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ASCA

 第34回 骨髄、白血球、リンパ節のイメージング

表:骨髄、白血球、リンパ節のシンチグラフィーやSPECTに用いられる放射性薬剤の例

  放射性薬剤 評価できるもの、用途
骨髄 111In-InCl3(塩化インジウム) 造血組織の分布
白血球 111In-インジウムオキシン-白血球
99mTc-HMPAO-白血球
炎症、感染症の局在
リンパ節 99mTc-フチン酸コロイド、
99mTc-スズコロイド
がんの転移におけるセンチネルリンパ節の同定

(1)骨髄シンチグラフィー

骨髄は骨の中の空洞にあり、赤血球や白血球、血小板を作る造血組織です。赤血球のヘモグロビンには鉄が含まれるので、造血組織には鉄が取り込まれますが、111In-InCl3(塩化インジウム)は鉄と同じような挙動をとって造血組織に取り込まれるので、静脈投与2日後にシンチカメラで全身を撮像すると、造血組織の分布がわかります(注1)。

正常の成人では、脊柱や腰の骨など体幹部の骨髄(中心骨髄)でのみ造血が行われており、腕や脚の先のほう(末梢骨髄)には造血組織がありません。白血病や再生不良性貧血などの造血系疾患になると、造血骨髄が末梢まで拡大したり、中心骨髄の機能が低下して体幹部に集積しなくなったり、さらには骨髄以外で造血(髄外造血)が行われたりすることがあり、診断や病態評価に役立ちます。造血系の疾患の診断は、通常胸の骨(胸骨)や腰の骨(腸骨)から造血組織を採取し細胞を詳しく調べて診断しますが、侵襲的であり、しかも採取されるのは骨髄のごく一部です。骨髄シンチグラフィーは全身の骨髄の働きを見ることができる検査法として用いられています。

(2)白血球シンチグラフィー

患者の血液から白血球を抽出し、111In-オキシンや99mTc-HMPAOで標識して静脈注射し、シンチカメラで全身を撮像すると、白血球が集まる部位を画像化できます。白血球は炎症に集まるため、感染症や膿瘍など炎症の局在と分布を画像化でき、不明熱(原因不明の発熱)の熱源探索や人工臓器の感染の診断などに役立ちます。とくに標識白血球は、67Ga-クエン酸ガリウムなどと異なり、腫瘍にはあまり集まらず炎症に特異的に集まる点が優れます。しかし、標識操作に手間がかかるのが欠点です(注2,3)。

(3)センチネルリンパ節シンチグラフィー

がんが転移するときは、原発巣の近くのリンパ節にまず転移することが多いです。これは、原発巣にてがん細胞がリンパ管に進入し、リンパ液の流れに乗って原発臓器から出て、まず近くのリンパ節に到達するからです(注4)。そこで、がんの根治的手術において、オーソドックスな方法としては、がんの原発巣および近くのリンパ節一式すべてを切除する(郭清(かくせい)という)ことが行われます。しかし、リンパ節郭清は、一般に侵襲的で手術の規模が大きくなるので、もしリンパ節転移が無く郭清の必要が無いならば避けたいところです。たとえば、乳癌の場合には腋下リンパ節を郭清することになりますが、そうすると腕から胸部に流れてくるリンパ液を遮断することになるので、術後にしばしばリンパ浮腫といって腕が腫れ上がる合併症をきたします。リンパ節転移は、ごく小さなものは通常の画像診断ではわかりません。そこで、センチネルリンパ節の生検という方法が用いられます。

センチネル(見張りという意味)リンパ節とは、原発巣から流れ出すリンパ液が最初に到達するリンパ節をいいます。がんのリンパ節転移は、もし転移するならばまずセンチネルリンパ節に転移すると考えられます。そこで、通常の術前検査にて明らかなリンパ節転移の所見がない患者では、まずセンチネルリンパ節を採取して顕微鏡で調べ、もし全く転移がなければ他のリンパ節にも転移がないと考えて郭清はしない、もし少しでも転移があれば他のリンパ節にも転移がある可能性があると考えて郭清する、という手術方針が採用されます。

そのためには、どのリンパ節がセンチネルリンパ節であるかを同定しなければなりません。センチネルリンパ節は原発巣とリンパ節の位置関係によって決まり、個人差もあります。そこで、リンパ液の流れに乗って運ばれる物質を実際に原発巣かそのすぐ横に注入し、どのリンパ節に最初に到達するかを調べます。そのために、99mTc-標識のコロイドが用いられます。コロイドは微粒子なので、リンパ管の中を流れてリンパ節に到達するとそこで捕らえられて留まるため、撮像すると位置がわかります。

術前に99mTc-標識のコロイドをがんのすぐ横(静脈内ではない)に注射すると、数時間後か翌日にセンチネルリンパ節に集積するので、シンチカメラで撮像して同定し、手術にて採取して調べ、リンパ節郭清するかどうかの手術方針を決めます。このとき、シンチグラフィーの画像だけでは手術時にリンパ節を同定するのが難しい場合があるので、術中にガンマプローブ(本シリーズ第10回の図3参照)を用いて、放射線を発するリンパ節を同定します。

なお、センチネルリンパ節の同定には、放射性薬剤を用いる核医学的方法のほかに、手術時に色素を注入する用いる方法もあります。

注1:骨髄のイメージングに用いられる放射性薬剤としては、次に述べる111In-オキシン白血球も造血骨髄に集まります。このほか、骨髄には、網内系の細胞(異物を食べる細胞)があるため、99mTc-標識のコロイドも用いられますが、造血機能を評価するものではありません。一方PET用の薬剤としては、造血組織は細胞分裂が盛んなので18F-FLTが集積し、PETで全身を撮像するとその分布がわかります(本シリーズ第33回参照)。また、糖代謝も盛んなので18F-FDGも骨髄に集積します。

注2:18F-FDGによるPETも炎症や感染症の病巣の描出に優れます(本シリーズ第33回参照)。FDGは炎症のみならず腫瘍およびいくつかの正常組織にも集まりますが、撮像にPET/CTを用いることによって、CTによる形態情報をFDGの集積情報と組み合わせれば、診断精度が向上します(本シリーズ第14回参照)。

注3:「細胞治療」が最近注目されています。これは、細胞を患者に投与しその働きによって治療する方法で、失われた機能を取り戻す「再生医療」の一つの柱となる治療法です。細胞治療においては、有効性を評価するために、投与した細胞が期待する部位に到達したことを確認したい場合があります。投与した細胞の行方を追跡することをcell trackingといいますが、放射性同位元素で標識した細胞を投与する核医学イメージングは、そのための有用な手法です。

注4:リンパ液はタンパク質や脂肪が含まれる液体で、リンパ管の中を流れます。リンパ管は全身組織から出て、途中リンパ節をいくつも通りながら、最終的には静脈に注ぎます。リンパ節にはリンパ球がいて必要に応じて増殖し、リンパ液中の異物を(不完全ながら)捕捉する、いわばフィルタのように働くと考えられています。(がん細胞もコロイドも異物です。)