株式会社アスカコーポレーション - 医薬翻訳・英文校正・メディカルライティング ・通訳

ASCA

 第32回 腫瘍の特徴とシンチ・SPECT

(1)腫瘍の特徴

腫瘍には良性と悪性があり、悪性のものが「がん」と呼ばれます(注1)。 

腫瘍は、もともと正常だった細胞が、突然性質が変わって腫瘍細胞となり、自律的に際限なく増殖を続けるようになったものです。悪性腫瘍になると、さらに周囲の臓器に進入して破壊したり(局所浸潤)、遠くの臓器に飛び火して(遠隔転移)そこでさらに増え続けます。これに対して、正常な臓器や組織では細胞の増殖は調節されていて、不必要に際限なく分裂が繰り返されることはなく、また古くなった細胞は自然に死んでゆく(アポトーシス=注2)ため、細胞がどこまでも増え続けることはありません。もちろん、隣の臓器に破壊進入することはなく、たとえ細胞がちぎれて血流に乗り別の臓器に迷入してもすぐに死んでしまいます。このように、腫瘍細胞は、細胞の分裂、接触、死といったメカニズムをコントロールする機構に異常を来しているのが特徴です。

腫瘍細胞は正常細胞から発生するため、もとの細胞の性質や特徴を多かれ少なかれ残しています。顕微鏡で形を見ればだいたいその起源がわかるので、発生臓器(場所)ともとの細胞の種類によって腫瘍を分類します。最近は腫瘍細胞の表面にあるさまざまなタンパク質を調べて分類することもあります。また、腫瘍細胞はもとの細胞が生体で担っていた役割を失っているのが普通ですが、なかにはもとの細胞の機能を一部残しているものもあります(注3)。

腫瘍はあらゆる臓器のあらゆる組織、細胞を起源として発生しうるので、その特徴もさまざまですが、多くの腫瘍(とくに悪性腫瘍)に共通して見られる特徴として、豊富な血流と血管透過性の亢進が挙げられます。悪性腫瘍は一般に血管が発達し血流が豊富です。これは、腫瘍が増殖する上で酸素や栄養を補給するために血流が必要であり、腫瘍自身に血管を作る(血管新生)能力があるからです。また腫瘍細胞は一般に代謝がさかんで、アミノ酸やブドウ糖などさまざまな物質をさかんに取り込みます。このほか、腫瘍には特殊な受容体が発現していることもあります。このような性質を利用して、腫瘍をイメージングするさまざまな放射性薬剤が開発され利用されています。なお、血流が多く細胞の代謝がさかんであるという性質は、実は炎症にもいえるため、腫瘍のイメージング薬剤は炎症にもある程度集まるものが多いです。

(2)腫瘍のシンチグラフィー・SPECT用イメージング剤

下表に腫瘍のシンチグラフィーやSPECTに用いられる主な放射性薬剤を挙げました。イメージングに利用している性質は、別に腫瘍以外にも当てはまるものもあるため、これらの薬剤は腫瘍以外のイメージングに用いられることもあります。また、特定の種類の腫瘍にのみ用いられるものや、腫瘍の特定の性質を画像化するためだけに用いられるものもあります。

no.32.JPG




67Ga-クエン酸ガリウムは血中のトランスフェリンと結合し、腫瘍細胞のトランスフェリン受容体を介して取り込まれると言われています。67Ga-クエン酸ガリウムはリンパ腫や頭頸部癌、肺の扁平上皮癌、甲状腺未分化癌、メラノーマなどによく集まりますが、腺癌(腺細胞の癌)にはあまり集まりません。また、炎症にもよく集まります。

67Ga-クエン酸ガリウムによるイメージングでは、静脈注射の2,3日後に撮影するので、患者は2回来院する必要があります。また、バックグラウンドが高く、ガンマ線のエネルギーも高くてガンマカメラに不向きなので、画質はあまりよくありません。

201Tl-塩化タリウムは心筋血流イメージングに用いられるものと同じものです(本シリーズ第26回)。血流に乗って腫瘍に到達した後、タリウムイオンはカリウムイオンと同じように能動輸送で細胞に取り込まれます。脳腫瘍、分化型甲状腺癌、副甲状腺腫瘍、肺の腺癌などによく取り込まれます。 

99mTc-sestamibi(MIBI)と99mTc-tetrofosmin(TF)も心筋血流イメージング(本シリーズ第26回)や副甲状腺腫(同第29回)に用いられるものと同じもので、血流に乗って腫瘍に到達した後、拡散によって取り込まれます。腫瘍細胞の膜には、細胞内に取り込まれた薬などの物質を外へ汲み出すタンパク質(ポンプ)があり、P糖蛋白と呼ばれています。抗癌剤が(それもいくつもの抗癌剤のどれもが)効かないことがあるのは、このP糖蛋白によって抗癌剤が腫瘍細胞から汲み出されるためです。MIBIとTFもP糖蛋白に乗る(基質となる)ので、もしMIBIやTFが腫瘍に取り込まれて保持されればP糖蛋白の発現が低いことがわかり、その腫瘍が抗癌剤に感受性があることを予測できます。甲状腺癌や乳癌などにて、そのような目的で用いられます。 

111In-オクトレオチドはソマトスタチンというペプチドホルモンの類似化合物です。ソマトスタチン受容体に結合するため、カルチノイド、インスリノーマ、ガストリノーマなど、神経内分泌腫瘍と呼ばれる、ソマトスタチン受容体が強く発現している腫瘍によく集まります。ソマトスタチンは消化管において重要な役割を演じるホルモンで、その受容体は正常細胞にも発現しているので、さまざまな正常臓器にも集積が見られます。

99mTc-アネキシンA5(99mTc-アネキシンV)はアポトーシス(注2)を起こしている細胞に集まるタンパク質です。アポトーシスの過程で細胞の表面に現れるホスファチジルセリンに結合するので、アポトーシスに陥った細胞を画像化できます。がん組織中では、細胞分裂で新しい細胞が生まれる一方、アポトーシスで死ぬ細胞もあり、細胞の回転が速いがんはアポトーシスイメージングにて強く描出されます。また、抗癌剤や放射線治療の開始後初期には治療効果のあったがん細胞がアポトーシスに陥るので、治療反応性を予測することができると期待されています。なお、アポトーシスは脳梗塞や心筋梗塞、心不全、動脈硬化などでもおこるので、アポトーシスのイメージングは腫瘍以外に対しても行われます。

注1:正確にいうと、「腫瘍」は良性腫瘍と悪性腫瘍(いわゆる「がん」)に分類され、悪性腫瘍のうち上皮性のものを「癌」または「癌腫」、非上皮性のものを「肉腫」といいますが、一般には「癌腫」と「肉腫」を区別せずに悪性腫瘍をまとめて「がん」または「癌」と呼ぶことが多いです。また、良性腫瘍を無視して「腫瘍」が悪性腫瘍の意味に用いられることもあります。さらに、「良性」という言葉は「炎症」など腫瘍でない病変に対しても用いられることがあります。

注2:細胞には自ら死んでゆく仕組み(プログラムされた死)があり、アポトーシスと呼ばれます。アポトーシスは、いわば不要な細胞を「きれいに始末する」しくみです。というのは、細胞内にはさまざまな物質があって、単に細胞が破壊されてそれらが細胞外に無秩序に放出されると、周囲に悪影響を及ぼすからです。アポトーシスの機構とその引き金についてはさかんに研究されていますが、その過程でホスファチジルセリンというリン脂質が細胞表面に現れ、それが「しるし」となって細胞がマクロファージに食べられて処理されます。細胞が自然にではなく外的傷害によって死ぬ場合でも、外的刺激によってアポトーシスの引き金が引かれて、その後アポトーシスのプロセスによって細胞が死ぬ場合があります。抗癌剤や放射線など外的要因によってがん細胞が死ぬときも、その多くはアポトーシスが関係しています。

注3:内分泌系の腫瘍は、もとの内分泌細胞がもっていた機能を保持しているものが多々あり、それを利用したイメージングが行われています(本シリーズ第29回参照)。