛盾しないようにparallelを訳さなくてはいけません。イメージが浮かべば、「別の経路」で十分と納得できますね。

5. an early anticodon-independent RNA-based mechanism for adding glutamine to the genetic code

tRNAGln recognition by indirect readout based on shape complementarity of the D loop suggests an early anticodon-independent RNA-based mechanism for adding glutamine to the genetic code. (SCIENCE 30 JUNE 2006; 950)

Dループの形状の相補性に基づく間接的な読み取り機構によるtRNAGlnの認識から、生命誕生の初期に、アンチコドンによらないRNAの認識に依存して、グルタミンが遺伝暗号に加えられたことが示唆された。

<解説>

A for B というのは、普通はBのためのAという意味ですが、見方を変えれば、Aが在ってBが起こるという順になります。to不定詞と同じように、for にも目的と結果を示す機能があるのですね。そこで、上記の文は「生命誕生の初期に、アンチコドンによらないRNAの認識に依存した機構が存在しており、それがグルタミンを遺伝暗号に加えた」ということになります。それをもっとなだらかに言い換えたのが訳文です。

early は何の初期だろうと模索していましたが、著者に言われてみれば「生命誕生の」初期で、納得できます。同号に"Food for Thought"というタイトルの論文がありました。食糧があって、思索が生れる---「食糧についての思索」でぴったり。拍手!

今月の翻訳教室はいかがでしたか? Science6月30日号に"砂漠アリの万歩計"が紹介されておりました。砂漠アリは体内に万歩計があるそうです。人間にも体内万歩計の機能がついていれば、ダイエットとは無縁の体になるかもしれませんね。その前にダイエットに対する意気込みかもしれませんが・・。