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ASCA

 第29回 甲状腺や副腎のイメージング

 

今回は、甲状腺、副甲状腺、副腎といった、内分泌系と呼ばれる臓器(内分泌腺)(注1)や、そこから発生する腫瘍のイメージングを説明します。これらの内分泌系の臓器は、ホルモンと呼ばれる微量の活性物質を産生して血液中に放出し、それがさまざまな臓器の細胞(標的細胞)に存在する受容体等を介してその細胞に指示を伝えることにより、生体の働きを調節します。つまり内分泌系の役割は情報伝達を行うことにあります(注2)。

 内分泌系の疾患では、ホルモンが不足したり過剰に産生されたりして、身体が変調をきたします。そこで、内分泌腺でのホルモン産生を反映して集積する放射性薬剤を投与し撮像すると、その内分泌腺の働きの程度がわかります。

 ホルモンが過剰に産生される原因としては、内分泌腺に対する何らかの刺激によってホルモン産生が亢進する場合(過形成)と、ホルモンを産生する腫瘍(機能性腫瘍という)が存在する場合があります。機能性腫瘍は、たとえ良性で小さくても過剰に産生されたホルモンによる症状が現れるので、切除を必要とする場合が多いです。機能性腫瘍が小さい場合や、多発性あるいは異所性(本来の臓器とは異なる部位)に存在する場合には、どこにあるかを見いだす局在診断に核医学イメージングが役立ちます。

ホルモンの産生には一般にフィードバック機構があり、正常状態では血中ホルモンレベルが一定になるように調節されていますが、機能性腫瘍は自律的にホルモンを産生しフィードバック機構が働かないため、血中ホルモン値が異常な高値になるわけです。

下表に、主な内分泌系のイメージングに用いられる放射性薬剤をあげました。これらはすべてシングルフォトンエミッタで、シンチグラフィー(平面撮影)やSPECT(断層撮影)あるいはSPECT/CTが行われます。

 

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(1) 甲状腺のイメージング

甲状腺は前頚部にある蝶のような形の臓器で、甲状腺ホルモン(T3, T4)を生成して分泌します。甲状腺ホルモンは全身の代謝を調節します。

甲状腺ホルモンにはヨウ素が含まれているため、放射性のヨウ素(123I, 131I)を経口投与すると、甲状腺ホルモンの産生を反映して、原料として甲状腺に取り込まれます(注3)。また、99mTcO4?はホルモンの原料とはなりませんが、静脈注射すると、ヨウ素イオンと同様に甲状腺に取り込まれます。そこで、これらを投与して、撮像すると、甲状腺の働きや形がわかります。投与した放射能の何%が甲状腺に取り込まれたか(甲状腺摂取率)を測定して、甲状腺のホルモン産生機能を評価することもできます。

臨床では、血中の甲状腺ホルモン値を測定できるので、甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症がわかりますが、その原因や程度、治療効果の評価に核医学イメージングが役立ちます。甲状腺機能亢進症の原因としてよく見られるバセドウ病では、腫大した甲状腺全体に強い放射能集積が見られます。プラマー病(機能性腫瘍)では甲状腺ホルモン産生腫瘍に放射能が強く集積する一方、正常甲状腺部は集積が無くなります。これは、血中甲状腺ホルモンが高値になるとフィードバックのために脳下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)が低値となり、正常な甲状腺はTSHに支配されるため機能が抑制されるからです。亜急性甲状腺炎では、甲状腺が破壊されて放出される甲状腺ホルモンによってTSHが低値となるため、同様のメカニズムで甲状腺全体に放射能集積がきわめて低くなります。一方、甲状腺機能低下症では、放射能の集積が低下します。


(2)副甲状腺のイメージング

副甲状腺は上皮小体とも言い、通常は甲状腺の裏側に4個ある豆粒のような臓器です。副甲状腺ホルモン(PTH)はカルシウムを調節する働きがあり、副甲状腺機能亢進症(PTH過剰分泌)になると、骨のカルシウムが溶け、血中のカルシウムが高値となり、腎臓に結石ができやすくなります。副甲状腺機能亢進症の原因としては、PTH産生腫瘍(機能性腫瘍)が多いですが、4つのうちどこに腫瘍があるか(多発性に発生することもあります)、あるいは異所性の場合どこにあるかの診断に、核医学イメージングが役立ちます。99mTc-MIBI(注4)を静脈注射すると、早期には甲状腺にも集まりますが、時間がたつと甲状腺から洗い出され、腫瘍のある副甲状腺が陽性に描出されます。撮像にSPECT/CTを用いると、手術のための部位の特定が容易になります。


(3)副腎皮質のイメージング

副腎は、腎臓の上内側にある三角形の小さな臓器で、中央に髄質、周囲に皮質があります。副腎皮質では、糖代謝やタンパク質代謝を調節するコルチゾール、腎臓における電解質の排泄を調節するアルドステロン、および男性ホルモンなどが産生されます。これらはいずれもステロイドホルモンで、コレステロールから生成されます。そこで、コレステロールを131I標識した131I-アドステロールを静脈注射して7日後に撮像すると、ステロイドホルモンを産生している副腎皮質に放射能が集積します(撮像まで時間がかかるので123Iでなく半減期の長い131Iで標識されたものを使います)。

また、副腎皮質でのコルチゾールの産生は脳下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)に支配されていて、フィードバックを受けます。

クッシング症候群とは、血中コルチゾールが高値となり、満月様顔貌などの特徴的症状をきたす状態を言います。その原因として、副腎皮質にコルチゾールを分泌する機能性腫瘍が存在する場合には、腫瘍に131I-アドステロールが強く集積する一方、反対側の正常副腎はフィードバックによりACTHが低値となって機能が抑制されるので131I-アドステロールが集積しません。これに対して、脳下垂体にACTH産生腫瘍がある場合には(脳下垂体以外に異所性ACTH産生腫瘍が発生する場合もあります)、両側の副腎が等しく刺激されてコルチゾールを産生するので、両側副腎で131I-アドステロールの集積が亢進します。

アルドステロンが高値となる疾患もあります。原発性アルドステロン症は、機能性腫瘍によってアルドステロンが過剰に産生される疾患で、高血圧などの症状が現れます。局在診断のために同様に131I-アドステロールによるイメージングが用いられます。


(4)副腎髄質のイメージング

副腎髄質はアドレナリンやノルアドレナリンといったいわゆるカテコラミンを分泌します。

褐色細胞腫はカテコラミン分泌細胞の腫瘍で、ノルアドレナリンが高値となるため、高血圧などの症状が現れます。MIBGはノルアドレナリンの類似物質で、褐色細胞腫によく取り込まれます(注5)。褐色細胞腫は必ずしも片側副腎に良性腫瘍として発生するとは限らず、ときに交感神経終末などから異所性や多発性に発生することもあり、悪性となって転移することもあるので、腫瘍の局在を知るためにMIBGによるイメージングが役立ちます。

褐色細胞腫の類縁疾患として、神経芽細胞腫、カルチノイド、甲状腺髄様癌などがあり、これらの腫瘍でもMIBGによるイメージングが用いられます。


注1) 分泌とは、臓器(細胞)が特殊な物質を放出することを言います。分泌する働きをもつ臓器を腺(せん)、分泌細胞を腺細胞と呼び、体外に分泌する場合を外分泌、体内(血液中)に分泌する場合を内分泌と言います(内分泌される活性物質がホルモンです)。外分泌腺の例としては、胃の粘膜にあって胃液を分泌する胃腺(胃の中は身体の「外」)、唾液腺、乳腺、汗腺などがあります。内分泌腺は上の表以外に、内分泌系の「親玉」にあたる脳下垂体、インスリンとグルカゴンを分泌する膵臓のランゲルハンス島、性ホルモンを分泌する精巣と卵巣、などがあります。

注2) 神経系も情報伝達を行います。神経細胞(ニューロン)からは突起(軸索)が伸びていて、その中を電気信号が伝わると、その終点のシナプスと呼ばれる相手の細胞と近接したところで神経伝達物質が細胞の外に放出され、それが相手の細胞の受容体に結合すると情報が伝達されます。このように、内分泌系では体内を流れる血液を介して広く情報が伝えられ、神経系では突起が伸びた先のごく限られた細胞にのみ情報が伝えられますが、細胞外に放出された物質(ホルモンや神経伝達物質)が標的細胞の受容体などを介して情報を伝える点は同じです。また、古典的なホルモンは血中に放出されるもの(循環ホルモン)を言いますが、ホルモンが細胞のすぐ近くに放出され(旁分泌という)、細胞間隙を拡散によって移動し分泌した細胞自身やその周囲の細胞に働く場合があることもわかり、そのようなホルモンは組織ホルモンあるいは局所ホルモンと呼ばれています。

注3) 放射性ヨウ素によるイメージングでは、体内にヨウ素が多くあると競合して甲状腺に取り込まれません。日本の食品にはたいていヨウ素が含まれているため、前処置としてヨード制限食を行います。

注4:MIBIは心筋血流のイメージングにも用いられます。(本シリーズ第26回参照)

注5:MIBGは心筋交感神経のイメージングにも用いられ、心筋交感神経終末にてノルアドレナリンの再吸収機構に乗って取り込まれます(本シリーズ第26回参照)。褐色細胞腫への集積も同じメカニズムによると言われています。