株式会社アスカコーポレーション - 医薬翻訳・英文校正・メディカルライティング ・通訳

ASCA

 ~第1回~

初めまして。ASCAの田村房子です。米国サイエンス誌の英語を使って科学英語を勉強するコーナー「ふーちゃんの翻訳教室」を今年よりスタートさせます。大学ではペプチドの研究に携わっていましたが、翻訳の深みにはまり、以来、医薬翻訳が天職に。そして7年前、サイエンス日本語版(http://medical.tanabe.co.jp/)がスタートするにあたって担当することになり、メディカルを含めた科学の世界に毎週奮闘しています。
翻訳業務に携わっておられる方々や科学英語を書こうとする方々のために、長年の翻訳経験を踏まえて、生の科学英語を学習できる場を作りたいと思います。ここでは月に一回、サイエンスの最新アブストラクトから「使える」表現を集め、解説を加えます。異論反論もあるかもしれません。ご質問も含め、多くのご意見をおまちしています。ご意見はこちらへ

▼今月のフレーズ

1. <time-varying signals>

If these abnormalities persist after restoration of auditory nerve activity by a cochlear implant, the processing of time-varying signals such as speech would likely be impaired. (Science 2 December 2005: 1490-1492.より)

蝸牛に電極を埋め込む人工内耳によって聴神経の活動を回復させたとしても、このような異常が残存していれば、会話のような時間により変化するシグナルの処理能力は障害されてしまう可能性が高い。 

<解説>
最初、時間を変えるシグナル!? と読んで目を白黒させました。time-consuming は時間を浪費する、時間がかかる、ですが、time-varying はsignals that vary time ではなく、signals that vary with timeなのでしょう。time-varingのtimeは形容詞なのですね。確かにtimeには「時間の」という形容詞があります。

2. <undergo apotosis>

Oocytes containing unsynapsed chromosomes selectively undergo apoptosis even if a germline DNA damage checkpoint is inactivated. (Science 9 December 2005: 1683-1686.より)

生殖系列のDNA損傷チェックポイント機構が不活化されている場合でも、対合していない染色体を含む卵母細胞は、選択的にアポトーシスを受ける。

<解説>
患者が治療薬の投与を受ける場合はreceive a drug(あるいはbe given/administered a drug)ですが、手術を受ける場合はこのundergoを使います。
例えば次のように。Patients undergoing coronary angioplasty are given aspirin
(Science 19 April 2002 296: 474-475 より).

因みに<undergo>は、The American Heritage Dictionary of the English Language では、1. To pass through; experience: a house that is undergoing renovations. 2. To endure; suffer: undergo great hardship. と説明してあります。

3. <translesion synthesis>

Translesion synthesis (TLS) is the major pathway by which mammalian cells replicate across DNA lesions. (Science 16 December 2005: 1821-1824より)

損傷乗り越え合成(TLS)は、哺乳類の細胞がDNAの損傷を乗り越えて(回避して)複製を行なう主要な機構である。

<解説>
translesionという単語はまだ辞書には載っていないと思います。ステッドマン医学大辞典には、trans-の意味として、「1横切って,通って,...を超えて,を意味する接頭語.cis‐の対語.2遺伝学において,相同対の相対染色体上の2つの遺伝子の位置についていう...」と書いてあり、そこから損傷乗り越えという訳語が案出されて使用されているようです。アブストラクトの冒頭にちょうどわかりやすい説明がされていたので紹介します。transmembrane transport は膜を透過する輸送というのはよくご存じでしょう。

4. <precede retrieval>

Category-specific cortical activity precedes retrieval during memory search (Science 23 December 2005: 1963-1966.より)

記憶検索の過程では、カテゴリー特異的な皮質活動が記憶の回復に先立って生じる

<解説>
Aの次にBが起こる場合、A is followed by Bの構文がすぐに浮かんできますが、A precedes Bという表現も是非使いましょう。"the preceding day"は前日のこと。それで、precedingは自動詞と思っていませんか。他動詞もあるのです。ついでに、previous report とpreceding report はどう違うでしょう? "preceding report" はすぐ前の報告なので、大抵の場合、the preceding report。"previous" はそれより前のもの、これまでの報告を指すので、a previous report, the previous report, previous reports全てありです。

因みに<precede> はThe American Heritage Dictionary of the English Language では、他動詞の項に1. To come, exist, or occur before in time. 2. To come before in order or rank; surpass or outrank. 3. To be in a position in front of; go in advance of. 4. To preface と説明されています。

どうでしたか?科学なんてわからない、って方も、英語を書くという目的で読んでみてください。少しは科学英語に興味を持っていただければ幸いです。
来月も遊びに来てくださいね。田村