株式会社アスカコーポレーション - 医薬翻訳・英文校正・メディカルライティング ・通訳

ASCA

 第1章 はじめに

  1. 方針
  2. 臨床研究の種類
  3. 論文の構成
  4. 論文作成の前に

方針

インターネット時代の英語医学論文作成術』の初版を出していただいた時から7年が経ちました。この間に世の中は大きく変貌し、医療における診断法や治療法も進歩するとともに関連文書の表現まで進化しています。また、本年3月には日本の臨床医学論文数が低下しているとの政府発表もありました。
このたび多くの読者の方々の声に押されて、文献のアップデートを兼ねつつ、臨床研究を中心とした続編を書かせていただきます。若手研究者への応援の一端になればうれしいことです。
主として用いる文献は、臨床部門であいかわらず名を馳せる非学会誌のThe New England Journal of Medicine(N Engl J Med)に加え、米国臨床腫瘍学会The American Society of Clinical Oncology (ASCO)の学会誌(official journal)であるJournal of Clinical Oncology (JCO)から選出したいと思います。

臨床研究の種類

臨床研究とは臨床現場で行われる研究のことですが、臨床試験や治験と同じでしょうか。
いいえ、臨床研究(clinical research)という概念が一番大きく、これを大別すると、ヒト(患者や健常者)の血液検体などの検査データや細胞の遺伝子情報などを用いる観察研究(observational study)と患者や健常者に直接介入して投薬や手術を行う介入研究(intervention study)に分けることができます。前者は狭義の臨床研究(clinical study)、後者は臨床試験(clinical study/trial)とよばれます。
Clinical studyを使う場合には、データ収集が後向き(retrospective study)なら臨床研究、前向き(prospective study)なら臨床試験をほぼ指しているようです。さらに臨床試験は、医師主導の臨床試験(予防、診断、治療など;clinical study/trial)と、新薬(未承認薬)開発のために企業主導で行う治験(治療試験;clinical trial)に分かれます。医師主導の臨床試験のうち、承認薬の適用拡大を目指す場合はclinical trial がよく用いられます。
この流れに並行して、癌の治療では、承認薬の併用による標準治療法の確立という目的が多くなったので、臨床試験=clinical trialと考える人もでてきました。
近年、臨床試験研究会Japan Society of Clinical Trials and Researchが発足したので、臨床試験・研究について詳しく知りたい方は(http:// http://www.j-sctr.org/index.html)へアクセスしてみてください。

概念としては、clinical research > clinical studies > clinical trialsと考えていいのではないでしょうか。用語や単語を日本語 versus英語で覚えるだけでなく、概念も合わせて覚えると、英文をブラッシュアップするとき、言い換えを行うときに役立ちますよ。

今回取り上げたいのは、若手研究者に身近な狭義の臨床研究(症例報告、アンケート調査を含める)と医師主導の臨床試験です。
国民の約半分が罹るといわれるがんに対するclinical trialは、当然中堅以上の研究陣が関わっていると思われるため、本稿の趣旨を逸脱しますが、知りたいというご要望も強いので、ちらりちらり覗いてみましょう。

次に論文の種類について調べてみます。N Engl J Medのホームページ(http://www.nejm.org/)にあるAuthor Center Resourcesの How To Determine Your Article Type ではOriginal research (original articles)、Clinical cases, Review articles、その他がリストアップされています。
原著論文、症例(報告)、総説などに相当しますが、まずは原著論文、その後Brief reportの症例報告を扱いたいと思います。

一方、JCO(http://jco.ascopubs.org/)ではOriginal reportという言葉が使われていて、Clinical trialに関する報告かそれ以外かが問われています。Clinical trial に関してはRegistrationが必要であり、詳細は後章で述べたいと思います。

論文の構成

現在、医学論文は世界的な統一規定(Uniform requirements)に沿って書くことが求められていますが、ご存知ですね。
ではUniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals: Writing and Editing for Biomedical Publication Guideline が掲載されているInternational Committee of Medical Journal Editors (ICMJE)(http://www.icmje.org/)にアクセスしてみましょう。
あれあれ、ICMJE Recommendations(Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing and Publication of Scholarly Work in Medical Journals)に名称が変わっている! さらにbiomedicalではなくmedicalに絞ってあります。2010年にリバイスされたようです。いや、2013年12月に再び更新されました!時代の流れは速い。アップデートを急がなくては。最新版に従って、随所で規定を更新します。

Preparing a Manuscript for Submission to a Medical Journal の項へ入り、ざっと読んでみると、original research の本文の構成はIMRAD (またはIMRaD)であることに変わりはありません。これは任意のフォーマットではなく、科学的発見の過程を反映する構造だからでしょう。
Introduction, Methods, Results, and Discussion (はじめに/緒言、方法、結果、考察/考案)の4セクション(節)からなります。さらに各節に小見出しをつけると読みやすくなります。

メタアナリシスや症例報告、総説の場合はIMRAD方式をとりません。医学誌の多くが、ICMJE Recommendationsに基づいて論文を作成することと明記しているので、ぜひ一度目を通してみてください。

投稿する論文は本文だけではありません。基本的には、Title(タイトル/表題)、Author information(著者[複数]の名前・所属など)、Abstract(要旨/抄録)、Text(本文)、Tables(表)、Figures(図)、Acknowledgements(謝辞)、References(参考文献)リストが一式として加わります。
Cover letter(カバーレター)やShort title、Key words、Word count(単語数)、図表の数、Conflict of interest statement(利益相反事項の表示)などが必要な場合もあります。
これらはすべて、各誌の投稿規定に述べられているので、まずJCOとN Engl J Medの最新の投稿規定を読んでみましょう。

論文作成の前に

投稿規定をチェック

投稿規定は学会誌と非学会誌では、かなり異なるのでしょうか。Original researchの場合の基本的な項目を表にしてみました。
JCOはMANUSCRIPT PREPARATION GUIDELINESのSubmission Check listで、N Engl J MedはAuthor CenterのHow to prepare a new manuscriptでNew Manuscriptsの下、述べられています。
形式的には、当然ながら問題はありません。異なるのは全体のword countがJCOで300 words 多いこと、図表の数も1つ多く、Abstractの最初がPurposeになっていることです。ともにReferencesの数に制限はなくなりました。以前の40という数を超えるのは少数なのかもしれません。


  JCO N Engl J Med
Abstract ≤ 250 words ≤ 250 words
Text ≤ 3000 words ≤ 2700 words
References (制限はないが数を表示する。引用順に数字をふる)

(制限なし。引用順に数字をふる)

Tables & Figures ≤ 6 ≤ 5
Structured Abstract
(IMRAD)
Purpose
Methods
Results
Conclusion
Background
Methods
Results
Conclusions

フォーマット

両誌ともに本文、図表の説明、参考文献のすべてにおいて、ダブルスペース(行間に1行ぶんのスペースをあける)にすることを求めています。フォントは英語フォントのArial, Helvetica, またはTimes New Romanを使用すること。このフォントで図表も作ります。MS明朝、ゴシックなど日本語フォントでは海外において文字化けしたり、文字間のスペースが詰まってしまったりする可能性があるので、必ず論文作成前の白紙のときに設定しましょう。フォントサイズはJCOでは12ポイントと明記されています。多くの学術誌が10?12ポイントを用いるようです。

記号(α、βなど)は原則としてSymbolで入れること。句読点(,  .  ;  :  ?)の後は、原則として1字分のスペースをあけること。さらに、ハイフン(-)や範囲を示す時のエヌダッシュ(–)、エムダッシュ(—)は原則として前後のスペースを空けないこと。とはいえ、エムダッシュは前後にスペースを空ける方が現在流行っています。

表記の仕方

略語は、タイトルにはできるだけ使用しないこと、と書いてあります。AbstractおよびTextではそれぞれ初出時にスペルアウトし、その後に括弧を付けて略語を示します。それ以後は、その略語を用います。ごく最近に好例を見つけました。

<例1>

  • Hospital Outbreak of Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus

<Title>

  • … caused by the novel Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV). We describe a cluster of health care-acquired MERS-CoV infections.

<Abstract>

  • In September 2012, … caused by a novel human b-coronavirus, subsequently named the Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV).

<Text>

N Engl J Med, 2013;369:407-16

この例は大文字(タイトル)、小文字(地の文)の使い方も教えてくれます。件のウイルスの名前は、地名だけ常に大文字で、それ以外はタイトルの場合をのぞいて小文字でスペルアウトします。青字アンダーラインで示しました。

よく知られているDNA、RNA、CD74、P=、vs.、遺伝子BRCAなどは、このまま使ってよいとされています。

<例2>

がん治療関連はややこしい略語が近年目白押しです。

  • bortezomib-thalidomide-dexamethasone (VTD)
  • addition of cyclophosphamide to this regimen (VTDC)
  • high-dose chemotherapy-autologous stem-cell transplantation (HDCT-ASCT)
  • overall survival (OS) 
  • disease-free survival (DFS)
  • complete response (CR)
  • complete remission (CR) 
  • near-complete response (nCR)
  • CR with incomplete platelet recovery (CRp)

また、Abstract でもTextでも、We を使うことができます。

  • With up to 18 years of follow-up, we analyzed rates of survival among all study participants and among those with prostate cancer.

<Background in Abstract>

  • Given that 18 years had elapsed since the first PCPT* participant underwent randomization, we undertook an analysis of survival in the two study groups…. We sought to update the number of prostate cancers….   *PCPT: Prostate Cancer Prevention Trial

<Introduction in Text>

  • We used a measure of relative risk to estimate the association between study group and a diagnosis of prostate cancer and high-grade prostate cancer.  

<Statistical Analysis in Methods>

N Engl J Med 2013; 369:603-10

それでは次回、TitleとAbstractに入りたいと思います。質問やコメントどしどし寄せてくださいね。