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 第35回 RI治療

RI治療(RI内用療法、内照射治療)とは、主としてがんの患者を対象とするもので、がんに集まる放射性薬剤を投与し、がんに集まった放射性同位元素(RI)から出る放射線によってそのがんを治療する方法です。

表:わが国で行われている主なRI治療

放射性医薬品 RIの半減期 RIから放出される放射線 対象、目的
131I-ヨウ化ナトリウムカプセル(Na131I) 8日 ベータ線とガンマ線 分化型甲状腺癌の治療、甲状腺機能亢進症の治療
89Sr-塩化ストロンチウム(89SrCl2 51日 ベータ線のみ 骨転移の疼痛緩和
90Y-イブリツモマブ(抗CD20抗体) 64時間 ベータ線のみ リンパ腫の治療

がんに集まる放射性医薬品を使う点ではイメージングと似ていますが、RIの種類が異なります。イメージングでは比較的半減期が短くてガンマ線のみを放出する放射性同位元素が好んで用いられるのに対し、RI治療では比較的半減期が長くてベータ線を出す放射性同位元素がしかも大量に用いられます。ガンマ線は電磁波(光)で体外に出てくるので撮影に適しているのに対し、ベータ線は電子(粒子)なので放出された地点からごく短い距離しか届かないため、RIが集積したがんには高い線量があたりますが、そこから離れた正常臓器にはあまりあたりません。

一般にがんは放射線感受性が比較的高いので、がんの放射線治療は医療の場で広く行われています(注1)。一般の放射線治療と比べて、RI治療の特徴は、がんが身体のどこにあっても、たとえがんが広く転移していても、がんにRIが集まりしかも正常部位(とくに放射線感受性の高い臓器)にあまり集まらないならば、治療ができることです。

RI治療では、イメージングに比べてはるかに多量のRIを用いるので、家族や公衆の被ばくを軽減するために、RIの種類と放射能投与量によっては、退出基準というルールに従って、一定期間患者を特殊な病室(放射線治療病室)に収容します。とくに131Iからは強いガンマ線が出るので、131I治療直後の患者にずっと近接して付き添うと被ばくが無視できません。したがって、常時近接介護が必要となる患者には、131Iによる治療は適していません。また、尿などにRIが排泄される場合には排泄物の扱いにも注意が必要です(本シリーズ第9回参照)。

(1)Na131Iによる甲状腺癌の治療

甲状腺ホルモンにはヨウ素が含まれ甲状腺細胞はヨウ素を取り込む性質があるので、放射性のヨウ素(Na123I, Na131I)が甲状腺のイメージングやホルモン産生機能の評価に用いられます(本シリーズ第29回参照)。甲状腺癌のうち、分化型のものは、甲状腺の腺細胞から発生するため、ホルモンは作りませんが、ヨウ素を取り込むという性質を残しています。そこで、Na131Iによって分化型甲状腺癌やその転移病巣を画像化することができ、さらにNa131Iを大量に投与すれば甲状腺癌とくにその転移病巣を治療することができるわけです。

ただし、正常甲状腺が残っていると、甲状腺癌よりも131Iをよく取り込むので、治療ができません。そこで、まず手術をして正常甲状腺を全部切除します(もちろんがんもなるべく切除します)。それでも正常甲状腺組織が少し残ることが多いので、術後に一度Na 131I治療をして残存正常甲状腺組織をいわば放射線で焼いてしまうことが多いです(アブレーションと言う)。

もうひとつ重要なことは、甲状腺癌が131Iを取り込むためには、脳下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)のレベルが高くなる必要があります(注2)。甲状腺癌の患者は通常正常甲状腺の全摘出術を受けていて甲状腺ホルモンを作れないため、甲状腺ホルモン剤を投与されています。そこで、131I治療の前に甲状腺ホルモン剤の投与を止めることによって、甲状腺ホルモンのレベルを下げ、フィードバック機構によってTSHレベルを上げ、そのタイミングを狙って大量の131Iを投与するわけです(注3)。また、血中のヨウ素レベルが高いと競合して131Iのがんへの集積を妨げるので、予め食餌をヨード制限食に切り替えておきます。

131Iからはベータ線のみならずガンマ線も出るので、Na131IによるRI治療においては、家族や職員の被ばくを軽減するために、患者を一定期間放射線治療病室に入院させます。131Iは尿に排泄されるため、尿の扱いにも注意します。

131Iから出るガンマ線をガンマカメラで撮影すると、131Iの分布を撮影できます。そこでNa131I治療では投与後しばらく日数がたってからガンマカメラで全身を撮影し、がんの転移病巣のすべてに131Iが集まっていること(すなわち治療ができたこと)を確認します。

(2)89Sr-塩化ストロンチウムによる骨転移の疼痛緩和

ストロンチウム(Sr)はカルシウムと似た性質があり骨に集まります。骨転移があると集積が増えるので、89Sr-塩化ストロンチウムを投与し、89Srから出るベータ線で治療します。がんの骨転移は強い痛みを伴うことが多く、89Sr治療は疼痛軽減に効果があるので、患者のQOL(Quality of Life、生活の質)の向上に役立ちます。

ただし、89Srの疼痛緩和効果はがん細胞を傷害するからではなく、骨転移に伴う炎症などの発痛機構を抑制するためと考えられています。89Srから出るベータ線の線量は、がんそのものを治療できる量にはならず、もちろん骨転移病巣以外のがん病巣には治療効果はありません。したがって、89Sr治療による延命効果はほとんどありません。

89Srはベータ線のみを放出しガンマ線を出さないので、通常の方法ではイメージングができません。しかし、89Srから放出されるベータ線からは制動X線(注4)が出るので、それをガンマカメラで撮影すれば、画質は悪いですが、骨転移に集まったかどうか89Srのおおまかな分布を確認できます。患者の身体から出る制動X線はごく少量なので周囲の人の被ばくは無視でき、89Sr治療は外来で実施可能で、患者は89Sr注射後退出帰宅できます。

(3)90Y-イブリツモマブによるリンパ腫の治療

悪性リンパ腫(リンパ球のがん)のうちBリンパ球系のものは、細胞の表面にCD20という抗原があります。90Y-イブリツモマブ(フルネームは90Y-ibritumomab tiuxetan)はそれに対するモノクローナル抗体をイットリウム-90(90Y)というRIで標識したものです。これを静脈投与するとリンパ腫細胞に結合し、90Yから放出されるベータ線でリンパ腫を治療できます。このように、腫瘍に対するRI標識抗体で行うRI治療を、放射免疫療法と言います。

90Yからはガンマ線が出ないので、90Y-イブリツモマブの投与後に分布を撮影することができません。そこで、事前に111In-イブリツモマブを投与してガンマカメラで撮影します。111In-イブリツモマブはインジウム-111(111In)というガンマ線を出すRIで標識されている点を除けば同じ抗体なので、体内でほぼ同様に振る舞い、ガンマカメラで撮影すれば分布がわかります。111In-イブリツモマブ投与後の撮影で、もし骨髄への集積が高い場合には、90Y-イブリツモマブ治療をすると骨髄がうける放射線量が高くなり造血機能を損なう恐れがあるので、90Y治療は行われません。

注1: 一般にいう「がんの放射線治療」では、リニアックや粒子線治療装置を用いて体外から強いX線や粒子線をがんにあてて治療する方法や、腔内照射や小線源治療といってがんの表面や内部に放射線源(密封されたRI)を挿入して線源から出るガンマ線でがんを治療することが行われます。これらの放射線治療では、がんの位置と範囲を正確に知ることが重要で、そのためにCTやMRI、ときにPETも用いられます。そのようにして決めたがんの範囲に多くの放射線をあて、周囲の正常部にはあまりあたらないように線量計算し(これを治療計画と言う)、その計算に基づいて照射の方向や量を決めます。つまり、がんの範囲を正確に知ることと、計算したとおりに正確に放射線をあてることがきわめて重要です。また、がんが広く転移している場合には、そのすべてを照射することは困難です。

これに対して、RI治療では、がんがどこにあっても、全身に転移していても、そのがんにRIが集まれば治療ができます。そのかわり、がんにRIが集まらなければ、まったく治療になりません。

通常の放射線治療は、病院では放射線治療部門が行いますが、RI治療はRIの管理と取り扱いを伴うので核医学部門が関与し、内科や外科にてそのがん患者をふだん診療している部門との密接な連携のもとに、さらに病院によっては放射線治療部門の協力も得て実施されます(本シリーズ第1回参照)。

注2: 正常甲状腺はTHSに支配されていますが、甲状腺癌もその性質が残っています。TSHについては本シリーズ第29回参照。

注3: 最近TSHが人工的に合成できるようになったので、合成したTSHを投与してTSHレベルを上げる試みもあります。

注4: 高速の電子が原子核に近づくとブレーキ(制動)がかかり、それによって失うエネルギーがX線として放出されます。これを制動X線といいます。X線撮影やX線CTのX線管球、放射線治療で用いられるリニアックなど、通常X線とよばれるものはすべて制動X線で、電子を加速しターゲットにあてて発生させます。89Srから放出される電子も同様に周囲の原子によってブレーキがかかり、制動X線が出ます。制動X線のエネルギーは電子のエネルギー(X線管球の場合は電子の加速電圧)を上限とする連続スペクトルをなします。これに対してRI(たとえば201Tl)の崩壊に際して放出されるX線は示性X線といい、単一エネルギーです。