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 第31回 骨のイメージング

骨は身体の姿勢を保ち運動するための支えですが、鉄骨のような無味乾燥とした「モノ」ではなく、いわば「生きている臓器」です。

骨の硬い物質はハイドロキシアパタイト(水酸化リン灰石)とよばれるミネラル(無機質)で、カルシウムやリンからできていて、もちろんこれは「生きているもの」ではありません。実は、骨の中には小さいすき間が多数あって、そこに細胞がたくさん住んでいて、その細胞がタンパク質とミネラルを分泌して硬い骨を作り、あるいは溶かして吸収しています(注1)。これらの細胞を栄養するために、骨には血管が分布し血液が流れています。

なお、骨の中央部の空間は「骨髄」といって血液細胞(赤血球や白血球)を作る場所ですが、骨とは別の臓器として扱われます(注2)。

骨の核医学イメージングでは、下の表のように、99mTc標識のリン酸塩や18F標識のフッ素陰イオンが用いられます。これらは骨のミネラルに結合し、骨に集まるので、静脈投与後しばらくしてから(通常99mTc製剤は約3時間、NaFは約1時間後に)撮影すると、全身の骨格が画像化されます。骨反応といって骨が作られたり溶けたりするところにはよく集まり、とくに骨が作られるところには強く集まります。がんの骨転移を初めとする骨の腫瘍(悪性腫瘍と良性腫瘍)、骨折、炎症、感染症など骨の疾患では、骨反応が亢進するため、骨のイメージングを行うと、病変部が強い放射能集積として骨格の上に描出されます。

骨格の形は頭部や顔面以外は比較的単純で重なりも少ないので、99mTc-MDPや99mTc-HMDPの画像はSPECTでなく、前後面のシンチグラフィーを撮影することが多いです。

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 99mTc-MDPや99mTc-HMDPは、がんの骨転移の検査に広く用いられています。がんの中でも、肺癌、乳癌、前立腺癌は骨転移を起こしやすいことで知られ、他に、甲状腺癌、腎癌、メラノーマ(悪性黒色腫)も、よく骨転移をきたすので、これらのがんではしばしば骨シンチの検査が行われます。一般にがんはどこまで広がっているかによって治療方法がかわるため、転移の有無をみることはきわめて重要です。骨転移の検索は全身を調べる必要がありますが、核医学イメージングを用いれば比較的簡単に全身を撮影でき、もし骨転移があれば異常集積として光るので容易に発見できます。ただし、骨の核医学イメージングにおける異常集積は、理論的にはそこに骨反応が亢進する病変があるという意味しかなく、必ずしもがんの転移とは限りません。たとえば、骨折や歯疾患への集積像は日常よく見られる所見です。そこで、異常集積が見つかれば、その部位に対してX線CTやMRIさらには生検などで詳しい検査を行います(注3)。このように、骨の核医学イメージングは一般に感度が高く、特異度がやや低い検査です。(注4)。

 がんの骨転移には造骨性(ミネラルが作られるタイプ)と溶骨性(ミネラルが溶けるタイプ)があり、造骨性のほうが強い集積が見られます。溶骨性の場合、骨が完全にがんに置き換わってしまうと、放射性薬剤が集積せず陰性の欠損像となることもありますが、その場合でもがんと骨の境界部では溶骨性変化が進行中で異常集積が見られることが多く、全体としてドーナツ状集積となります(注5)。

 骨転移の発見目的以外に、すでに骨の腫瘍、骨折、炎症、感染症などの疾患があって、その広がり具合や治療経過をみるためにも、骨の核医学イメージングが用いられます。

 99mTc-MDPや99mTc-HMDPの集積は、その部位の血流の影響を受けます。一般に骨病変で骨反応のおこっているところは血流も増加することが多いですが、とくに血流の多い病変には高い集積が見られます。血流の影響は投与直後に最も大きいので、病変の部位がわかっている場合に、三相骨シンチといって静脈注射直後の血流相、その後の血液プールの画像、そして3時間後の骨シンチと、3回にわたって撮影し、病変の広がりと血流を合わせて評価する方法もあります。

 99mTc-MDPや99mTc-HMDPは骨以外にも集積することがあります。たとえば、脳梗塞、大腸癌の肝転移、化骨性筋炎などさまざまな病変に集積します。これらには、カルシウムが沈着(石灰化という)している場合がありそれがX線CTでわかることもあります。

 最近99mTcの親核種である99Mo(注6)を生産する原子炉の故障が相次ぎ、99mTcの供給が不足する状況がときどき発生しています。米国では、99mTc-MDPや99mTc-HMDPの供給が途絶えた場合に、骨シンチの代替検査法として、Na18FによるPETが注目されています。もちろんわが国ではNa18Fは承認もされず健康保険適用でもありませんが、18Fはサイクロトロンで18F陰イオンの形で生成されNa18Fを製造するための特別な標識合成反応が要らないので、技術的には比較的簡単に院内製造できます。

注1: 骨を薬品につけてミネラルを流し去り軟らかくしたのち、薄く切って顕微鏡で観察すると、微細なすきまが多数見え、そこに骨の細胞がいることがわかります。骨の細胞には、通常の骨細胞のほかに、骨を作る「骨芽細胞」や、骨を溶かす「破骨細胞」があり、これらの働きによって血液中のカルシウムが調節されるほか、小児の成長や骨折後の癒合がおこり、さらには筋力トレーニングをすれば骨格にかかる力に応じて骨の太さや長さが変わってゆきます。

注2: 身体を支えるという目的のためには、鉄パイプと同じように、骨の内部は空洞で差し支えありません。この空洞が骨髄であり、造血細胞がいて赤血球や白血球を作っているわけです。

注3: 初めからX線CTやMRIで全身の骨を撮影するのは、撮影と読影の手間や、X線の場合被ばくを考えると、現実的ではありません。

注4: 感度と特異度については本シリーズ第23回参照。

注5: 骨に限らず、転移の検索を含めてがんの診断には、FDGによるPET検査がよく用いられます。FDGは糖代謝のさかんな部位に集まり、一般にがんは糖代謝が盛んなので、FDGががんに集まります。FDGは骨に転移したがんにも集まるので、FDGによるPET検査で骨転移も発見できます。とくにFDGは、骨シンチとは逆に、溶骨性で骨ががんに置き換わっている場合によく集まります。

注6: 99mTcは99Mo/99mTcジェネレータからミルキングによって抽出します(本シリーズ第4回参照)。原料の99Moは、世界的に見てもごく限られた数の原子炉で製造されていますが、老朽化によるトラブルで製造休止がときどき発生しています。わが国には99Moを製造する原子炉はなく、すべて輸入に頼っています。