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ASCA

 第30回 腎臓の核医学検査

 

 腎臓は尿を作る、すなわち不要になった物質を体外に排出する臓器ですが、より本質的には体液の調節をしています(注1)。そのために、腎臓へは両側合わせて約1200mL/minもの血流が流れていますが、これは心拍出量の25%にもあたります。

腎臓に入った血液は、枝分かれした細動脈が糸球体と呼ばれるところを通過する際に、血管壁の窓から血漿中の小さい分子がいわば濾過されて出て行き、ボウマン嚢と呼ばれる小さい袋に漏れ落ちて「尿のおおもと」が作られます。「尿のおおもと」が尿細管と呼ばれる管を流れてゆく際に、管壁の尿細管細胞によってブドウ糖やアミノ酸など必要な物質が再吸収され、また不要な物質が分泌されて尿に加えられ、さらに水と電解質もやりとりされて、尿が作られます。このようにして、腎臓は体液の成分を調節する一方、不要な物質を尿として排泄します。尿細管は合流し、腎臓の前内側の端にある腎盂(じんう)と呼ばれるところに尿が溜められ、そこから尿管が膀胱まで尿を運びます。

腎臓の核医学検査では、2種類の放射性薬剤が用いられます(下表)。1つは、糸球体で濾過されあるいは尿細管で分泌されて尿に排泄されるもので、腎動態がわかります。もう1つは腎臓に取り込まれて蓄積される放射性薬剤で、腎シンチとして腎細胞の全般的機能がわかります。

内科で腎臓の機能をみる際には、尿素やクレアチニンといった尿に排泄されるべき物質の血中濃度や尿排泄量を測定する方法が用いられますが、これらの方法では左右の腎臓の働きを合わせたものが測定されます。これに対して核医学の手法を用いると、左右の腎臓の機能を別々に測定することができます(分腎機能)。

腎臓がわるくなると、腎臓への血流が低下し、糸球体の濾過量が低下し、さらに尿細管での再吸収や分泌も障害されます。この腎臓への血流、正しくは有効腎血漿流量(effective renal plasma flow, ERPF)と、糸球体濾過量(glomerular filtration rate, GFR)が、腎臓の機能を考える上で重要なポイントとなり、種々の検査で測定あるいは推定されますが、核医学の手法を用いると左右の腎臓別々にそれらを評価することができます。

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(1)腎動態検査、レノグラフィー

131I-OIH、99mTc-MAG3、あるいは99mTc-DTPAを静脈投与すると、まず腎臓に集まり、その後尿管を経て膀胱へ排泄されます。そこで、ガンマカメラを背中から腰にかけてセットアップし、静脈投与時から開始してダイナミックスキャンを行うと(注2)、放射能がまず腎臓に集まりその後膀胱へと排泄されてゆく様子が画像化されます。左右それぞれの腎臓に関心領域(ROI)を設定し、腎臓の時間放射能曲線(TAC)を描くと、下の図のような曲線が得られます。これをレノグラムといいます。正常な腎臓では、まず腎臓に放射能が入り(血管相)、ついでゆっくりと集積が増加し(集積相または分泌相)、その後洗い出されてゆく(排泄相)という3相性の正常型レノグラムが得られます。尿管の閉塞があると、放射能が蓄積するばかりで排泄されません(閉塞型)。一方腎機能が低下してくると、正常型レノグラムのピークが低く遅くなります。さらに腎機能がひどく低下すると、最初に放射能が入るだけで蓄積も排泄もされません(無機能型)。このようにレノグラムを見るだけで、分腎機能のあらましがわかりますが、さらにカーブを解析して、ピークの高さや時間、カーブ下の面積、排泄速度などの定量的指標を得ることもできます。(注3)

131I-OIHと99mTc-MAG3は糸球体で濾過されかつ尿細管からも分泌されるので、その挙動は腎血漿流量を反映し、これをレノグラムから推定することもできます。一方99mTc-DTPAは、糸球体で濾過されますが、尿細管からは分泌されず再吸収もされないので、その挙動から糸球体濾過量が推定できます。このように分腎機能を定量的に評価できるのが、腎動態検査の特徴です。

腎機能が低下すると一見閉塞型のレノグラムを呈することがあります。そこで、ダイナミックスキャンの最中にフロセミド(利尿剤)を静脈投与すると、もし利尿剤の負荷によって排泄が見られた(放射能の洗い出しが見られた)ならば、真の閉塞ではないことがわかります(利尿剤負荷腎動態検査)。

腎血管性高血圧では、片側の腎動脈の狭窄によって腎血流が低下します(注4)。腎動態(レノグラム)の検査を行うと、患側腎臓の機能低下がわかります。さらにカプトプリル(アンギオテンシン変換酵素阻害剤)を事前に経口投与して腎動態検査を行うと、アンギオテンシンIIの亢進が抑制されて患側糸球体濾過量が低下するため、レノグラムにて患側腎機能がより低下することがわかります。

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(2)腎シンチグラフィー

99mTc-DMSAは静脈注射すると、腎臓にて血中から尿細管細胞に取り込まれて蓄積します。尿にはほとんど排泄されないので、その集積は腎尿細管細胞の全般的機能を反映します。左右の腎臓の集積を比較すると分腎機能もわかります。

 

注1:体液とは体内の液体成分をいい、細胞内液と細胞外液に分けられます。細胞外液はさらに、血液の細胞以外の成分(血漿)と、血管外の細胞外液からなります。体液の組成、すなわち電解質濃度(ナトリウムイオンやカリウムイオンなど)や水素イオン濃度(酸性アルカリ性)などは、たえず一定に保たれています。体液とくに細胞外液の性質が一定に保たれることは細胞が正常に働く上で必須で、ホメオスタシスあるいは内部環境の維持などと呼ばれ、腎臓はそのために最も重要な役割を演じています。

注2:ダイナミックスキャンおよび関心領域(ROI)と時間放射能曲線(TAC)については、本シリーズ第18回参照。なお131I-OIHはガンマ線のエネルギーが高い131I標識のため画質がわるく、代わりに123I-OIHが用いられたこともありましたが、その後99mTc-MAG3が開発されて良好なダイナミックスキャンの画像が得られるようになりました。

注3:「レノ」とは腎臓という意味です。レノグラフィーは、1970?80年代、まだガンマカメラの性能がわるくコンピュータも未発達で、ダイナミックスキャンをしてROIからレノグラムを得ることができなかった時代から行われていました。当時の方法は、指向性シンチレーションカウンタ(本シリーズ第10回参照)を2台、患者の背中の左右の腎臓部にセットし、131I-OIH静脈注射後その計数率をアナログレコーダでチャート紙に印刷するという方法でした。このように、イメージングを行わずにある臓器の放射能集積を体外から測定する方法を「体外測定法」といいますが、どの部位の放射能を測定しているかが不明確なので最近はほとんど行われません。

注4:腎動脈が狭窄して腎血流が低下すると、患側腎臓でレニンの分泌が亢進し、それによってアンギオテンシンIの生成が亢進し、さらにアンギオテンシン変換酵素によってアンギオテンシンIIとなり、高血圧を来します。