ミスターPET核医学教室

放射性医薬品(放射性薬剤)については、本シリーズ第6回でそのあらましを述べましたが、今回は新規のPET用またはSPECT用の放射性薬剤を診断薬として開発する、すなわち、研究段階を経て実際に患者に投与して安全性と診断的有効性を実証してゆくプロセスを説明します。薬の開発という意味では一般の治療薬の開発と似ていますが、放射性診断薬特有の性質があるため、異なる部分もあります。

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新規放射性診断薬の開発手順

(1)スクリーニングと非臨床試験

新しい放射性薬剤の研究開発は、まず化学構造を考えながら化学的にさまざまな候補化合物を合成します。その際には、化合物の構造に加えて、放射性同位元素で標識する方法や標識位置も非常に重要です(注1)。その中から化学実験や試験管内での実験、さらには動物実験によって、有望な候補化合物を選びます(注2)。

一般の治療薬では薬効と薬理作用がきわめて重要であるとともに、それと表裏一体の関係にある毒性や副作用も重要ですが、放射性診断薬は物質としての量が微量で薬理作用が無いとされるため毒性は通常あまり問題とはならず、いわゆる薬物動態、すなわち血中濃度と体内分布が重要です。そこで、標識安定性や、動物に投与後の血中濃度と代謝物を調べるとともに、見たいものに集積しているか、すなわち受容体や酵素活性を画像化するための候補化合物なら、受容体に特異的に結合しているか、あるいは酵素の基質になっているかどうかを、阻害剤などを用いて調べます。動物実験の過程で多くの候補化合物が役立たないとされて脱落します。

動物にて安全でしかも有望であることが確認されると、いよいよ人間における安全性と有効性を実証する臨床試験へと進みます。そこで臨床へ行く前の段階という意味で、動物実験を非臨床試験あるいは前臨床試験(preclinical study)と呼びます。非臨床試験のデータは、臨床試験に進むことを正当化する証拠として、また臨床試験の結果を解釈するためにも重要で、規制当局にも提出されるので、GLPと呼ばれる厳重な品質保証のもとで実験が行われます。

新しい化合物を初めて人間に投与する(first in human)ためには、当然その安全性が十分確認されている必要がありますが、放射性薬剤は物質としての量がごく微量なので、「マイクロドーズ臨床試験」と呼ばれる仕組みを利用すれば、一般の治療薬の候補化合物を薬用量初めて人間に投与する場合に比べて、非臨床安全性試験を簡略化することができます(注3)。

(2)臨床試験

臨床試験(clinical trial)(注4)は通常以下のように段階を踏んで行われ、便宜的に第I相、第II相、第III相と呼ばれますが、それぞれの相が厳密に定義されているわけではありません。また探索的臨床試験、検証的臨床試験という分け方もあります。臨床試験の途中で、役立たないとされて脱落する化合物もあります。

臨床試験の最初の段階においては、まず健常者を対象に、安全性の評価、血中および臓器の薬物動態、および被ばく線量の評価を行います。安全性は、投与前後において、心電図や血液検査などを行って確認します。血中薬物動態は、投与後に経時的に採血して放射能濃度を測定し、さらに代謝分析をして血中の放射性代謝物を調べます(注5)。被ばく線量は、投与後全身の撮影を繰り返し、各臓器の時間放射能曲線を得て、そこからMIRD法で被ばく線量を推定します(注6)。これらはもちろん動物実験で確認されていることですが、種差があるため、人間では血中から瞬時に消失してしまったり、想定していた臓器に全く集まらないなど、有効性が否定されることもしばしばです。

臨床試験の次の段階は、臨床的有効性の実証です。ある疾患を診断することを目的とする診断薬候補化合物なら、その疾患の患者と健常者、あるいは鑑別を要する別の疾患の患者を対象に、候補化合物を投与して撮像し、画像を評価して疾患かどうかを判定して感度と特異度を求めます(注7)。もし、その診断薬候補化合物が、疾患の診断ではなく、受容体の結合能や酵素活性など、病態や機能を評価することを目的とする場合には、その病態や機能の真実(ゴールドスタンダード)を何らかの方法で得て、比較します(注8)。このとき画像や画質は、撮像の仕方すなわち放射能投与量と撮像時間、さらには待機時間(投与後何分後に撮像するか)に依存するので、最適な撮像条件を決める作業を平行して行います(注9)。ROIを用いて画像を定量解析したり、ダイナミックスキャンを動態解析したりする必要がある場合には、その方法の検討も平行して行います(注10)。

最後の段階で、医療の場における臨床的有効性を検証するための臨床試験をします。そのためには、医療の中でその診断薬が用いられる場面を想定し、有効性に関する仮説を立てます。たとえば、その放射性診断薬によるSPECTやPET検査の結果によって、疾患の進行度を診断して診療方針を決める、治療法を選択する、治療効果を推定するまたは予測する、予後を予測する、といった仮説を立て、それに応じて臨床試験の仕方をデザインします。検証的臨床試験では、最初に対象被験者を登録してSPECTやPET検査を実施し、その後「前向き」にデータをとる、すなわち手術にて確認したり、しかるべき治療を行って効果を確認したり、治療後の予後を追跡調査します。その際厳密には、PETやSPECT検査を行った(それに基づいて診療方針を立てた)結果、全体としてQOLが改善し生存期間が延長したかどうか、さらには医療経済効果すなわち医療費が節約できたかどうかも、検討の対象となります。

このようにして臨床試験で得られたデータが各国の規制当局に提出され承認が得られると、晴れて医薬品となります。また、臨床試験の結果は多くの場合学会や論文雑誌に学術発表されます。

(3)多施設試験とCROの役割

臨床試験を実施する施設の数は、第I相では1つまたはごく少数の施設ですが、臨床試験が進むにつれて施設の数が増え、共通の実施計画書に基づいて複数の医療機関で行う「多施設臨床試験」となります。これは、医療機関によって、患者のプロフィルも、医師や医療体制も、機器も異なるので、1施設だけのデータでは普遍的な有効性を実証するには不十分だからです。このため、第III相ともなると施設の数も増え、手間もコストも非常に大きくなります。さらに、人種が違うと安全性や有効性が変わる可能性があり、国によって医療体制も違うので、最近は2か国以上で同時に行うグローバル臨床試験がさかんに行われます。

多施設臨床試験では、医療機関によって特徴があり得手不得手もあるので、質のそろったデータを取るのは容易ではありません。そこで、とくに多施設試験では、CRO(contract research organization, 臨床開発受託機関)と呼ばれる会社が活躍します。CROは、製薬企業から依頼されて、実施計画書の作成、医療機関の選定、医療機関における実施状況とデータのチェック(これをモニタリングという)、データの管理・解析と報告書の作成などを行います。CROのなかでもとくに撮像の管理や画像データの管理を専門に行う会社をイメージングCRO、検体や試料の測定を専門に行う会社を測定CROといいます。

(4)臨床試験に用いる被験薬の製造

一方、臨床試験で用いる放射性診断薬の候補化合物の合成も、GMPと呼ばれる厳重な品質保証の元で行われます。一般の治療薬と異なり、PET薬剤(とくに)やSPECT薬剤は半減期が短いうえ、物質としての量が微量なので、GMPに基づいて製造するのが容易ではありません。また遠く離れた医療機関で多施設臨床試験を行う場合には、2か所以上で製造する必要が出てくることもあります。一般に、臨床試験で用いる候補化合物の製造は、最初の研究段階では人の手で合成されることもありますが、臨床試験のスタートまでには自動化され、臨床試験の進行にしたがって必要ならさらに方法が改良されて、より安定した品質のものが製造されるようになります。

注1:最初の化学合成の段階ではよく似た構造の化合物を多数合成し、片端からその性質を調べて候補化合物を探します。このため、新規化合物はアルファベットの後に数字が並ぶコードネームで呼ばれるのが普通です。コードネームは臨床試験に進んでからも用いられますが、そのうち一般名が名付けられ、さらに発売される際には商品名が付けられます。

注2:化学的実験では、化合物の安定性、pH(酸性アルカリ性)、脂溶性などを調べます。試験管内での生物学的実験は、インビトロ(in vitro)とよばれ、培養細胞あるいは臓器や組織をすりつぶした液(ホモジネート)を用いて、細胞への取り込みや受容体等のタンパク質への結合を調べます。実験動物に投与する実験はインビボ(in vivo)と呼ばれ、動物の体内でどのように分布し代謝され排泄されるかなどを調べます。動物実験でとくに有用な手法はオートラジオグラフィー(ARG)です。これは動物に放射性薬剤を投与した後、殺して切片を作成し、それをフィルムやイメージングプレートに貼り付けて感光させて切片における放射性同位元素の分布を写し取る手法で、vivoでの分布を体外で測定するのでex vivo ARGと呼ばれます。言うまでもなく、動物を殺さずに生体内の断面の放射能分布を得るのがSPECTやPETであり、PETのことをとくにin vivo ARGと呼ぶ人もいます。

注3:マイクロドーズとは、ヒ卜において薬理作用が出ると推定される投与量の1/100以内かつ100マイクログラム以下の量とされます。この量を健常被験者に1回だけ投与するスクリーニング的臨床試験を行う場合には、いわゆるマイクロドーズ臨床試験のルールを利用することができ、予め拡張型単回投与毒性試験(簡単にいうと、動物に1回投与したのち2週間観察して毒性をみる)を行えば、ヒトでの試験に進むことができます。もともとマイクロドーズの概念は、一般治療薬の開発にあたり、第I相の前にごく微量を人間に投与して薬物動態(吸収、血中濃度、代謝、排泄)だけをみる、いわゆる第0相試験として提案されました。放射性薬剤の場合は、常用量がマイクロドーズのことが多いので、スクリーニング的にヒトで有効性をみる試験を行うことができ、非常に都合よいわけです。

注4:臨床試験は、実施計画書(プロトコール)に基づいて、GCPと呼ばれる厳重な管理の元で、医療機関が設置した委員会で倫理審査を受け、被験者に十分説明して同意(インフォームド・コンセント)を得たうえで、被験者に候補化合物が投与されデータが収集されます。わが国では、薬事法に基づいて厚生労働省に承認申請するためのデータを取る臨床試験を「治験」と呼びます。治験の対象となる候補化合物が「治験薬」です。

注5:血中の放射性薬剤は、それが臓器に入るための入力関数となるため、とくに重要です。また、血中の放射性代謝物が多い場合は、バックグラウンドがあがるほか、放射性代謝物が臓器に多く取り込まれると画像の評価が困難になります。代謝分析と入力関数については、本シリーズ第6回や、第19回およびその注3を参照。

注6:全身の経時撮影は本シリーズ第18回の図3参照。MIRD法は第8回参照。

注7:感度と特異度は本シリーズ第23回参照。当然ながら画像の判定は、疾患の有無などの臨床情報を知らない(ブラインドにした)読影委員によって、別途定めた読影基準に基づいて行われます。

注8:アルツハイマー病の脳に沈着するベータアミロイドを画像化することを目的とするPET診断薬候補化合物に対して、米国の規制当局であるFDAは、被験者の死亡後に剖検して脳のアミロイドの有無を確認するという臨床試験のデータを求めました。

注9:投与後撮像までの時間は、分布に影響するので、非常に重要です。また、投与放射能量が少なすぎたり撮像時間が短すぎると、十分なカウントが得られず画質が低下しますが、投与放射能量を増やすと被ばくが増え、また撮像時間を長くすると被験者の負担が増えるほか、撮像中に分布が変わるおそれもあります。

注10: ROIや動態解析は本シリーズ第16回 to 第20回を参照

 

RI治療(RI内用療法、内照射治療)とは、主としてがんの患者を対象とするもので、がんに集まる放射性薬剤を投与し、がんに集まった放射性同位元素(RI)から出る放射線によってそのがんを治療する方法です。

表:わが国で行われている主なRI治療

放射性医薬品 RIの半減期 RIから放出される放射線 対象、目的
131I-ヨウ化ナトリウムカプセル(Na131I) 8日 ベータ線とガンマ線 分化型甲状腺癌の治療、甲状腺機能亢進症の治療
89Sr-塩化ストロンチウム(89SrCl2 51日 ベータ線のみ 骨転移の疼痛緩和
90Y-イブリツモマブ(抗CD20抗体) 64時間 ベータ線のみ リンパ腫の治療

がんに集まる放射性医薬品を使う点ではイメージングと似ていますが、RIの種類が異なります。イメージングでは比較的半減期が短くてガンマ線のみを放出する放射性同位元素が好んで用いられるのに対し、RI治療では比較的半減期が長くてベータ線を出す放射性同位元素がしかも大量に用いられます。ガンマ線は電磁波(光)で体外に出てくるので撮影に適しているのに対し、ベータ線は電子(粒子)なので放出された地点からごく短い距離しか届かないため、RIが集積したがんには高い線量があたりますが、そこから離れた正常臓器にはあまりあたりません。

一般にがんは放射線感受性が比較的高いので、がんの放射線治療は医療の場で広く行われています(注1)。一般の放射線治療と比べて、RI治療の特徴は、がんが身体のどこにあっても、たとえがんが広く転移していても、がんにRIが集まりしかも正常部位(とくに放射線感受性の高い臓器)にあまり集まらないならば、治療ができることです。

RI治療では、イメージングに比べてはるかに多量のRIを用いるので、家族や公衆の被ばくを軽減するために、RIの種類と放射能投与量によっては、退出基準というルールに従って、一定期間患者を特殊な病室(放射線治療病室)に収容します。とくに131Iからは強いガンマ線が出るので、131I治療直後の患者にずっと近接して付き添うと被ばくが無視できません。したがって、常時近接介護が必要となる患者には、131Iによる治療は適していません。また、尿などにRIが排泄される場合には排泄物の扱いにも注意が必要です(本シリーズ第9回参照)。

(1)Na131Iによる甲状腺癌の治療

甲状腺ホルモンにはヨウ素が含まれ甲状腺細胞はヨウ素を取り込む性質があるので、放射性のヨウ素(Na123I, Na131I)が甲状腺のイメージングやホルモン産生機能の評価に用いられます(本シリーズ第29回参照)。甲状腺癌のうち、分化型のものは、甲状腺の腺細胞から発生するため、ホルモンは作りませんが、ヨウ素を取り込むという性質を残しています。そこで、Na131Iによって分化型甲状腺癌やその転移病巣を画像化することができ、さらにNa131Iを大量に投与すれば甲状腺癌とくにその転移病巣を治療することができるわけです。

ただし、正常甲状腺が残っていると、甲状腺癌よりも131Iをよく取り込むので、治療ができません。そこで、まず手術をして正常甲状腺を全部切除します(もちろんがんもなるべく切除します)。それでも正常甲状腺組織が少し残ることが多いので、術後に一度Na 131I治療をして残存正常甲状腺組織をいわば放射線で焼いてしまうことが多いです(アブレーションと言う)。

もうひとつ重要なことは、甲状腺癌が131Iを取り込むためには、脳下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)のレベルが高くなる必要があります(注2)。甲状腺癌の患者は通常正常甲状腺の全摘出術を受けていて甲状腺ホルモンを作れないため、甲状腺ホルモン剤を投与されています。そこで、131I治療の前に甲状腺ホルモン剤の投与を止めることによって、甲状腺ホルモンのレベルを下げ、フィードバック機構によってTSHレベルを上げ、そのタイミングを狙って大量の131Iを投与するわけです(注3)。また、血中のヨウ素レベルが高いと競合して131Iのがんへの集積を妨げるので、予め食餌をヨード制限食に切り替えておきます。

131Iからはベータ線のみならずガンマ線も出るので、Na131IによるRI治療においては、家族や職員の被ばくを軽減するために、患者を一定期間放射線治療病室に入院させます。131Iは尿に排泄されるため、尿の扱いにも注意します。

131Iから出るガンマ線をガンマカメラで撮影すると、131Iの分布を撮影できます。そこでNa131I治療では投与後しばらく日数がたってからガンマカメラで全身を撮影し、がんの転移病巣のすべてに131Iが集まっていること(すなわち治療ができたこと)を確認します。

(2)89Sr-塩化ストロンチウムによる骨転移の疼痛緩和

ストロンチウム(Sr)はカルシウムと似た性質があり骨に集まります。骨転移があると集積が増えるので、89Sr-塩化ストロンチウムを投与し、89Srから出るベータ線で治療します。がんの骨転移は強い痛みを伴うことが多く、89Sr治療は疼痛軽減に効果があるので、患者のQOL(Quality of Life、生活の質)の向上に役立ちます。

ただし、89Srの疼痛緩和効果はがん細胞を傷害するからではなく、骨転移に伴う炎症などの発痛機構を抑制するためと考えられています。89Srから出るベータ線の線量は、がんそのものを治療できる量にはならず、もちろん骨転移病巣以外のがん病巣には治療効果はありません。したがって、89Sr治療による延命効果はほとんどありません。

89Srはベータ線のみを放出しガンマ線を出さないので、通常の方法ではイメージングができません。しかし、89Srから放出されるベータ線からは制動X線(注4)が出るので、それをガンマカメラで撮影すれば、画質は悪いですが、骨転移に集まったかどうか89Srのおおまかな分布を確認できます。患者の身体から出る制動X線はごく少量なので周囲の人の被ばくは無視でき、89Sr治療は外来で実施可能で、患者は89Sr注射後退出帰宅できます。

(3)90Y-イブリツモマブによるリンパ腫の治療

悪性リンパ腫(リンパ球のがん)のうちBリンパ球系のものは、細胞の表面にCD20という抗原があります。90Y-イブリツモマブ(フルネームは90Y-ibritumomab tiuxetan)はそれに対するモノクローナル抗体をイットリウム-90(90Y)というRIで標識したものです。これを静脈投与するとリンパ腫細胞に結合し、90Yから放出されるベータ線でリンパ腫を治療できます。このように、腫瘍に対するRI標識抗体で行うRI治療を、放射免疫療法と言います。

90Yからはガンマ線が出ないので、90Y-イブリツモマブの投与後に分布を撮影することができません。そこで、事前に111In-イブリツモマブを投与してガンマカメラで撮影します。111In-イブリツモマブはインジウム-111(111In)というガンマ線を出すRIで標識されている点を除けば同じ抗体なので、体内でほぼ同様に振る舞い、ガンマカメラで撮影すれば分布がわかります。111In-イブリツモマブ投与後の撮影で、もし骨髄への集積が高い場合には、90Y-イブリツモマブ治療をすると骨髄がうける放射線量が高くなり造血機能を損なう恐れがあるので、90Y治療は行われません。

注1: 一般にいう「がんの放射線治療」では、リニアックや粒子線治療装置を用いて体外から強いX線や粒子線をがんにあてて治療する方法や、腔内照射や小線源治療といってがんの表面や内部に放射線源(密封されたRI)を挿入して線源から出るガンマ線でがんを治療することが行われます。これらの放射線治療では、がんの位置と範囲を正確に知ることが重要で、そのためにCTやMRI、ときにPETも用いられます。そのようにして決めたがんの範囲に多くの放射線をあて、周囲の正常部にはあまりあたらないように線量計算し(これを治療計画と言う)、その計算に基づいて照射の方向や量を決めます。つまり、がんの範囲を正確に知ることと、計算したとおりに正確に放射線をあてることがきわめて重要です。また、がんが広く転移している場合には、そのすべてを照射することは困難です。

これに対して、RI治療では、がんがどこにあっても、全身に転移していても、そのがんにRIが集まれば治療ができます。そのかわり、がんにRIが集まらなければ、まったく治療になりません。

通常の放射線治療は、病院では放射線治療部門が行いますが、RI治療はRIの管理と取り扱いを伴うので核医学部門が関与し、内科や外科にてそのがん患者をふだん診療している部門との密接な連携のもとに、さらに病院によっては放射線治療部門の協力も得て実施されます(本シリーズ第1回参照)。

注2: 正常甲状腺はTHSに支配されていますが、甲状腺癌もその性質が残っています。TSHについては本シリーズ第29回参照。

注3: 最近TSHが人工的に合成できるようになったので、合成したTSHを投与してTSHレベルを上げる試みもあります。

注4: 高速の電子が原子核に近づくとブレーキ(制動)がかかり、それによって失うエネルギーがX線として放出されます。これを制動X線といいます。X線撮影やX線CTのX線管球、放射線治療で用いられるリニアックなど、通常X線とよばれるものはすべて制動X線で、電子を加速しターゲットにあてて発生させます。89Srから放出される電子も同様に周囲の原子によってブレーキがかかり、制動X線が出ます。制動X線のエネルギーは電子のエネルギー(X線管球の場合は電子の加速電圧)を上限とする連続スペクトルをなします。これに対してRI(たとえば201Tl)の崩壊に際して放出されるX線は示性X線といい、単一エネルギーです。

表:骨髄、白血球、リンパ節のシンチグラフィーやSPECTに用いられる放射性薬剤の例

  放射性薬剤 評価できるもの、用途
骨髄 111In-InCl3(塩化インジウム) 造血組織の分布
白血球 111In-インジウムオキシン-白血球
99mTc-HMPAO-白血球
炎症、感染症の局在
リンパ節 99mTc-フチン酸コロイド、
99mTc-スズコロイド
がんの転移におけるセンチネルリンパ節の同定

(1)骨髄シンチグラフィー

骨髄は骨の中の空洞にあり、赤血球や白血球、血小板を作る造血組織です。赤血球のヘモグロビンには鉄が含まれるので、造血組織には鉄が取り込まれますが、111In-InCl3(塩化インジウム)は鉄と同じような挙動をとって造血組織に取り込まれるので、静脈投与2日後にシンチカメラで全身を撮像すると、造血組織の分布がわかります(注1)。

正常の成人では、脊柱や腰の骨など体幹部の骨髄(中心骨髄)でのみ造血が行われており、腕や脚の先のほう(末梢骨髄)には造血組織がありません。白血病や再生不良性貧血などの造血系疾患になると、造血骨髄が末梢まで拡大したり、中心骨髄の機能が低下して体幹部に集積しなくなったり、さらには骨髄以外で造血(髄外造血)が行われたりすることがあり、診断や病態評価に役立ちます。造血系の疾患の診断は、通常胸の骨(胸骨)や腰の骨(腸骨)から造血組織を採取し細胞を詳しく調べて診断しますが、侵襲的であり、しかも採取されるのは骨髄のごく一部です。骨髄シンチグラフィーは全身の骨髄の働きを見ることができる検査法として用いられています。

(2)白血球シンチグラフィー

患者の血液から白血球を抽出し、111In-オキシンや99mTc-HMPAOで標識して静脈注射し、シンチカメラで全身を撮像すると、白血球が集まる部位を画像化できます。白血球は炎症に集まるため、感染症や膿瘍など炎症の局在と分布を画像化でき、不明熱(原因不明の発熱)の熱源探索や人工臓器の感染の診断などに役立ちます。とくに標識白血球は、67Ga-クエン酸ガリウムなどと異なり、腫瘍にはあまり集まらず炎症に特異的に集まる点が優れます。しかし、標識操作に手間がかかるのが欠点です(注2,3)。

(3)センチネルリンパ節シンチグラフィー

がんが転移するときは、原発巣の近くのリンパ節にまず転移することが多いです。これは、原発巣にてがん細胞がリンパ管に進入し、リンパ液の流れに乗って原発臓器から出て、まず近くのリンパ節に到達するからです(注4)。そこで、がんの根治的手術において、オーソドックスな方法としては、がんの原発巣および近くのリンパ節一式すべてを切除する(郭清(かくせい)という)ことが行われます。しかし、リンパ節郭清は、一般に侵襲的で手術の規模が大きくなるので、もしリンパ節転移が無く郭清の必要が無いならば避けたいところです。たとえば、乳癌の場合には腋下リンパ節を郭清することになりますが、そうすると腕から胸部に流れてくるリンパ液を遮断することになるので、術後にしばしばリンパ浮腫といって腕が腫れ上がる合併症をきたします。リンパ節転移は、ごく小さなものは通常の画像診断ではわかりません。そこで、センチネルリンパ節の生検という方法が用いられます。

センチネル(見張りという意味)リンパ節とは、原発巣から流れ出すリンパ液が最初に到達するリンパ節をいいます。がんのリンパ節転移は、もし転移するならばまずセンチネルリンパ節に転移すると考えられます。そこで、通常の術前検査にて明らかなリンパ節転移の所見がない患者では、まずセンチネルリンパ節を採取して顕微鏡で調べ、もし全く転移がなければ他のリンパ節にも転移がないと考えて郭清はしない、もし少しでも転移があれば他のリンパ節にも転移がある可能性があると考えて郭清する、という手術方針が採用されます。

そのためには、どのリンパ節がセンチネルリンパ節であるかを同定しなければなりません。センチネルリンパ節は原発巣とリンパ節の位置関係によって決まり、個人差もあります。そこで、リンパ液の流れに乗って運ばれる物質を実際に原発巣かそのすぐ横に注入し、どのリンパ節に最初に到達するかを調べます。そのために、99mTc-標識のコロイドが用いられます。コロイドは微粒子なので、リンパ管の中を流れてリンパ節に到達するとそこで捕らえられて留まるため、撮像すると位置がわかります。

術前に99mTc-標識のコロイドをがんのすぐ横(静脈内ではない)に注射すると、数時間後か翌日にセンチネルリンパ節に集積するので、シンチカメラで撮像して同定し、手術にて採取して調べ、リンパ節郭清するかどうかの手術方針を決めます。このとき、シンチグラフィーの画像だけでは手術時にリンパ節を同定するのが難しい場合があるので、術中にガンマプローブ(本シリーズ第10回の図3参照)を用いて、放射線を発するリンパ節を同定します。

なお、センチネルリンパ節の同定には、放射性薬剤を用いる核医学的方法のほかに、手術時に色素を注入する用いる方法もあります。

注1:骨髄のイメージングに用いられる放射性薬剤としては、次に述べる111In-オキシン白血球も造血骨髄に集まります。このほか、骨髄には、網内系の細胞(異物を食べる細胞)があるため、99mTc-標識のコロイドも用いられますが、造血機能を評価するものではありません。一方PET用の薬剤としては、造血組織は細胞分裂が盛んなので18F-FLTが集積し、PETで全身を撮像するとその分布がわかります(本シリーズ第33回参照)。また、糖代謝も盛んなので18F-FDGも骨髄に集積します。

注2:18F-FDGによるPETも炎症や感染症の病巣の描出に優れます(本シリーズ第33回参照)。FDGは炎症のみならず腫瘍およびいくつかの正常組織にも集まりますが、撮像にPET/CTを用いることによって、CTによる形態情報をFDGの集積情報と組み合わせれば、診断精度が向上します(本シリーズ第14回参照)。

注3:「細胞治療」が最近注目されています。これは、細胞を患者に投与しその働きによって治療する方法で、失われた機能を取り戻す「再生医療」の一つの柱となる治療法です。細胞治療においては、有効性を評価するために、投与した細胞が期待する部位に到達したことを確認したい場合があります。投与した細胞の行方を追跡することをcell trackingといいますが、放射性同位元素で標識した細胞を投与する核医学イメージングは、そのための有用な手法です。

注4:リンパ液はタンパク質や脂肪が含まれる液体で、リンパ管の中を流れます。リンパ管は全身組織から出て、途中リンパ節をいくつも通りながら、最終的には静脈に注ぎます。リンパ節にはリンパ球がいて必要に応じて増殖し、リンパ液中の異物を(不完全ながら)捕捉する、いわばフィルタのように働くと考えられています。(がん細胞もコロイドも異物です。)

18F-フルオロデオキシグルコース(FDG)が、腫瘍のPETの定番ですが、FDG以外にもさまざまなPET用放射性薬剤が、主として研究に用いられます。

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FDGはブドウ糖と同じようにグルコーストランスポータに乗って細胞膜を通過して細胞に入り、ブドウ糖と同じようにヘキソキナーゼによってリン酸化されますが、ブドウ糖と異なり、リン酸化された後は代謝されず細胞内にとどまります(代謝的に捕捉される=metabolic trap)。したがって、FDG注射後約1時間たつとその分布は糖代謝の分布を反映します。腫瘍は一般にグルコーストランスポータが亢進しかつ糖代謝がさかんなので、FDGは大部分のがんによく集まります。とくに、昔から腫瘍の核医学検査に用いられてきた67Ga-クエン酸ガリウムによるシンチグラフィーやSPECTに比べてバックグラウンドが低くてコントラストがよく、PETは物理学的な画質もよいので、このところ急速に普及してきました。

FDGによるがんのPET検査の臨床における目的(医療に用いられる場面)を列挙すると、以下のようになります。

・健康な人でのがん早期発見(がん検診)

・がんの存在診断(良性疾患との鑑別診断)

・がんの進展範囲を決める病期診断

・転移が先に見つかった場合の原発巣の探索

・治療効果の評価や予測

・治療後の再発の発見と診断

FDGはブドウ糖を取り込む臓器や病変なら、腫瘍以外でも集まります。個人差もありますが、正常でFDGが集まる部位は、脳、唾液腺、扁桃、胸腺、乳腺、心筋、肝、胃・腸管、骨格筋などです。脳はエネルギー源としてブドウ糖を使うのでFDGが強く集まり(したがって脳腫瘍の診断には適さない)、これを逆に利用して脳疾患の診断にFDGが用いられます(本シリーズ第24回参照)。心筋も、食後などインスリンレベルが高い状態ではブドウ糖をエネルギー源とするため、これを利用して心筋のバイアビリティの評価にFDGが用いられます(本シリーズ第26回参照)。

また、FDGは尿に排泄されるので(ブドウ糖は糖尿病でない限り尿に出ない)、腎臓、尿管、膀胱が描出されます。

筋肉も運動するとブドウ糖を取り込むので、がんのFDG-PET検査の際には安静が必要です(注1)。

炎症細胞(マクロファージや白血球など)は糖代謝が盛んなため、FDGは炎症にもよく集まります。リンパ節炎、う歯(虫歯)や歯周炎、甲状腺炎、放射線肺炎やその他の肺炎、膵炎、腸炎、痔、動脈炎、関節リウマチ、結核などの肉芽腫、サルコイドーシス、外傷や手術創といった炎症性の病変にFDGが集まることが知られています(注2)。実はがんがFDGで描出されるのも、がん組織の周囲に集まった炎症細胞へのFDGの集積が寄与しています。そういうわけで、FDG-PET検査で異常集積が見つかっても、腫瘍か炎症か判断に迷う場合があります。一般にがんのほうが炎症よりもFDG集積が高いですが、例外もあるので、SUV値だけで決めつけることはできません(本シリーズ第17回参照)。とくにがんの治療後は炎症が残ることが多いので、がんの治療後その効果を見るためのFDG-PET検査では慎重に画像を解釈する必要があります。このように、FDGは決して百発百中ではないので注意が必要です(注3)。

このほか、FDGが動脈硬化巣(プラーク)に集まることもあります。FDGが集積した動脈硬化巣は、炎症細胞であるマクロファージが集まっていて、将来破裂して血栓症を起こす危険がより高い動脈硬化プラークの可能性があると言われています。

腫瘍はアミノ酸トランスポータの発現も亢進していて、アミノ酸をよく取り込むので、11C-メチオニンや18F-フルオロエチルチロシン(FET)といったアミノ酸製剤も腫瘍のPETイメージングに用いられます。これらは正常な脳にはほとんど集まらず、一方脳はFDGの弱点なので、脳腫瘍の診断にアミノ酸製剤が好んで用いられます。アミノ酸製剤は、膵臓、唾液腺、肝臓といったタンパク質の合成が盛んな臓器には正常でもよく集まります。

11C-コリンや11C-酢酸もさまざま腫瘍に集まります。これらは、細胞膜の原料になるとされ、腫瘍は細胞分裂が盛んで細胞膜の合成も盛んなので、よく集まると言われています。

18F-フルオロチミジン(FLT)はDNAの原料であるチミジンを18Fで標識した化合物です。がんは細胞の増殖がさかんですが、細胞は分裂する前にDNAを複製しそのためにチミジンを取り込みます。FLTはチミジンと同様に細胞に取り込まれ、チミジンキナーゼ(TK1)という酵素でリン酸化されて細胞内に滞留するため、FLTは増殖の盛んな腫瘍に多く集まります(注4)。単にがんの有無を見るためならFDGで十分ですが、そのがんの活発さや治療効果を見るのに、FLTで細胞増殖を評価するのが役立つと期待されています。また、FDGは炎症にも集まりますが、FLTはFDGほど炎症には集まらないため、特異度の高い診断ができると期待されています。正常臓器のなかでは、骨髄が細胞分裂が盛んなので、FLTは骨髄にも集まります。

18F-フルオロミソニダゾール(FMISO)や60Cu(または62Cu, 64Cu)-ATSMは、低酸素に集積すると言われています(注5)。一般に腫瘍は増殖に血流の供給が追いつかず、酸素(O2)が足りなくなる傾向にありますが、とくに低酸素環境にある腫瘍は、放射線治療や化学療法に反応しにくいとされます(あまり細胞分裂しないためとも言われています)。低酸素イメージング剤は治療抵抗性を予測し、その患者に合った治療の計画を立てるうえで役立つと期待されています。

RGDは、アルギニン、グリシン、アスパラギン酸からなるペプチドで、αVβ3インテグリンというタンパク質に集まります。このタンパク質は、がん組織内にある新生血管の血管内皮細胞に強く発現するため、18F-ガラクトRGDの集積は、がんの血管新生の指標になると言われています。一般に腫瘍は自身を栄養するために自ら血管を作りますが、18F-ガラクトRGDの集積からその腫瘍の血管が豊富かを評価できると言われています。とくに抗癌剤のなかには血管新生を阻害する薬があるので、その効果を評価するためにも役立つと期待されています。

がん細胞には特定の受容体が発現しているものがあり、それを画像化することもできます。18F-フルオロエストラジオール(FES)は、女性ホルモンであるエストロゲンを18F標識したもので、エストロゲン受容体に集まります。乳癌のうちエストロゲン受容体があるタイプのものはホルモン治療が効くとされるので、FESが集積すればホルモン治療が効くことが予測できると言われています。このほか、ソマトスタチン受容体を画像化する68Ga標識薬剤もいくつか知られており、神経内分泌腫瘍のイメージングに用いられます(本シリーズ第32回参照)。

 このように、がんの有無と局在だけなら多くの場合FDGだけで十分ですが、さまざまなPET用放射性薬剤を用いてそのがんの生物学的性質を明らかにすれば、どのような治療が効くか、また、実際に治療に反応したかどうかを評価することができ、個々の患者に適した治療ができると期待されています。

注1:質の高いFDG-PET検査のためには、絶食と安静が必要です。食後で血糖が高いとFDGと血中のブドウ糖が競合するうえ、インスリンのレベルが上がって筋肉へのFDG集積が増えるため、腫瘍のFDG-PET検査前には数時間の絶食が必要です。また、FDG注射後は安静が必要で、歩くと脚に、話をすると喉に集まります。さらに、検査の前に激しい運動をすると筋肉に蓄えられたグリコーゲン(ブドウ糖が多数つながった栄養物質)が枯渇し、運動後には筋肉がブドウ糖を取り込んでグリコーゲンを生成します。したがって、前日から激しい運動を控えます。

注2:FDGが炎症に集まることを利用して、感染症や炎症の診断に用いられることがあります。たとえば、人工血管や人工関節などの人工物を入れた患者でその細菌感染を早期に発見する、不明熱の患者で感染巣などの熱源を探索する(がんも不明熱の原因となり得るので都合よい)、など。

注3:がんでもFDGが集積しにくいものがいくつか知られています。肺の高分化腺癌、分化型肝細胞癌、早期胃癌、進行胃癌でも粘液癌やスキルスといった細胞成分の少ない癌、前立腺癌、超早期の癌である粘膜内癌などはFDGが集まりにくいとされます。

注4:FLTはチミジンと異なりDNAそのものには入りませんが、FLTのがんへの集積はTK1の活性を反映し、TK1活性は細胞増殖を反映するので、細胞の増殖とFLTの集積が相関することが知られています。FLTは分裂している正常細胞にも入るので、正常細胞のDNAにフッ素化されたチミジンが入れば遺伝子に傷がつくことを考えると、DNAにFLTが入らないことは都合がよいと言えます。

注5:細胞はエネルギーを得るためにブドウ糖や脂肪酸などを好気的に分解します、つまり酸素(O2)で燃やしますが、その最終段階は電子伝達系と呼ばれ、電子(水素と同等)が酸素と反応して水ができます。酸素が足りなくなると電子伝達系が動かなくなり、電子が余って還元力が高まります。FMISOやCu-ATSMは、低酸素環境では還元されて(Cu-ATSMはCuが2価から1価になる)、細胞内に滞留すると言われています。

(1)腫瘍の特徴

腫瘍には良性と悪性があり、悪性のものが「がん」と呼ばれます(注1)。 

腫瘍は、もともと正常だった細胞が、突然性質が変わって腫瘍細胞となり、自律的に際限なく増殖を続けるようになったものです。悪性腫瘍になると、さらに周囲の臓器に進入して破壊したり(局所浸潤)、遠くの臓器に飛び火して(遠隔転移)そこでさらに増え続けます。これに対して、正常な臓器や組織では細胞の増殖は調節されていて、不必要に際限なく分裂が繰り返されることはなく、また古くなった細胞は自然に死んでゆく(アポトーシス=注2)ため、細胞がどこまでも増え続けることはありません。もちろん、隣の臓器に破壊進入することはなく、たとえ細胞がちぎれて血流に乗り別の臓器に迷入してもすぐに死んでしまいます。このように、腫瘍細胞は、細胞の分裂、接触、死といったメカニズムをコントロールする機構に異常を来しているのが特徴です。

腫瘍細胞は正常細胞から発生するため、もとの細胞の性質や特徴を多かれ少なかれ残しています。顕微鏡で形を見ればだいたいその起源がわかるので、発生臓器(場所)ともとの細胞の種類によって腫瘍を分類します。最近は腫瘍細胞の表面にあるさまざまなタンパク質を調べて分類することもあります。また、腫瘍細胞はもとの細胞が生体で担っていた役割を失っているのが普通ですが、なかにはもとの細胞の機能を一部残しているものもあります(注3)。

腫瘍はあらゆる臓器のあらゆる組織、細胞を起源として発生しうるので、その特徴もさまざまですが、多くの腫瘍(とくに悪性腫瘍)に共通して見られる特徴として、豊富な血流と血管透過性の亢進が挙げられます。悪性腫瘍は一般に血管が発達し血流が豊富です。これは、腫瘍が増殖する上で酸素や栄養を補給するために血流が必要であり、腫瘍自身に血管を作る(血管新生)能力があるからです。また腫瘍細胞は一般に代謝がさかんで、アミノ酸やブドウ糖などさまざまな物質をさかんに取り込みます。このほか、腫瘍には特殊な受容体が発現していることもあります。このような性質を利用して、腫瘍をイメージングするさまざまな放射性薬剤が開発され利用されています。なお、血流が多く細胞の代謝がさかんであるという性質は、実は炎症にもいえるため、腫瘍のイメージング薬剤は炎症にもある程度集まるものが多いです。

(2)腫瘍のシンチグラフィー・SPECT用イメージング剤

下表に腫瘍のシンチグラフィーやSPECTに用いられる主な放射性薬剤を挙げました。イメージングに利用している性質は、別に腫瘍以外にも当てはまるものもあるため、これらの薬剤は腫瘍以外のイメージングに用いられることもあります。また、特定の種類の腫瘍にのみ用いられるものや、腫瘍の特定の性質を画像化するためだけに用いられるものもあります。

 

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67Ga-クエン酸ガリウムは血中のトランスフェリンと結合し、腫瘍細胞のトランスフェリン受容体を介して取り込まれると言われています。67Ga-クエン酸ガリウムはリンパ腫や頭頸部癌、肺の扁平上皮癌、甲状腺未分化癌、メラノーマなどによく集まりますが、腺癌(腺細胞の癌)にはあまり集まりません。また、炎症にもよく集まります。

67Ga-クエン酸ガリウムによるイメージングでは、静脈注射の2,3日後に撮影するので、患者は2回来院する必要があります。また、バックグラウンドが高く、ガンマ線のエネルギーも高くてガンマカメラに不向きなので、画質はあまりよくありません。

201Tl-塩化タリウムは心筋血流イメージングに用いられるものと同じものです(本シリーズ第26回)。血流に乗って腫瘍に到達した後、タリウムイオンはカリウムイオンと同じように能動輸送で細胞に取り込まれます。脳腫瘍、分化型甲状腺癌、副甲状腺腫瘍、肺の腺癌などによく取り込まれます。 

99mTc-sestamibi(MIBI)と99mTc-tetrofosmin(TF)も心筋血流イメージング(本シリーズ第26回)や副甲状腺腫(同第29回)に用いられるものと同じもので、血流に乗って腫瘍に到達した後、拡散によって取り込まれます。腫瘍細胞の膜には、細胞内に取り込まれた薬などの物質を外へ汲み出すタンパク質(ポンプ)があり、P糖蛋白と呼ばれています。抗癌剤が(それもいくつもの抗癌剤のどれもが)効かないことがあるのは、このP糖蛋白によって抗癌剤が腫瘍細胞から汲み出されるためです。MIBIとTFもP糖蛋白に乗る(基質となる)ので、もしMIBIやTFが腫瘍に取り込まれて保持されればP糖蛋白の発現が低いことがわかり、その腫瘍が抗癌剤に感受性があることを予測できます。甲状腺癌や乳癌などにて、そのような目的で用いられます。 

111In-オクトレオチドはソマトスタチンというペプチドホルモンの類似化合物です。ソマトスタチン受容体に結合するため、カルチノイド、インスリノーマ、ガストリノーマなど、神経内分泌腫瘍と呼ばれる、ソマトスタチン受容体が強く発現している腫瘍によく集まります。ソマトスタチンは消化管において重要な役割を演じるホルモンで、その受容体は正常細胞にも発現しているので、さまざまな正常臓器にも集積が見られます。

99mTc-アネキシンA5(99mTc-アネキシンV)はアポトーシス(注2)を起こしている細胞に集まるタンパク質です。アポトーシスの過程で細胞の表面に現れるホスファチジルセリンに結合するので、アポトーシスに陥った細胞を画像化できます。がん組織中では、細胞分裂で新しい細胞が生まれる一方、アポトーシスで死ぬ細胞もあり、細胞の回転が速いがんはアポトーシスイメージングにて強く描出されます。また、抗癌剤や放射線治療の開始後初期には治療効果のあったがん細胞がアポトーシスに陥るので、治療反応性を予測することができると期待されています。なお、アポトーシスは脳梗塞や心筋梗塞、心不全、動脈硬化などでもおこるので、アポトーシスのイメージングは腫瘍以外に対しても行われます。

注1:正確にいうと、「腫瘍」は良性腫瘍と悪性腫瘍(いわゆる「がん」)に分類され、悪性腫瘍のうち上皮性のものを「癌」または「癌腫」、非上皮性のものを「肉腫」といいますが、一般には「癌腫」と「肉腫」を区別せずに悪性腫瘍をまとめて「がん」または「癌」と呼ぶことが多いです。また、良性腫瘍を無視して「腫瘍」が悪性腫瘍の意味に用いられることもあります。さらに、「良性」という言葉は「炎症」など腫瘍でない病変に対しても用いられることがあります。

注2:細胞には自ら死んでゆく仕組み(プログラムされた死)があり、アポトーシスと呼ばれます。アポトーシスは、いわば不要な細胞を「きれいに始末する」しくみです。というのは、細胞内にはさまざまな物質があって、単に細胞が破壊されてそれらが細胞外に無秩序に放出されると、周囲に悪影響を及ぼすからです。アポトーシスの機構とその引き金についてはさかんに研究されていますが、その過程でホスファチジルセリンというリン脂質が細胞表面に現れ、それが「しるし」となって細胞がマクロファージに食べられて処理されます。細胞が自然にではなく外的傷害によって死ぬ場合でも、外的刺激によってアポトーシスの引き金が引かれて、その後アポトーシスのプロセスによって細胞が死ぬ場合があります。抗癌剤や放射線など外的要因によってがん細胞が死ぬときも、その多くはアポトーシスが関係しています。

注3:内分泌系の腫瘍は、もとの内分泌細胞がもっていた機能を保持しているものが多々あり、それを利用したイメージングが行われています(本シリーズ第29回参照)。

骨は身体の姿勢を保ち運動するための支えですが、鉄骨のような無味乾燥とした「モノ」ではなく、いわば「生きている臓器」です。

骨の硬い物質はハイドロキシアパタイト(水酸化リン灰石)とよばれるミネラル(無機質)で、カルシウムやリンからできていて、もちろんこれは「生きているもの」ではありません。実は、骨の中には小さいすき間が多数あって、そこに細胞がたくさん住んでいて、その細胞がタンパク質とミネラルを分泌して硬い骨を作り、あるいは溶かして吸収しています(注1)。これらの細胞を栄養するために、骨には血管が分布し血液が流れています。

なお、骨の中央部の空間は「骨髄」といって血液細胞(赤血球や白血球)を作る場所ですが、骨とは別の臓器として扱われます(注2)。

骨の核医学イメージングでは、下の表のように、99mTc標識のリン酸塩や18F標識のフッ素陰イオンが用いられます。これらは骨のミネラルに結合し、骨に集まるので、静脈投与後しばらくしてから(通常99mTc製剤は約3時間、NaFは約1時間後に)撮影すると、全身の骨格が画像化されます。骨反応といって骨が作られたり溶けたりするところにはよく集まり、とくに骨が作られるところには強く集まります。がんの骨転移を初めとする骨の腫瘍(悪性腫瘍と良性腫瘍)、骨折、炎症、感染症など骨の疾患では、骨反応が亢進するため、骨のイメージングを行うと、病変部が強い放射能集積として骨格の上に描出されます。

骨格の形は頭部や顔面以外は比較的単純で重なりも少ないので、99mTc-MDPや99mTc-HMDPの画像はSPECTでなく、前後面のシンチグラフィーを撮影することが多いです。

 

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 99mTc-MDPや99mTc-HMDPは、がんの骨転移の検査に広く用いられています。がんの中でも、肺癌、乳癌、前立腺癌は骨転移を起こしやすいことで知られ、他に、甲状腺癌、腎癌、メラノーマ(悪性黒色腫)も、よく骨転移をきたすので、これらのがんではしばしば骨シンチの検査が行われます。一般にがんはどこまで広がっているかによって治療方法がかわるため、転移の有無をみることはきわめて重要です。骨転移の検索は全身を調べる必要がありますが、核医学イメージングを用いれば比較的簡単に全身を撮影でき、もし骨転移があれば異常集積として光るので容易に発見できます。ただし、骨の核医学イメージングにおける異常集積は、理論的にはそこに骨反応が亢進する病変があるという意味しかなく、必ずしもがんの転移とは限りません。たとえば、骨折や歯疾患への集積像は日常よく見られる所見です。そこで、異常集積が見つかれば、その部位に対してX線CTやMRIさらには生検などで詳しい検査を行います(注3)。このように、骨の核医学イメージングは一般に感度が高く、特異度がやや低い検査です。(注4)。

 がんの骨転移には造骨性(ミネラルが作られるタイプ)と溶骨性(ミネラルが溶けるタイプ)があり、造骨性のほうが強い集積が見られます。溶骨性の場合、骨が完全にがんに置き換わってしまうと、放射性薬剤が集積せず陰性の欠損像となることもありますが、その場合でもがんと骨の境界部では溶骨性変化が進行中で異常集積が見られることが多く、全体としてドーナツ状集積となります(注5)。

 骨転移の発見目的以外に、すでに骨の腫瘍、骨折、炎症、感染症などの疾患があって、その広がり具合や治療経過をみるためにも、骨の核医学イメージングが用いられます。

 99mTc-MDPや99mTc-HMDPの集積は、その部位の血流の影響を受けます。一般に骨病変で骨反応のおこっているところは血流も増加することが多いですが、とくに血流の多い病変には高い集積が見られます。血流の影響は投与直後に最も大きいので、病変の部位がわかっている場合に、三相骨シンチといって静脈注射直後の血流相、その後の血液プールの画像、そして3時間後の骨シンチと、3回にわたって撮影し、病変の広がりと血流を合わせて評価する方法もあります。

 99mTc-MDPや99mTc-HMDPは骨以外にも集積することがあります。たとえば、脳梗塞、大腸癌の肝転移、化骨性筋炎などさまざまな病変に集積します。これらには、カルシウムが沈着(石灰化という)している場合がありそれがX線CTでわかることもあります。

 最近99mTcの親核種である99Mo(注6)を生産する原子炉の故障が相次ぎ、99mTcの供給が不足する状況がときどき発生しています。米国では、99mTc-MDPや99mTc-HMDPの供給が途絶えた場合に、骨シンチの代替検査法として、Na18FによるPETが注目されています。もちろんわが国ではNa18Fは承認もされず健康保険適用でもありませんが、18Fはサイクロトロンで18F陰イオンの形で生成されNa18Fを製造するための特別な標識合成反応が要らないので、技術的には比較的簡単に院内製造できます。

注1: 骨を薬品につけてミネラルを流し去り軟らかくしたのち、薄く切って顕微鏡で観察すると、微細なすきまが多数見え、そこに骨の細胞がいることがわかります。骨の細胞には、通常の骨細胞のほかに、骨を作る「骨芽細胞」や、骨を溶かす「破骨細胞」があり、これらの働きによって血液中のカルシウムが調節されるほか、小児の成長や骨折後の癒合がおこり、さらには筋力トレーニングをすれば骨格にかかる力に応じて骨の太さや長さが変わってゆきます。

注2: 身体を支えるという目的のためには、鉄パイプと同じように、骨の内部は空洞で差し支えありません。この空洞が骨髄であり、造血細胞がいて赤血球や白血球を作っているわけです。

注3: 初めからX線CTやMRIで全身の骨を撮影するのは、撮影と読影の手間や、X線の場合被ばくを考えると、現実的ではありません。

注4: 感度と特異度については本シリーズ第23回参照。

注5: 骨に限らず、転移の検索を含めてがんの診断には、FDGによるPET検査がよく用いられます。FDGは糖代謝のさかんな部位に集まり、一般にがんは糖代謝が盛んなので、FDGががんに集まります。FDGは骨に転移したがんにも集まるので、FDGによるPET検査で骨転移も発見できます。とくにFDGは、骨シンチとは逆に、溶骨性で骨ががんに置き換わっている場合によく集まります。

注6: 99mTcは99Mo/99mTcジェネレータからミルキングによって抽出します(本シリーズ第4回参照)。原料の99Moは、世界的に見てもごく限られた数の原子炉で製造されていますが、老朽化によるトラブルで製造休止がときどき発生しています。わが国には99Moを製造する原子炉はなく、すべて輸入に頼っています。 

 

 腎臓は尿を作る、すなわち不要になった物質を体外に排出する臓器ですが、より本質的には体液の調節をしています(注1)。そのために、腎臓へは両側合わせて約1200mL/minもの血流が流れていますが、これは心拍出量の25%にもあたります。

腎臓に入った血液は、枝分かれした細動脈が糸球体と呼ばれるところを通過する際に、血管壁の窓から血漿中の小さい分子がいわば濾過されて出て行き、ボウマン嚢と呼ばれる小さい袋に漏れ落ちて「尿のおおもと」が作られます。「尿のおおもと」が尿細管と呼ばれる管を流れてゆく際に、管壁の尿細管細胞によってブドウ糖やアミノ酸など必要な物質が再吸収され、また不要な物質が分泌されて尿に加えられ、さらに水と電解質もやりとりされて、尿が作られます。このようにして、腎臓は体液の成分を調節する一方、不要な物質を尿として排泄します。尿細管は合流し、腎臓の前内側の端にある腎盂(じんう)と呼ばれるところに尿が溜められ、そこから尿管が膀胱まで尿を運びます。

腎臓の核医学検査では、2種類の放射性薬剤が用いられます(下表)。1つは、糸球体で濾過されあるいは尿細管で分泌されて尿に排泄されるもので、腎動態がわかります。もう1つは腎臓に取り込まれて蓄積される放射性薬剤で、腎シンチとして腎細胞の全般的機能がわかります。

内科で腎臓の機能をみる際には、尿素やクレアチニンといった尿に排泄されるべき物質の血中濃度や尿排泄量を測定する方法が用いられますが、これらの方法では左右の腎臓の働きを合わせたものが測定されます。これに対して核医学の手法を用いると、左右の腎臓の機能を別々に測定することができます(分腎機能)。

腎臓がわるくなると、腎臓への血流が低下し、糸球体の濾過量が低下し、さらに尿細管での再吸収や分泌も障害されます。この腎臓への血流、正しくは有効腎血漿流量(effective renal plasma flow, ERPF)と、糸球体濾過量(glomerular filtration rate, GFR)が、腎臓の機能を考える上で重要なポイントとなり、種々の検査で測定あるいは推定されますが、核医学の手法を用いると左右の腎臓別々にそれらを評価することができます。

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(1)腎動態検査、レノグラフィー

131I-OIH、99mTc-MAG3、あるいは99mTc-DTPAを静脈投与すると、まず腎臓に集まり、その後尿管を経て膀胱へ排泄されます。そこで、ガンマカメラを背中から腰にかけてセットアップし、静脈投与時から開始してダイナミックスキャンを行うと(注2)、放射能がまず腎臓に集まりその後膀胱へと排泄されてゆく様子が画像化されます。左右それぞれの腎臓に関心領域(ROI)を設定し、腎臓の時間放射能曲線(TAC)を描くと、下の図のような曲線が得られます。これをレノグラムといいます。正常な腎臓では、まず腎臓に放射能が入り(血管相)、ついでゆっくりと集積が増加し(集積相または分泌相)、その後洗い出されてゆく(排泄相)という3相性の正常型レノグラムが得られます。尿管の閉塞があると、放射能が蓄積するばかりで排泄されません(閉塞型)。一方腎機能が低下してくると、正常型レノグラムのピークが低く遅くなります。さらに腎機能がひどく低下すると、最初に放射能が入るだけで蓄積も排泄もされません(無機能型)。このようにレノグラムを見るだけで、分腎機能のあらましがわかりますが、さらにカーブを解析して、ピークの高さや時間、カーブ下の面積、排泄速度などの定量的指標を得ることもできます。(注3)

131I-OIHと99mTc-MAG3は糸球体で濾過されかつ尿細管からも分泌されるので、その挙動は腎血漿流量を反映し、これをレノグラムから推定することもできます。一方99mTc-DTPAは、糸球体で濾過されますが、尿細管からは分泌されず再吸収もされないので、その挙動から糸球体濾過量が推定できます。このように分腎機能を定量的に評価できるのが、腎動態検査の特徴です。

腎機能が低下すると一見閉塞型のレノグラムを呈することがあります。そこで、ダイナミックスキャンの最中にフロセミド(利尿剤)を静脈投与すると、もし利尿剤の負荷によって排泄が見られた(放射能の洗い出しが見られた)ならば、真の閉塞ではないことがわかります(利尿剤負荷腎動態検査)。

腎血管性高血圧では、片側の腎動脈の狭窄によって腎血流が低下します(注4)。腎動態(レノグラム)の検査を行うと、患側腎臓の機能低下がわかります。さらにカプトプリル(アンギオテンシン変換酵素阻害剤)を事前に経口投与して腎動態検査を行うと、アンギオテンシンIIの亢進が抑制されて患側糸球体濾過量が低下するため、レノグラムにて患側腎機能がより低下することがわかります。

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(2)腎シンチグラフィー

99mTc-DMSAは静脈注射すると、腎臓にて血中から尿細管細胞に取り込まれて蓄積します。尿にはほとんど排泄されないので、その集積は腎尿細管細胞の全般的機能を反映します。左右の腎臓の集積を比較すると分腎機能もわかります。

 

注1:体液とは体内の液体成分をいい、細胞内液と細胞外液に分けられます。細胞外液はさらに、血液の細胞以外の成分(血漿)と、血管外の細胞外液からなります。体液の組成、すなわち電解質濃度(ナトリウムイオンやカリウムイオンなど)や水素イオン濃度(酸性アルカリ性)などは、たえず一定に保たれています。体液とくに細胞外液の性質が一定に保たれることは細胞が正常に働く上で必須で、ホメオスタシスあるいは内部環境の維持などと呼ばれ、腎臓はそのために最も重要な役割を演じています。

注2:ダイナミックスキャンおよび関心領域(ROI)と時間放射能曲線(TAC)については、本シリーズ第18回参照。なお131I-OIHはガンマ線のエネルギーが高い131I標識のため画質がわるく、代わりに123I-OIHが用いられたこともありましたが、その後99mTc-MAG3が開発されて良好なダイナミックスキャンの画像が得られるようになりました。

注3:「レノ」とは腎臓という意味です。レノグラフィーは、1970~80年代、まだガンマカメラの性能がわるくコンピュータも未発達で、ダイナミックスキャンをしてROIからレノグラムを得ることができなかった時代から行われていました。当時の方法は、指向性シンチレーションカウンタ(本シリーズ第10回参照)を2台、患者の背中の左右の腎臓部にセットし、131I-OIH静脈注射後その計数率をアナログレコーダでチャート紙に印刷するという方法でした。このように、イメージングを行わずにある臓器の放射能集積を体外から測定する方法を「体外測定法」といいますが、どの部位の放射能を測定しているかが不明確なので最近はほとんど行われません。

注4:腎動脈が狭窄して腎血流が低下すると、患側腎臓でレニンの分泌が亢進し、それによってアンギオテンシンIの生成が亢進し、さらにアンギオテンシン変換酵素によってアンギオテンシンIIとなり、高血圧を来します。

 

今回は、甲状腺、副甲状腺、副腎といった、内分泌系と呼ばれる臓器(内分泌腺)(注1)や、そこから発生する腫瘍のイメージングを説明します。これらの内分泌系の臓器は、ホルモンと呼ばれる微量の活性物質を産生して血液中に放出し、それがさまざまな臓器の細胞(標的細胞)に存在する受容体等を介してその細胞に指示を伝えることにより、生体の働きを調節します。つまり内分泌系の役割は情報伝達を行うことにあります(注2)。

 内分泌系の疾患では、ホルモンが不足したり過剰に産生されたりして、身体が変調をきたします。そこで、内分泌腺でのホルモン産生を反映して集積する放射性薬剤を投与し撮像すると、その内分泌腺の働きの程度がわかります。

 ホルモンが過剰に産生される原因としては、内分泌腺に対する何らかの刺激によってホルモン産生が亢進する場合(過形成)と、ホルモンを産生する腫瘍(機能性腫瘍という)が存在する場合があります。機能性腫瘍は、たとえ良性で小さくても過剰に産生されたホルモンによる症状が現れるので、切除を必要とする場合が多いです。機能性腫瘍が小さい場合や、多発性あるいは異所性(本来の臓器とは異なる部位)に存在する場合には、どこにあるかを見いだす局在診断に核医学イメージングが役立ちます。

ホルモンの産生には一般にフィードバック機構があり、正常状態では血中ホルモンレベルが一定になるように調節されていますが、機能性腫瘍は自律的にホルモンを産生しフィードバック機構が働かないため、血中ホルモン値が異常な高値になるわけです。

下表に、主な内分泌系のイメージングに用いられる放射性薬剤をあげました。これらはすべてシングルフォトンエミッタで、シンチグラフィー(平面撮影)やSPECT(断層撮影)あるいはSPECT/CTが行われます。

 

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(1) 甲状腺のイメージング

甲状腺は前頚部にある蝶のような形の臓器で、甲状腺ホルモン(T3, T4)を生成して分泌します。甲状腺ホルモンは全身の代謝を調節します。

甲状腺ホルモンにはヨウ素が含まれているため、放射性のヨウ素(123I, 131I)を経口投与すると、甲状腺ホルモンの産生を反映して、原料として甲状腺に取り込まれます(注3)。また、99mTcO4はホルモンの原料とはなりませんが、静脈注射すると、ヨウ素イオンと同様に甲状腺に取り込まれます。そこで、これらを投与して、撮像すると、甲状腺の働きや形がわかります。投与した放射能の何%が甲状腺に取り込まれたか(甲状腺摂取率)を測定して、甲状腺のホルモン産生機能を評価することもできます。

臨床では、血中の甲状腺ホルモン値を測定できるので、甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症がわかりますが、その原因や程度、治療効果の評価に核医学イメージングが役立ちます。甲状腺機能亢進症の原因としてよく見られるバセドウ病では、腫大した甲状腺全体に強い放射能集積が見られます。プラマー病(機能性腫瘍)では甲状腺ホルモン産生腫瘍に放射能が強く集積する一方、正常甲状腺部は集積が無くなります。これは、血中甲状腺ホルモンが高値になるとフィードバックのために脳下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)が低値となり、正常な甲状腺はTSHに支配されるため機能が抑制されるからです。亜急性甲状腺炎では、甲状腺が破壊されて放出される甲状腺ホルモンによってTSHが低値となるため、同様のメカニズムで甲状腺全体に放射能集積がきわめて低くなります。一方、甲状腺機能低下症では、放射能の集積が低下します。


(2)副甲状腺のイメージング

副甲状腺は上皮小体とも言い、通常は甲状腺の裏側に4個ある豆粒のような臓器です。副甲状腺ホルモン(PTH)はカルシウムを調節する働きがあり、副甲状腺機能亢進症(PTH過剰分泌)になると、骨のカルシウムが溶け、血中のカルシウムが高値となり、腎臓に結石ができやすくなります。副甲状腺機能亢進症の原因としては、PTH産生腫瘍(機能性腫瘍)が多いですが、4つのうちどこに腫瘍があるか(多発性に発生することもあります)、あるいは異所性の場合どこにあるかの診断に、核医学イメージングが役立ちます。99mTc-MIBI(注4)を静脈注射すると、早期には甲状腺にも集まりますが、時間がたつと甲状腺から洗い出され、腫瘍のある副甲状腺が陽性に描出されます。撮像にSPECT/CTを用いると、手術のための部位の特定が容易になります。


(3)副腎皮質のイメージング

副腎は、腎臓の上内側にある三角形の小さな臓器で、中央に髄質、周囲に皮質があります。副腎皮質では、糖代謝やタンパク質代謝を調節するコルチゾール、腎臓における電解質の排泄を調節するアルドステロン、および男性ホルモンなどが産生されます。これらはいずれもステロイドホルモンで、コレステロールから生成されます。そこで、コレステロールを131I標識した131I-アドステロールを静脈注射して7日後に撮像すると、ステロイドホルモンを産生している副腎皮質に放射能が集積します(撮像まで時間がかかるので123Iでなく半減期の長い131Iで標識されたものを使います)。

また、副腎皮質でのコルチゾールの産生は脳下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)に支配されていて、フィードバックを受けます。

クッシング症候群とは、血中コルチゾールが高値となり、満月様顔貌などの特徴的症状をきたす状態を言います。その原因として、副腎皮質にコルチゾールを分泌する機能性腫瘍が存在する場合には、腫瘍に131I-アドステロールが強く集積する一方、反対側の正常副腎はフィードバックによりACTHが低値となって機能が抑制されるので131I-アドステロールが集積しません。これに対して、脳下垂体にACTH産生腫瘍がある場合には(脳下垂体以外に異所性ACTH産生腫瘍が発生する場合もあります)、両側の副腎が等しく刺激されてコルチゾールを産生するので、両側副腎で131I-アドステロールの集積が亢進します。

アルドステロンが高値となる疾患もあります。原発性アルドステロン症は、機能性腫瘍によってアルドステロンが過剰に産生される疾患で、高血圧などの症状が現れます。局在診断のために同様に131I-アドステロールによるイメージングが用いられます。


(4)副腎髄質のイメージング

副腎髄質はアドレナリンやノルアドレナリンといったいわゆるカテコラミンを分泌します。

褐色細胞腫はカテコラミン分泌細胞の腫瘍で、ノルアドレナリンが高値となるため、高血圧などの症状が現れます。MIBGはノルアドレナリンの類似物質で、褐色細胞腫によく取り込まれます(注5)。褐色細胞腫は必ずしも片側副腎に良性腫瘍として発生するとは限らず、ときに交感神経終末などから異所性や多発性に発生することもあり、悪性となって転移することもあるので、腫瘍の局在を知るためにMIBGによるイメージングが役立ちます。

褐色細胞腫の類縁疾患として、神経芽細胞腫、カルチノイド、甲状腺髄様癌などがあり、これらの腫瘍でもMIBGによるイメージングが用いられます。


注1) 分泌とは、臓器(細胞)が特殊な物質を放出することを言います。分泌する働きをもつ臓器を腺(せん)、分泌細胞を腺細胞と呼び、体外に分泌する場合を外分泌、体内(血液中)に分泌する場合を内分泌と言います(内分泌される活性物質がホルモンです)。外分泌腺の例としては、胃の粘膜にあって胃液を分泌する胃腺(胃の中は身体の「外」)、唾液腺、乳腺、汗腺などがあります。内分泌腺は上の表以外に、内分泌系の「親玉」にあたる脳下垂体、インスリンとグルカゴンを分泌する膵臓のランゲルハンス島、性ホルモンを分泌する精巣と卵巣、などがあります。

注2) 神経系も情報伝達を行います。神経細胞(ニューロン)からは突起(軸索)が伸びていて、その中を電気信号が伝わると、その終点のシナプスと呼ばれる相手の細胞と近接したところで神経伝達物質が細胞の外に放出され、それが相手の細胞の受容体に結合すると情報が伝達されます。このように、内分泌系では体内を流れる血液を介して広く情報が伝えられ、神経系では突起が伸びた先のごく限られた細胞にのみ情報が伝えられますが、細胞外に放出された物質(ホルモンや神経伝達物質)が標的細胞の受容体などを介して情報を伝える点は同じです。また、古典的なホルモンは血中に放出されるもの(循環ホルモン)を言いますが、ホルモンが細胞のすぐ近くに放出され(旁分泌という)、細胞間隙を拡散によって移動し分泌した細胞自身やその周囲の細胞に働く場合があることもわかり、そのようなホルモンは組織ホルモンあるいは局所ホルモンと呼ばれています。

注3) 放射性ヨウ素によるイメージングでは、体内にヨウ素が多くあると競合して甲状腺に取り込まれません。日本の食品にはたいていヨウ素が含まれているため、前処置としてヨード制限食を行います。

注4:MIBIは心筋血流のイメージングにも用いられます。(本シリーズ第26回参照)

注5:MIBGは心筋交感神経のイメージングにも用いられ、心筋交感神経終末にてノルアドレナリンの再吸収機構に乗って取り込まれます(本シリーズ第26回参照)。褐色細胞腫への集積も同じメカニズムによると言われています。

 

それほど頻度は多くありませんが、唾液腺(だえきせん)、肝臓、消化管など消化器系のシンチグラフィー(ときにSPECT検査)が、下の表にあげた放射性医薬品を用いて行われています。なお、この分野ではPETはほとんど用いられません。

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(1)唾液腺のイメージング

99mTcO4-(過テクネシウム酸)はCl-(塩素イオン)と似た性質があり、唾液腺が唾液を作るために血液中からCl-などを取り込む際に一緒に取り込まれます。99mTcO4-を静脈注射してガンマカメラで撮影すると、唾液腺(耳下腺と顎下腺)が画像化され、さらにレモン汁を飲ませると唾液と一緒に口腔内に分泌されます。唾液生成障害をきたす疾患では集積が低下します。また、唾液腺の腫瘍のうち、ワルチン腫瘍には99mTcO4-が周囲の正常部に比べて多く取り込まれ、一方唾液腺癌には取り込まれず欠損像となるため、鑑別に役立ちます。

 

(2)肝機能のイメージング

99mTc-GSA(ガラクトシルアルブミン)は、アシアロ糖タンパクといって、血清糖タンパクのシアル酸が除去されガラクトースという糖が表面に露出しているタンパク質を99mTcで標識したもので、肝細胞の表面の受容体を介して肝細胞に取り込まれます。肝機能が障害されると取り込みが低下するので、慢性肝炎や肝硬変などで、肝臓の機能を評価することができます。腫瘍などで肝切除手術を行う場合、残存肝機能の予測にも用いられます。

以前は、肝機能のイメージングに99mTc-フチン酸コロイドや99mTc-スズコロイドがよく用いられました。肝臓にはクッパー細胞という、異物を貪食(どんしょく=食べるように細胞内に取り込む)する細胞があり、コロイド(微粒子)を取り込むため、99mTc標識したコロイドを静脈注射すると肝臓が画像化されます。脾臓や骨髄にも網内系細胞と呼ばれる貪食細胞があるため同時に画像化され、とくに肝機能が低下するとこれら肝臓以外への集積が高まります。

 

(3)胆道のイメージング

肝臓はさまざまな物質を取り込んで代謝し(多くの場合グルクロン酸という物質を抱合(ほうごう)させて)、胆汁として胆管に排泄します。胆汁は胆嚢に蓄えられ、十二指腸に排出されて腸管にて消化を助けますが、不要になった物質を体外に排出する役割もあります。99mTc-PMTはこの過程を経て処理されるので、静脈注射後ガンマカメラでダイナミックスキャンを行うと、まず肝臓が画像化され、ついで放射能が肝実質から胆管や胆嚢に移動し、最後に腸管が描出されます。臨床的に肝・胆道シンチグラフィーは、肝臓からの胆汁排泄機能と胆道の閉塞をみるために用いられます。たとえば、黄疸(注1)の原因を診断したり、胆嚢炎など胆管の通過障害をおこす疾患を診断したり、あるいは先天性の胆道閉鎖の診断にも用いられます。

 

(4)門脈のイメージング

普通の臓器は、心臓からの動脈が入って枝分かれして毛細血管となり、それが合流して静脈となって臓器から出て心臓に戻ります。ところが腸管では、毛細血管が合流すると門脈という血管になり、それが肝臓に入って再び枝分かれし、最後に肝静脈として肝臓から出て心臓に戻ります。肝臓は腸管で吸収された栄養分や有毒物質を処理するので、腸管から出てくる血液をいったんすべて肝臓で受ける、というこの仕組みは都合よくできています。

門脈のイメージングでは、肛門からチューブを直腸に入れて201TlClまたは123IMPを注入し、腹部をガンマカメラでダイナミックスキャンすると、門脈ついで肝臓が描出されます。肝硬変などで門脈の流れがわるくなると、門脈の血液の一部が肝臓を通らずに直接静脈に流れるため、肝臓の集積が低下します。

 

(5)メッケル憩室(異所性胃粘膜)のイメージング

胃の粘膜の細胞は、血液中から物質を取り込んで胃液をつくり分泌します。99mTcO4-(過テクネチウム酸)を静脈注射すると、Cl-などと同様に胃の粘膜に取り込まれるので、胃が描出されます。

まれに、メッケル憩室といって、小腸にくぼみがありそこに胃の粘膜があって(異所性胃粘膜)、炎症を起こし腹痛や下血の原因となることがあります。99mTcO4-を静脈注射して撮影すると、腹部に異常集積として描出されます。

 

(6)消化管からの出血

消化管からの出血が疑われるが部位がわからない場合、99mTc-RBC(99mTc標識赤血球)を静脈注射して経時的にガンマカメラで撮影すると、腸管内に出血した血液が描出され、腸管の中を移動するようすがわかります。99mTc-RBCは患者自身の赤血球を99mTcで標識したものを用います(注2)。出血が断続的に起こる場合でも検査時に出血があれば画像化できますが、あまりに微量の出血はわかりません。

 

(7)消化管からのタンパク漏出

低タンパク血症の原因として消化管からタンパクが漏出する場合があります。99mTc-HSA-DTPAはタンパク質(アルブミン)を99mTc標識した薬剤で、静脈注射したのち時間経過を追って撮影すると、漏出があれば腸管が描出されるので、その部位を画像化することができます。

 

(8)消化管の運動と通過時間

 99mTc-DTPAを飲食物と一緒に経口摂取させ、ガンマカメラで経時撮影すると、食道、胃、小腸、大腸と移動するようすがわかります。消化管の運動低下や亢進、逆流、通過障害などをきたす疾患の診断に用いられます。

 

 

注1)黄疸は、肝臓における胆汁の生成や排泄の障害あるいは胆管の通過障害によって、胆汁の成分であるビリルビンがいわば肝臓から血液に逆流することによっておこります。

 

注2)99mTcはジェネレータ(本シリーズ第4回参照)から生理食塩水で抽出されると、過テクネシウム酸(99mTcO4-)の形で得られます。99mTcO4-において、99mTc原子は7価(電子が7つ奪われた形)になっています。99mTcは還元される(奪われた電子が戻される)とさまざまな化合物に結合するという性質があるので、99mTcで化合物を標識する際には、塩化第一スズなどの還元剤(電子を与える薬品)を用いて、3価ないし4価に還元します。赤血球を99mTcで標識する場合は、塩化第一スズピロリン酸を静脈注射した後、採血して得た赤血球に99mTcO4-を加えると、赤血球内のヘモグロビンに99mTcが結合し、赤血球を標識することができます。また、この標識をより簡便に体内で行うこともでき、予め塩化第一スズピロリン酸を静脈注射した後99mTcO4-を静脈注射すると、体内にて赤血球を99mTcで標識できます。

肺は、ガス交換をします。すなわち、空気中の酸素ガスを体内に取り込む一方、体内で産生された炭酸ガス(二酸化炭素ガス)を体外に排出します。身体が働くためには、糖や脂肪などのエネルギー源を酸素で分解して(燃やして)水と炭酸ガスにしますが、その際に酸素ガスが必要となり、炭酸ガスが発生します。ガス交換によって肺で取り込まれた酸素ガスは赤血球のヘモグロビンに結合して全身に運ばれ、また、全身で発生した炭酸ガスは血液に溶けて肺に集められます。

鼻や口から吸入された空気は、喉頭(こうとう=のど)で食道と分かれて気管に入り、胸の中央にある気管分岐部で2つの気管支に分かれて左右の肺に行きます。気管支はさらに2分岐を繰り返して数十万本の細気管支を呼ばれる細い管になり、その先は数億個の肺胞と呼ばれる小さな空気の袋につながっています。一方、肺へ行く血液は、全身から集まった静脈が心臓の右心室を経て肺動脈となって肺へ行き、これも分岐を繰り返して、無数の細い毛細血管となって肺胞の表面を取り囲み、ガス交換をします(注1)。ガス交換を終えた血液は、毛細血管が合流を繰り返して肺静脈となって左心房に戻り、左心室から大動脈となって全身に向かいます。

したがって、肺機能のイメージングでは、「換気」と「血流」の2つが重要な要素となります。下の表は、肺機能の核医学イメージングで用いられる放射性薬剤です。なお、肺は構造が比較的単純で、細かい部位診断はそれほど重要ではないので、SPECT(断層画像)でなくシンチグラフィーで済ませることも多いです。

 

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(1)肺血流のイメージング

99mTc-大凝集アルブミン(MAA)は、ヒト血清アルブミンというタンパク質を凝集して微細な粒状にしたものを99mTcで標識した薬剤です。静脈注射すると、肺動脈から肺血流に応じて肺毛細血管に運ばれ、引っかかるので、肺血流の分布がわかります(注2)。

99mTc-大凝集アルブミンは肺塞栓症(注2)の診断にもっともよく用いられます。肺塞栓症は下肢の深部静脈血栓症や外傷などが原因でおこりますが、エコノミークラス症候群といって長時間座位を続けるとおこることもあります。肺塞栓症は、肺動脈の太い枝に多発性に塞栓がおこるので、肺血流シンチグラフィーで多発性にくさび形の欠損が描出され、診断や治療効果の評価に役立ちます。

99mTc-大凝集アルブミンは、右左シャントの評価にも用いられます。心臓の先天異常などで右心系から左心系へのシャント(短絡)があると、99mTc-大凝集アルブミンの微細粒子が肺へ行かずに直接大動脈に流れ込むため、肺のみならず脳、甲状腺、腎臓、肝臓、脾臓といった臓器(体循環系の臓器)が写ります。ここからシャント率すなわち循環血液の何%がシャントを流れているかを測定することも可能です。


(2)肺換気のイメージング

不活性でほとんど体内に取り込まれない放射性ガスを吸入させて撮像すると、肺の換気の分布がわかります。

133Xe-キセノンガスは半減期が比較的長い(5.3日)ので、まず吸入させ息をとめて撮影する(吸入相)と換気の分布がわかり、次に閉鎖回路(呼出した空気をそのまま吸入させる)でしばらく呼吸させてから撮影する(平衡相)と換気の悪い部位にも入って行くので肺容量の分布がわかり、その後新鮮な空気を吸入させる(洗い出し相)と換気の悪い部位に放射能が残ります。一方、81mKr-クリプトンガスは、半減期がきわめて短い(13秒)ので、吸入させながら撮影すると換気の分布がわかります。これに対して、99mTc-テクネガスは、空気中に99mTcで標識されたきわめて小さい炭素の微粒子が浮遊していて、吸入させると肺胞に到達し沈着するので、換気の分布がわかります。(注3、4)

 肺気腫や慢性気管支炎など慢性閉塞性肺疾患と呼ばれる病気では、気管支・細気管支の狭窄や肺胞の破壊が起こって換気が障害されるため、肺換気のイメージングで換気の欠損や不均一として画像化され、病変の分布や重症度を評価することができます。

また、肺換気のイメージングは、上に述べた肺塞栓症の診断において、99mTc-大凝集アルブミンによる肺血流イメージングとセットでよく用いられます。肺血流画像にて欠損があるのに肺換気画像で欠損がない(換気血流ミスマッチと言う)場合には、肺塞栓症が強く疑われます。一方、肺気腫や慢性気管支炎など気道系の病気では、病変部位では換気と血流の両方が低下します(換気血流がマッチする)。これは、肺血流が換気によって調節されているからです。(注5)

注1) 吸気によって肺胞内に流入する空気(吸入気)と、肺動脈から毛細血管内に到着する血液(静脈血)とでは、酸素ガス分圧は吸入気の方が大きく、炭酸ガス分圧は静脈血の方が大きいため、酸素ガスも炭酸ガスも圧力の勾配に従って移動し、ガス交換が起こります。その結果、それぞれのガスに関して、肺胞内と毛細血管内の分圧が速やかに等しくなります。

注2) 一般に血管内を流れる粒子が血管内径の細いところに引っかかることを「塞栓=そくせん」と言います。塞栓がおこるとその先の血流が途絶するため、病気になることがあります(塞栓症)。病気としての塞栓症は、通常、血の塊(血栓=けっせん)が比較的太い血管に塞栓をおこします。なお、肺血流シンチグラフィーでは、大凝集アルブミン(MAA)粒子が非常に小さくて太い血管ではなく毛細血管で引っかかりMAA粒子よりも毛細血管の数が圧倒的に多いこと、またMAAはそのうち溶けるので、肺血流シンチグラフィー検査によって塞栓症の副作用が起こることはありません。

注3) 99mTc-テクネガスは、炭素るつぼを用いて発生させます。厳密にはガスではなくエーロゾル(=気体中に固体や液体の微粒子が浮遊しているもの)ですが、粒径が非常に小さいのでガスのように振舞います。

注4) 肺換気のイメージングではありませんが、粒径のより大きい放射性エーロゾル(99mTc-HSAエーロゾルや99mTc-DTPAエーロゾルなど)も肺の核医学検査に用いられます。これは、99mTcの溶液を超音波ネブライザにかけて発生させるもので、吸入させると、気管支の狭窄など気道の途中で換気が乱れた部位に沈着し、その先には入りません。さらに、時間経過を追って撮影すると、気道に沈着した放射性同位元素が痰のように粘液とともに気道内面の線毛運動によって喉頭へと排出されるようすが画像化され、粘液線毛輸送を評価することもできます。また、99mTc-DTPAは肺胞まで到達すると血中に移行するので、肺胞透過性を評価することもできます。これらは、エーロゾル肺吸入シンチグラフィーなどと呼ばれます。

注5) もし換気が無い部位に血流があると、そこへ行った血液はガス交換をせずに(酸素化されずに)左心房に戻ることになり、その分、大動脈の血液に含まれる酸素が少なくなります。換気にあわせて血流が調節されるというメカニズムは、それをある程度防いでいます。

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