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 第27回 肺機能のイメージング

肺は、ガス交換をします。すなわち、空気中の酸素ガスを体内に取り込む一方、体内で産生された炭酸ガス(二酸化炭素ガス)を体外に排出します。身体が働くためには、糖や脂肪などのエネルギー源を酸素で分解して(燃やして)水と炭酸ガスにしますが、その際に酸素ガスが必要となり、炭酸ガスが発生します。ガス交換によって肺で取り込まれた酸素ガスは赤血球のヘモグロビンに結合して全身に運ばれ、また、全身で発生した炭酸ガスは血液に溶けて肺に集められます。

鼻や口から吸入された空気は、喉頭(こうとう=のど)で食道と分かれて気管に入り、胸の中央にある気管分岐部で2つの気管支に分かれて左右の肺に行きます。気管支はさらに2分岐を繰り返して数十万本の細気管支を呼ばれる細い管になり、その先は数億個の肺胞と呼ばれる小さな空気の袋につながっています。一方、肺へ行く血液は、全身から集まった静脈が心臓の右心室を経て肺動脈となって肺へ行き、これも分岐を繰り返して、無数の細い毛細血管となって肺胞の表面を取り囲み、ガス交換をします(注1)。ガス交換を終えた血液は、毛細血管が合流を繰り返して肺静脈となって左心房に戻り、左心室から大動脈となって全身に向かいます。

したがって、肺機能のイメージングでは、「換気」と「血流」の2つが重要な要素となります。下の表は、肺機能の核医学イメージングで用いられる放射性薬剤です。なお、肺は構造が比較的単純で、細かい部位診断はそれほど重要ではないので、SPECT(断層画像)でなくシンチグラフィーで済ませることも多いです。

 

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(1)肺血流のイメージング

99mTc-大凝集アルブミン(MAA)は、ヒト血清アルブミンというタンパク質を凝集して微細な粒状にしたものを99mTcで標識した薬剤です。静脈注射すると、肺動脈から肺血流に応じて肺毛細血管に運ばれ、引っかかるので、肺血流の分布がわかります(注2)。

99mTc-大凝集アルブミンは肺塞栓症(注2)の診断にもっともよく用いられます。肺塞栓症は下肢の深部静脈血栓症や外傷などが原因でおこりますが、エコノミークラス症候群といって長時間座位を続けるとおこることもあります。肺塞栓症は、肺動脈の太い枝に多発性に塞栓がおこるので、肺血流シンチグラフィーで多発性にくさび形の欠損が描出され、診断や治療効果の評価に役立ちます。

99mTc-大凝集アルブミンは、右左シャントの評価にも用いられます。心臓の先天異常などで右心系から左心系へのシャント(短絡)があると、99mTc-大凝集アルブミンの微細粒子が肺へ行かずに直接大動脈に流れ込むため、肺のみならず脳、甲状腺、腎臓、肝臓、脾臓といった臓器(体循環系の臓器)が写ります。ここからシャント率すなわち循環血液の何%がシャントを流れているかを測定することも可能です。


(2)肺換気のイメージング

不活性でほとんど体内に取り込まれない放射性ガスを吸入させて撮像すると、肺の換気の分布がわかります。

133Xe-キセノンガスは半減期が比較的長い(5.3日)ので、まず吸入させ息をとめて撮影する(吸入相)と換気の分布がわかり、次に閉鎖回路(呼出した空気をそのまま吸入させる)でしばらく呼吸させてから撮影する(平衡相)と換気の悪い部位にも入って行くので肺容量の分布がわかり、その後新鮮な空気を吸入させる(洗い出し相)と換気の悪い部位に放射能が残ります。一方、81mKr-クリプトンガスは、半減期がきわめて短い(13秒)ので、吸入させながら撮影すると換気の分布がわかります。これに対して、99mTc-テクネガスは、空気中に99mTcで標識されたきわめて小さい炭素の微粒子が浮遊していて、吸入させると肺胞に到達し沈着するので、換気の分布がわかります。(注3、4)

 肺気腫や慢性気管支炎など慢性閉塞性肺疾患と呼ばれる病気では、気管支・細気管支の狭窄や肺胞の破壊が起こって換気が障害されるため、肺換気のイメージングで換気の欠損や不均一として画像化され、病変の分布や重症度を評価することができます。

また、肺換気のイメージングは、上に述べた肺塞栓症の診断において、99mTc-大凝集アルブミンによる肺血流イメージングとセットでよく用いられます。肺血流画像にて欠損があるのに肺換気画像で欠損がない(換気血流ミスマッチと言う)場合には、肺塞栓症が強く疑われます。一方、肺気腫や慢性気管支炎など気道系の病気では、病変部位では換気と血流の両方が低下します(換気血流がマッチする)。これは、肺血流が換気によって調節されているからです。(注5)

注1) 吸気によって肺胞内に流入する空気(吸入気)と、肺動脈から毛細血管内に到着する血液(静脈血)とでは、酸素ガス分圧は吸入気の方が大きく、炭酸ガス分圧は静脈血の方が大きいため、酸素ガスも炭酸ガスも圧力の勾配に従って移動し、ガス交換が起こります。その結果、それぞれのガスに関して、肺胞内と毛細血管内の分圧が速やかに等しくなります。

注2) 一般に血管内を流れる粒子が血管内径の細いところに引っかかることを「塞栓=そくせん」と言います。塞栓がおこるとその先の血流が途絶するため、病気になることがあります(塞栓症)。病気としての塞栓症は、通常、血の塊(血栓=けっせん)が比較的太い血管に塞栓をおこします。なお、肺血流シンチグラフィーでは、大凝集アルブミン(MAA)粒子が非常に小さくて太い血管ではなく毛細血管で引っかかりMAA粒子よりも毛細血管の数が圧倒的に多いこと、またMAAはそのうち溶けるので、肺血流シンチグラフィー検査によって塞栓症の副作用が起こることはありません。

注3) 99mTc-テクネガスは、炭素るつぼを用いて発生させます。厳密にはガスではなくエーロゾル(=気体中に固体や液体の微粒子が浮遊しているもの)ですが、粒径が非常に小さいのでガスのように振舞います。

注4) 肺換気のイメージングではありませんが、粒径のより大きい放射性エーロゾル(99mTc-HSAエーロゾルや99mTc-DTPAエーロゾルなど)も肺の核医学検査に用いられます。これは、99mTcの溶液を超音波ネブライザにかけて発生させるもので、吸入させると、気管支の狭窄など気道の途中で換気が乱れた部位に沈着し、その先には入りません。さらに、時間経過を追って撮影すると、気道に沈着した放射性同位元素が痰のように粘液とともに気道内面の線毛運動によって喉頭へと排出されるようすが画像化され、粘液線毛輸送を評価することもできます。また、99mTc-DTPAは肺胞まで到達すると血中に移行するので、肺胞透過性を評価することもできます。これらは、エーロゾル肺吸入シンチグラフィーなどと呼ばれます。

注5) もし換気が無い部位に血流があると、そこへ行った血液はガス交換をせずに(酸素化されずに)左心房に戻ることになり、その分、大動脈の血液に含まれる酸素が少なくなります。換気にあわせて血流が調節されるというメカニズムは、それをある程度防いでいます。