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ASCA

 第26回 心臓の核医学イメージング

 

心臓の核医学イメージングでは、さまざまな放射性薬剤を用いることによって、心筋の血流、代謝、交感神経機能などがわかります。また、心電図同期撮影によって心筋の動き(収縮)を評価することもできます。さらに研究として心筋の受容体(レセプタ)などのイメージングも行われています。

 

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(1)心筋血流のイメージング

心筋血流SPECT製剤である201Tl-塩化タリウム、99mTc-sestamibi(MIBI)、99mTc-tetrofosmin(TF)は、いずれも注射したときの血流に応じて心筋に分布します。このうち、タリウムイオン(201Tl+)はカリウムイオン(K+)と同じように能動輸送によって心筋に取り込まれます。また、MIBIとTFは拡散によって心筋に取り込まれます(注1)。PETで用いられる13NH3は拡散によって心筋に取り込まれ、グルタミンとなってとどまります。

心筋のイメージングでは断層画像(SPECTやPET)を撮ります。心臓は体軸に対して傾いているので、斜めの断面像を作成することによって、心軸に垂直な短軸断層像(左心室壁の心筋がドーナツ状に描出される)や、心軸に平行な長軸断層像にて、読影評価します。

冠動脈(心筋を栄養する動脈。心臓の外壁を「冠」のようにとりまく)が動脈硬化や血栓(血の塊)によって閉塞する(へいそく=つまる)と、その先への血流が減るため、「虚血(きょけつ)」という状態になり、さらに進むと心筋の一部が死んでしまう「心筋梗塞(こうそく)」となります。したがって、心筋梗塞や高度の虚血の部位は、心筋血流イメージングで欠損や集積低下として描出されます。一方、冠動脈の狭窄(きょうさく=せまくなる)があっても、軽度であれば、安静時には血流が保たれるので心筋血流イメージングで異常がありません。しかし、運動すると、心筋が多くの酸素と栄養を必要とするため正常な心筋の血流は増えますが、冠動脈狭窄がある部位の心筋の血流は十分増えず、心筋血流イメージングで欠損として現れます。臨床的には、運動すると心筋虚血によって胸痛をきたす患者があり、「労作性狭心症」と呼ばれます。労作性狭心症では、虚血心筋は、心筋血流イメージングで安静時に血流が保たれ運動時に欠損を呈します。なお、高齢者など十分運動ができない患者では、運動させる代わりに薬で冠動脈血流を増やす薬物負荷によって検査を行います。このように、虚血性心疾患では安静時と負荷時にそれぞれ放射性薬剤を注射して撮像し、安静時と負荷時の血流画像を比較することが一般に行われます。

201Tlは時間がたつにつれて心筋からゆっくりと洗い出されて、それがその後の血流に応じて再び心筋に取り込まれ保持される部位に残ります(再分布)。そこで運動時または薬物負荷時に201Tl-塩化タリウムを注射して負荷時の心筋血流画像をまず撮像し、2時間の安静の後に再分布画像を撮像して安静状態の血流画像を得る、という方式でも検査が行われます。(MIBIやTFは再分布しないので2回注射が必要です)。

心筋血流イメージングでは、心電図同期撮影(注2)をすることによって、各心時相の画像を得ることができ、そこから心筋の動き(拍動)や心内腔の容積、拍出量など、血液を送り出すポンプとしての心機能を測定することができます。

(2)心筋代謝のイメージング

心筋は主に脂肪酸をエネルギー源としています。123I-BMIPPは脂肪酸を123Iで標識した放射性医薬品でエネルギーを使っている心筋に取り込まれます。

急性の心筋梗塞の患者では、発生直後に閉塞した冠動脈を再開通させることによって梗塞になりかけた心筋を救う治療が行われます。このようにして血流が回復した心筋では、しばらくの間心筋の動き(収縮)が低下することがあり、「気絶心筋」と呼ばれています。これは、血流が回復しても代謝がすぐには回復せず、エネルギーが使えないためです。SPECTを行うと、気絶心筋は201Tlなどによる心筋血流イメージングでは集積が見られますが、123I-BMIPPの集積が低下します。

心筋は、食後などインスリンや血糖の高い状態では、ブドウ糖もエネルギー源とします。そこでFDGを用いてPET撮像すると、心筋のブドウ糖代謝がわかります。冠動脈閉塞や狭窄のある患者では、冠動脈を広げたりバイパス血管を取り付けたりして血行を再建する治療が行われますが、すでに死んでしまった心筋に対しては血行を再建しても動きは改善しません。心筋が真に回復しうる(バイアブル)かどうかを判定するために、ブドウ糖負荷のもとにFDGによるPET検査が行われることがあります。ブドウ糖負荷のもとでFDGの集積があれば、バイアブルな心筋であると考えられます。

(3)心筋交感神経のイメージング

心筋には、心拍数や収縮の強さを調節するために、自律神経(交感神経と副交感神経)が分布しています。123I-MIBGは交感神経の終末に取り込まれます。交感神経は虚血に弱いと言われており、冠動脈の閉塞や狭窄によって「除神経」と呼ばれる交感神経が破壊された状態になると、心筋の血流が保たれていても123I-MIBGの集積が低下します。また、心不全(心臓全体としての血液を送り出すポンプ機能がわるくなる状態)になると、交感神経終末が異常をきたすことが知られており、123I-MIBGの集積が低い心不全患者は予後が悪いことが知られています。

注1:能動輸送とは、膜を通して低濃度側から高濃度側へと、濃度勾配に逆らって物質が輸送されることをいいます(注:電気を帯びた物質の場合には単に濃度差だけでなく膜の電位差も関係します)。そのために、膜に「ポンプ」などと呼ばれるタンパク質があって、いわば低いところから高いところに汲み上げるように、エネルギーを使って物質を輸送します。これに対して、拡散あるいは受動輸送とは、高濃度側から低濃度側へと勾配に従って物質が輸送されることをいいます。多くの物質は膜を自由に通過できませんが、膜には「チャンネル」と呼ばれるタンパク質でできた扉付きの穴があって扉が開くと物質が通るようになっていたり、あるいは膜に「トランスポータ」と呼ばれるタンパク質の「船」があってそれに乗って物質が膜を通過します。

注2:同期(ゲート)とは何かにタイミングをあわせてデータ収集することを言います。心電図同期撮影では、心電図のR波(各部位の心筋に収縮のタイミングを伝える刺激伝導系を電気信号が通り抜けるときに出る波。収縮が始まる直前すなわち拡張末期のしるし)にあわせて1フレーム数十ミリ秒の速いダイナミックスキャン(本シリーズ第18回参照)を行い、次の心拍のR波が来れば、最初に戻って、第1フレームからそれまでのデータの上に足し込んでゆきます。そのようにして数百心拍加算すると、心臓の拍動にあわせた、R波から始まる各時相の画像が得られ、これを動画で表示すれば心臓の動きがわかります。さらに、心筋SPECT画像を三次元的に扱って、各時相での心内腔の容積を計算すれば、拡張末期と収縮末期の左心室の容積が計算でき、心拍出量もわかります。