~第11回~

11月17日のサイエンス誌に「For Better or Worse, Money Encourages Self-Sufficiency」という記事が掲載されていました。お金には人を自立させる力があるという事を考えると、そうなのかもしれないなぁと思う記事でした。興味を持った方はサイエンスのウェブページでも紹介していますよ。
さて、今月も「ちょっと変わった」フレーズや用語を紹介します。サイエンス誌へのご質問も含め、多くのご意見をおまちしています。ご意見はコチラへ。

 

▼今月のフレーズ

1.   expose to

To address this issue directly, we exposed cohorts of CWD-naive deer to saliva, blood, or urine and feces from CWD-positive deer. (Science 6 OCTOBER 2006: 133)

この問題に直接取り組むため、われわれはCWD非感染シカのコホートをCWD陽性のシカの唾液、血液または尿・糞便曝露させた

<解説>

“expose O1 to O2” はO2にO1をさらす、ふれさせること。これは、皆さんよくご存じですね。
この名詞形は、exposure曝露。広辞苑には、曝露はさらされること、むき出しにすること、と書かれています。放射線曝露、日光曝露などはすんなり受け入れられますが、薬剤曝露は、うーんと唸って、しかし他の簡潔な言葉が浮かんできません。そもそも“exposure”は、Medline PlusMedical Dictionaryでどう説明されているのでしょうか。

1 : the fact or condition of being exposed as a : the condition of being unprotected especially from severe weather <the hiker died of exposure after becoming lost in the snowstorm>
b : the condition of being subject to some detrimental effect or harmful condition <repeated exposure to bronchial irritants> <risk exposure to the flu> <benign skin discolorations caused by sun exposure>

悪条件に付されることが主だったようですが、次第に、条件の良し悪しを訪わず、何らかの影響を受ける場合に使われてきたようです。Merriam Webster On-line Dictionary には、次のような例文がでています。

c : the condition of being subject to some effect or influence <risk exposure to the flu>
d : the condition of being at risk of financial loss <minimizes your exposure to market     fluctuations>; also : an amount at risk

SCIENCE (20 OCTOBER 2006: 435 )Exposure to Scientific Theories Affects Women’s Math Performance という論文が載っています。「科学理論に曝露」という言葉は、どうしても受け入れがたいところです。悩みはつきません。

2.  the function is abolished/ mutation abolishes function

The function of cyclin-dependent kinases 2 ((CDK2) is often abolished after DNA damage. (Science 13 OCTOBER 2006: 294)
サイクリン依存性キナーゼ2(cyclin-dependent kinase 2:CDK2)は、しばしばDNA損傷後には機能しなくなる

A somatic mutation in the chaperone gene Cosmc abolished function of a glycosyltransferase, --- (Science 13 OCTOBER 2006; 304)
体細胞のシャペロン遺伝子Cosmc一変異によって、糖転移酵素の機能が失われた

<解説>

論文中に“abolish”という言葉を見かけることはあまりありません。ちょっと奇異に感じて調べてみました。”SCIENCE” 誌のoriginal researchに限ると、これまでの126年間に2件しか現れていません。2000年と2004年です。しかし2006年10月13日号では、2件に出現し、頻度が上がりました。使用される言葉も時代と共に変化しますね。やがて、functional loss に代わって、functional abolitionもOKされるかもしれません。因みにMerriam Webster On-Line Dictionaryで“abolish は次のように説明されています。

1 : to end the observance or effect of : ANNUL <abolish a law> <abolish slavery>
2 : DESTROY

3.  permanent reservoir

Chromosomal integration enables human immunodeficiency virus (HIV) to establish a permanent reservoir that can be therapeutically suppressed but not eradicated.Science 20 OCTOBER 2006; 461

HIVは、ウイルスゲノムを宿主の染色体へインテグレーションする(組み込む)ことによって、治療で抑制されるが根絶はされない恒久的生存系を確立する

<解説>

Medline Plus Medical Dictionaryでは“reservoir”は、次のように説明されています。

1 : a space (as an enlargement of a vessel or the cavity of a glandular acinus) in which a body fluid is stored
2 :
an organism in which a parasite that is pathogenic for some other species lives and multiplies without damaging its host; also : a noneconomic organism within which a pathogen of economic or medical importance flourishes without regard to its pathogenicity for the reservoir <rats are reservoirs of plague> -- compare CARRIER 1a

2から、reservoir host (宿主)という言葉が浮かんできますが、論文アブストラクト中のthat以下を訳すと、「治療で抑制され、根絶はされない」ですから、この主語は宿主ではないですね。ここは、ウイルス自体にかかわるものでしょう。つまり、治療で抑制され、根絶はされない恒久的な生存状態(生存系)。これでどうでしょうか。

4.  to direct axonal targeting

Odorant Receptor?Derived cAMP Signals Direct Axonal Targeting
In mammals, odorant receptors (ORs) direct the axons of olfactory sensory neurons (OSNs) toward targets in the olfactory bulb.(Science 27 OCTOBER 2006; 657)


嗅覚受容体を介して生成されるcAMPシグナルが嗅覚神経の軸索投射を指令する
哺乳類では、嗅覚受容体が嗅神経細胞の軸索を嗅球内の特定の投射部位に誘導している(と考えられてきた)。

<解説>

嗅神経のaxonal targetingとは、軸索が嗅球上の特定の位置に収斂し、糸球体構造を形成して、神経接続を行うことで、軸索投射と言うようです。実際、この後の文では、the OR-instructed axonal projectionと言い換えてありました。また、axon guidanceという表現もありました。direct --- towardはinstruct、guide と言い換えられるのですね。このように一つの事象をいろいろと言い換えてあると、理解が深まり、英訳に使いたくなります。


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