株式会社アスカコーポレーション - 医薬翻訳・英文校正・メディカルライティング ・通訳

ASCA

 ~第4回~

ふーちゃんこと田村房子です。
少しずつ暖かくなり、お花見の季節となりました。4月は新生活をスタートする人も
多いのではないでしょうか?気分を新たに翻訳教室もがんばっていきますので、よろしくお願いします。
さて、今月も「覚えてほしい」フレーズや用語を紹介します。サイエンス誌へのご質問も含め、多くのご意見をおまちしています。ご意見はこちらへ(science@asca-co.com)。

▼今月のフレーズ

1. chemical rescue

Chemical rescue of a mutant enzyme in living cells
(SCIENCE 3 MARCH 2006; 311, 1293)

突然変異した酵素を生細胞内で化学的に修復する

<解説>
このAbstractには、rescueが6回も使われています。chemical rescue 以外に、cellular rescue, rescue data, rescue approach など名詞で、また動詞としても--- the protein tyrosine kinase Src arginine-388 alanine (R388A) mutant can be rescued in live cells with the use of the small molecule imidazole. という具合です。この言葉が好きなのでしょう。

そういえば、レスキュー隊とか、レスキューという言葉はこのごろよく新聞紙上で見かけますね。救助する、救済する、救う、という意味ですが、化学的救済、化学的救助という置換的な訳語は見つけることができません。Medical Dictionaryには収載されておらず、Merriam-Webster Onlineでは、次のように説明されています。
to free from confinement, danger, or evil : SAVE, DELIVER: as a : to take (as a prisoner) forcibly from custody b : to recover (as a prize) by force c : to deliver (as a place under siege) by armed force

取り上げたAbstract内では言い換えとしてrestoration of catalytic activity と表現されているので、修復すると訳せばいいですね。Scienceのreportsのタイトルにrescueという単語がどれほど使われているのか、ちょっと検索してみました。この10年間に11件ほどあります。1年間に1件程度。今年は、この論文のタイトルですが、 その他は、rescue of dystrophic muscle, rescue of cardiac defectsなどです。タイトルと限定しなければ、ヒット数は300 件を超えます。mGluR1-rescue miceなんていうのもありました。結構使われている!「修復する」から、repair 以外にrescueを思い出せたら、今を生きている感じがしませんか?

2.to stimulate neurons beyond those activated by the single odorants

We propose that --- and that merging the receptor codes of two odorants provides novel combinations of receptor inputs that stimulate neurons beyond those activated by the single odorants (SCIENCE 10 MARCH 2006; 311, 1477)

2つの匂い物質の受容体コードを1つに合わせることにより、受容体入力の新たな組み合わせが生じる。その結果、単一の匂い物質によって活性化されるニューロン以外のニューロンを刺激すると考えられる。

<解説>
この文の前にHere, we report that binary odorant mixes stimulate cortical neurons that are not stimulated by their individual component odorants.とあるので、beyond は
「...以外の」と考えられますね。

ちなみにMerrian-Webster Online Dictionaryには前置詞のbeyondについて次のように説明されています。

1 : on or to the farther side of : at a greater distance than
2 a : out of the reach or sphere of b : in a degree or amount surpassing c : out of the comprehension of
3 : in addition to : BESIDES

3.the potential to infect humans and cause a pandemic

The spread of H5N1 avian influenza viruses (AIVs) from China to Europe has raised global concern about their potential to infect humans and cause a pandemic.(
SCIENCE 17 MARCH 2006. 311,1576)

H5N1鳥インフルエンザウイルス(AIV)が中国からヨーロッパへ広がったことによって、AIVがヒトに感染し世界的流行を引き起こす可能性がある)のではないかという懸念が、世界中に高まっている。

<解説>
鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染し世界的流行を引き起こす可能性ついての世界的な関心、つまり可能性があることへの懸念になりますね。「ついて」や「関して」というのは何にでも付けられる便利なことばですが、曖昧でもあります。できるだけ、省きたいですね。

ところでpotential=possibilityなのですが、high potential とは言えるけれど、high possibilityとは普通言わず、strong possibilityと言う、と英和辞典に書かれているので、ちょっとGoogle 検索をしてみました。【"high potential" とinfection】(188,000件で圧倒的多数です)、【"strong possibility" とinfection】(55,000件)、【"high possibility"とinfection】 (18,100件)。なるほど、なるほど、納得できますね。

4.oncolytic viral therapy

Here we have combined an immune effector cell population [cytokine-induced killer (CIK) cells] with an oncolytic viral therapy to achieve delivery to, and regression of, tumors in both immunodeficient and immunocompetent mouse models.SCIENCE 24 MARCH 2006:311.5768, 1780)

今回われわれは、免疫欠損マウスと免疫能のあるマウスを用いて、免疫エフェクター細胞集団[サイトカイン誘導性キラー(CIK)細胞]と腫瘍を退縮させるウイルス療法を組み合わせることにより、標的腫瘍へ効率よく到達し、腫瘍を縮小させることに成功した。

<解説>
oncolytic というのは、onco- [腫瘍(癌)]を-lytic [破壊・溶解]することですが、Google検索してみると、oncolytic viral therapy はウイルスを用いた癌治療
http://www.med.nagoya-u.ac.jp/surgery2/ virus_therapy/HF10_therapy.html)、あるいは単にウイルス療法(oncolytic viral therapy)
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/neurosurg/kenkyu/virus.html)、癌に対するウイルス療法と表記されています。thrombolytic therapyは血栓溶解療法であり、antibiotic 抗生剤に倣って、thrombolytic だけで血栓溶解薬とか。いつかoncolytic だけで癌治療薬なんてことになる?!

今月の翻訳教室はいかがでしたか?3月17日号にニュージーランドに生息する飛べないバッタの話が掲載されていました。重要な仕事をこなす働きもののバッタもいるのですね。
来月もお楽しみに!