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ASCA

 第33回 腫瘍のPET

18F-フルオロデオキシグルコース(FDG)が、腫瘍のPETの定番ですが、FDG以外にもさまざまなPET用放射性薬剤が、主として研究に用いられます。

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FDGはブドウ糖と同じようにグルコーストランスポータに乗って細胞膜を通過して細胞に入り、ブドウ糖と同じようにヘキソキナーゼによってリン酸化されますが、ブドウ糖と異なり、リン酸化された後は代謝されず細胞内にとどまります(代謝的に捕捉される=metabolic trap)。したがって、FDG注射後約1時間たつとその分布は糖代謝の分布を反映します。腫瘍は一般にグルコーストランスポータが亢進しかつ糖代謝がさかんなので、FDGは大部分のがんによく集まります。とくに、昔から腫瘍の核医学検査に用いられてきた67Ga-クエン酸ガリウムによるシンチグラフィーやSPECTに比べてバックグラウンドが低くてコントラストがよく、PETは物理学的な画質もよいので、このところ急速に普及してきました。

FDGによるがんのPET検査の臨床における目的(医療に用いられる場面)を列挙すると、以下のようになります。

・健康な人でのがん早期発見(がん検診)

・がんの存在診断(良性疾患との鑑別診断)

・がんの進展範囲を決める病期診断

・転移が先に見つかった場合の原発巣の探索

・治療効果の評価や予測

・治療後の再発の発見と診断

FDGはブドウ糖を取り込む臓器や病変なら、腫瘍以外でも集まります。個人差もありますが、正常でFDGが集まる部位は、脳、唾液腺、扁桃、胸腺、乳腺、心筋、肝、胃・腸管、骨格筋などです。脳はエネルギー源としてブドウ糖を使うのでFDGが強く集まり(したがって脳腫瘍の診断には適さない)、これを逆に利用して脳疾患の診断にFDGが用いられます(本シリーズ第24回参照)。心筋も、食後などインスリンレベルが高い状態ではブドウ糖をエネルギー源とするため、これを利用して心筋のバイアビリティの評価にFDGが用いられます(本シリーズ第26回参照)。

また、FDGは尿に排泄されるので(ブドウ糖は糖尿病でない限り尿に出ない)、腎臓、尿管、膀胱が描出されます。

筋肉も運動するとブドウ糖を取り込むので、がんのFDG-PET検査の際には安静が必要です(注1)。

炎症細胞(マクロファージや白血球など)は糖代謝が盛んなため、FDGは炎症にもよく集まります。リンパ節炎、う歯(虫歯)や歯周炎、甲状腺炎、放射線肺炎やその他の肺炎、膵炎、腸炎、痔、動脈炎、関節リウマチ、結核などの肉芽腫、サルコイドーシス、外傷や手術創といった炎症性の病変にFDGが集まることが知られています(注2)。実はがんがFDGで描出されるのも、がん組織の周囲に集まった炎症細胞へのFDGの集積が寄与しています。そういうわけで、FDG-PET検査で異常集積が見つかっても、腫瘍か炎症か判断に迷う場合があります。一般にがんのほうが炎症よりもFDG集積が高いですが、例外もあるので、SUV値だけで決めつけることはできません(本シリーズ第17回参照)。とくにがんの治療後は炎症が残ることが多いので、がんの治療後その効果を見るためのFDG-PET検査では慎重に画像を解釈する必要があります。このように、FDGは決して百発百中ではないので注意が必要です(注3)。

このほか、FDGが動脈硬化巣(プラーク)に集まることもあります。FDGが集積した動脈硬化巣は、炎症細胞であるマクロファージが集まっていて、将来破裂して血栓症を起こす危険がより高い動脈硬化プラークの可能性があると言われています。

腫瘍はアミノ酸トランスポータの発現も亢進していて、アミノ酸をよく取り込むので、11C-メチオニンや18F-フルオロエチルチロシン(FET)といったアミノ酸製剤も腫瘍のPETイメージングに用いられます。これらは正常な脳にはほとんど集まらず、一方脳はFDGの弱点なので、脳腫瘍の診断にアミノ酸製剤が好んで用いられます。アミノ酸製剤は、膵臓、唾液腺、肝臓といったタンパク質の合成が盛んな臓器には正常でもよく集まります。

11C-コリンや11C-酢酸もさまざま腫瘍に集まります。これらは、細胞膜の原料になるとされ、腫瘍は細胞分裂が盛んで細胞膜の合成も盛んなので、よく集まると言われています。

18F-フルオロチミジン(FLT)はDNAの原料であるチミジンを18Fで標識した化合物です。がんは細胞の増殖がさかんですが、細胞は分裂する前にDNAを複製しそのためにチミジンを取り込みます。FLTはチミジンと同様に細胞に取り込まれ、チミジンキナーゼ(TK1)という酵素でリン酸化されて細胞内に滞留するため、FLTは増殖の盛んな腫瘍に多く集まります(注4)。単にがんの有無を見るためならFDGで十分ですが、そのがんの活発さや治療効果を見るのに、FLTで細胞増殖を評価するのが役立つと期待されています。また、FDGは炎症にも集まりますが、FLTはFDGほど炎症には集まらないため、特異度の高い診断ができると期待されています。正常臓器のなかでは、骨髄が細胞分裂が盛んなので、FLTは骨髄にも集まります。

18F-フルオロミソニダゾール(FMISO)や60Cu(または62Cu, 64Cu)-ATSMは、低酸素に集積すると言われています(注5)。一般に腫瘍は増殖に血流の供給が追いつかず、酸素(O2)が足りなくなる傾向にありますが、とくに低酸素環境にある腫瘍は、放射線治療や化学療法に反応しにくいとされます(あまり細胞分裂しないためとも言われています)。低酸素イメージング剤は治療抵抗性を予測し、その患者に合った治療の計画を立てるうえで役立つと期待されています。

RGDは、アルギニン、グリシン、アスパラギン酸からなるペプチドで、αVβ3インテグリンというタンパク質に集まります。このタンパク質は、がん組織内にある新生血管の血管内皮細胞に強く発現するため、18F-ガラクトRGDの集積は、がんの血管新生の指標になると言われています。一般に腫瘍は自身を栄養するために自ら血管を作りますが、18F-ガラクトRGDの集積からその腫瘍の血管が豊富かを評価できると言われています。とくに抗癌剤のなかには血管新生を阻害する薬があるので、その効果を評価するためにも役立つと期待されています。

がん細胞には特定の受容体が発現しているものがあり、それを画像化することもできます。18F-フルオロエストラジオール(FES)は、女性ホルモンであるエストロゲンを18F標識したもので、エストロゲン受容体に集まります。乳癌のうちエストロゲン受容体があるタイプのものはホルモン治療が効くとされるので、FESが集積すればホルモン治療が効くことが予測できると言われています。このほか、ソマトスタチン受容体を画像化する68Ga標識薬剤もいくつか知られており、神経内分泌腫瘍のイメージングに用いられます(本シリーズ第32回参照)。

 このように、がんの有無と局在だけなら多くの場合FDGだけで十分ですが、さまざまなPET用放射性薬剤を用いてそのがんの生物学的性質を明らかにすれば、どのような治療が効くか、また、実際に治療に反応したかどうかを評価することができ、個々の患者に適した治療ができると期待されています。

注1:質の高いFDG-PET検査のためには、絶食と安静が必要です。食後で血糖が高いとFDGと血中のブドウ糖が競合するうえ、インスリンのレベルが上がって筋肉へのFDG集積が増えるため、腫瘍のFDG-PET検査前には数時間の絶食が必要です。また、FDG注射後は安静が必要で、歩くと脚に、話をすると喉に集まります。さらに、検査の前に激しい運動をすると筋肉に蓄えられたグリコーゲン(ブドウ糖が多数つながった栄養物質)が枯渇し、運動後には筋肉がブドウ糖を取り込んでグリコーゲンを生成します。したがって、前日から激しい運動を控えます。

注2:FDGが炎症に集まることを利用して、感染症や炎症の診断に用いられることがあります。たとえば、人工血管や人工関節などの人工物を入れた患者でその細菌感染を早期に発見する、不明熱の患者で感染巣などの熱源を探索する(がんも不明熱の原因となり得るので都合よい)、など。

注3:がんでもFDGが集積しにくいものがいくつか知られています。肺の高分化腺癌、分化型肝細胞癌、早期胃癌、進行胃癌でも粘液癌やスキルスといった細胞成分の少ない癌、前立腺癌、超早期の癌である粘膜内癌などはFDGが集まりにくいとされます。

注4:FLTはチミジンと異なりDNAそのものには入りませんが、FLTのがんへの集積はTK1の活性を反映し、TK1活性は細胞増殖を反映するので、細胞の増殖とFLTの集積が相関することが知られています。FLTは分裂している正常細胞にも入るので、正常細胞のDNAにフッ素化されたチミジンが入れば遺伝子に傷がつくことを考えると、DNAにFLTが入らないことは都合がよいと言えます。

注5:細胞はエネルギーを得るためにブドウ糖や脂肪酸などを好気的に分解します、つまり酸素(O2)で燃やしますが、その最終段階は電子伝達系と呼ばれ、電子(水素と同等)が酸素と反応して水ができます。酸素が足りなくなると電子伝達系が動かなくなり、電子が余って還元力が高まります。FMISOやCu-ATSMは、低酸素環境では還元されて(Cu-ATSMはCuが2価から1価になる)、細胞内に滞留すると言われています。