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 第24回 脳の血流と代謝のイメージング

 

脳の動脈が閉塞して血流が低下する疾患では、脳血流のイメージングにより直接病態が明らかになります。また、脳はブドウ糖を酸素(O2)で燃やして(代謝して)エネルギーを得て活動しますが、活動が盛んなところは血流が増加し、活動が低下しているところは血流も低下するという特徴があります。したがって、動脈閉塞以外の疾患においても、脳の血流あるいはブドウ糖代謝や酸素代謝を見れば、脳の一般的活動の分布を画像化することができます。
表に、脳の血流や代謝をイメージングする主なSPECT用およびPET用の放射性薬剤をあげます。

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脳血流を評価するSPECT用放射性薬剤は、血流に応じてその部位に取り込まれて滞留する「捕獲型」と、脳に入った後で血流によって洗い出される「拡散型」がありますが、前者が主流です。
123I-IMP、99mTc-HMPAO、99mTc-ECDは、捕獲型のSPECT用脳血流製剤です(注1)。いずれも脂溶性で大部分が血液脳関門(注2)を通過して脳組織に入った後、123I-IMPは脳細胞の受容体に結合して滞留し、99mTc-HMPAOと99mTc-ECDは脳内で分解され99mTcが水溶性化合物となって滞留します。捕獲型は投与時の脳血流分布を投与後に時間をかけて撮影できるので、カウントを稼いだ良好な画像が得られ、後で述べるように負荷試験もできます。しかし、血流が多い部位では100%は取り込まれず(とくに99mTc-HMPAOと99mTc-ECDは高血流域で摂取率が低下します)、また123I-IMPは静脈注射後肺に一時滞留してから脳へ行くため脳の放射能の立ち上がりが緩徐でしかもさらに時間がたつと脳の受容体から解離し脳からゆっくり出て行くので、血流量の定量的測定は容易ではありません(注3)。さらに萎縮によって脳の体積が減少すると、脳の体積あたりの血流は変わらなくても部分容積効果(注4)によって画像上放射能集積が低下します。
133Xe(キセノン-133)は不活性ガスで、拡散型のSPECT用脳血流製剤です。133Xeの吸入または生理食塩水に溶かしたものを静脈注射後、脳のダイナミックスキャンを行い、脳から洗い出される速度定数を測定すると、それがすなわち脳血流値となります。しかしダイナミックスキャンで十分なカウントを稼ぐことができないため、画質が悪く、誤差も大きくなるので、あまり使われません。
一方PETで脳血流を測定する場合は、15O標識の二酸化炭素ガス(C15O2)の吸入または水(H215O)の静脈注射が用いられます。C15O2は肺の毛細血管内でH215Oに変わるので、両者は同じことになります。H215Oは拡散型の放射性薬剤で脳における挙動を数式で表現でき、PETカメラは定量性もよいので、定量を重視する場合や次に述べる酸素代謝とあわせて測定したい場合に用いられます。ただし、拡散型といっても15Oは半減期が極めて短くて(2分)速やかに減衰し、撮像に寄与するのは主として流入の部分なので、事実上は洗い出しではなく流入の多寡で血流を測定していることになります。具体的には、C15O2 の持続吸入による平衡法や、オートラジオグラフィー法が用いられます(注5)。
脳の酸素代謝のイメージングには15O標識の酸素ガス(15O2)が用いられます。15O2は脳にて酸素が多く使われるところに多く取り込まれるので、放射能分布が酸素代謝を反映します。しかし、脳に取り込まれた後H215Oに変わって血流に応じて洗い出され、おまけに全身臓器で代謝されて生成されたH215Oが再循環して脳に入るので、別にC15O2またはH215Oのデータによる補正が必要です。また脳組織に摂取されずに血管内にある15O2が無視できないので、血液量を画像化する15O標識一酸化炭素ガス(C15O)のデータによる補正も必要です。そこで、通常は、C15O2, 15O2, C15Oの3種類のガスを順に吸入させてPET撮像と動脈採血を行い、脳血流量、酸素消費量、酸素摂取率(注6)および血液量という4種類のパラメトリックイメージをセットで作成することが行われます。なお、この検査は、PET実施施設のなかでもごく限られた施設でのみ行われています。
脳のブドウ糖代謝はFDGによって画像化されます(本シリーズ第18回参照)。FDG投与後45分程度経過すると放射能の分布が糖代謝を反映し、しかも放射能は洗い出されない(FDGは徐々に蓄積し、半減期も2時間でゆっくり減衰する)ので、時間をかけて良好な画像を撮影できます。また、経時動脈採血して血中FDG濃度を測定すれば、脳のブドウ糖消費速度を定量することもできます(注7)。

次に、脳の主な疾患で、核医学による脳血流のイメージングが臨床的にどのように用いられるかを簡単に説明します。
(1)脳血管障害とくに脳動脈閉塞症
脳の動脈が動脈硬化になり血管の内腔(ないくう=管の中)が狭くなったり、血栓(けっせん=血液が固まったもの)によって詰まったりすると(脳動脈閉塞症)、その先の部位への酸素や栄養分の供給が低下します。血流が足りなくなるとまず虚血(きょけつ)という状態になって脳のはたらきが低下し、さらに進むと梗塞(こうそく)といってその部分の脳組織が死んでしまいます。
脳動脈閉塞症の初期には、病変のある血管が狭くなります(灌流圧が低下します)が、その先(支配領域)の細い血管が拡張して抵抗を減らすため、血流は低下しません。したがって、安静時脳血流SPECTでは異常がわかりません。そこで、負荷脳血流SPECTといって、脳の血管を拡張させる薬であるアセタゾラミドを注射してから脳血流SPECTを行うと、正常な部位では血流が増加しますが、閉塞動脈の支配領域ではすでに細い血管が拡張していてそれ以上拡張しないので、血流があまり増えず、画像上、明瞭な差が現れます(負荷による血流増加を「脳循環予備能」と言います)。
脳動脈閉塞症が進むと「虚血」の状態になり、安静時脳血流SPECTやPETで血流の低下として現れます。しかし、脳細胞は死んでいないので、脳の代謝は保たれており、脳の働きも保たれています(一過性脳虚血発作といって一過性に麻痺(まひ)などの症状が出ることがありますが可逆的です)。脳の代謝が保たれているので、PETで糖代謝や酸素代謝を画像化すれば低下していないことがわかります。とくにPETで酸素摂取率(注6)を測定すると高値を呈するのが特徴です。この状態が続くと、あるいはさらに血流が低下すると、脳組織が死滅し、非可逆的な脳梗塞となります。したがって、脳の虚血があれば血行再建手術などによる治療が行われることが多いです。
脳梗塞はMRIやX線CTでも明瞭に画像化されます。PETやSPECTの血流画像では梗塞部は血流がほとんどゼロですが、しばしばその周囲に梗塞に至っていない虚血部が血流低下部位として描出されます。なお、脳細胞の死滅がかたまりでなくばらばらと脱落するようにおこると、血流と代謝が平行して低下し、形の上では萎縮となって現れます。
脳梗塞部から離れていて梗塞も虚血も無いが、機能的に梗塞部と関係が深い部位が、いわば巻き添えを食って働きが低下すると、血流や代謝の低下を呈することがあり、「遠隔効果」といいます(注8)。

(2)脳の変性疾患(アルツハイマー病など)
変性疾患とは、血管障害ではないが脳細胞の働きが低下しさらに死滅し脱落してゆく疾患群で、多くは原因不明です。たとえばアルツハイマー病では後部帯状回、楔前(せつぜん)部、頭頂葉、側頭葉といった領域にて血流や代謝が低下するというように、疾患によって特徴的パターンを呈するので、鑑別診断や早期診断に役立ちます。
変性疾患では最初に脳の活動が低下するため糖代謝の低下が顕著でしかも早期から見られます。FDGによるPETが診断に有用ですが、脳血流SPECTも役立ちます。

(3)てんかん
てんかんは脳内の焦点と呼ばれる部位で異常な神経細胞の発火が起こり、それが周囲にも伝わって、けいれんなどのさまざまな症状が出る病気です。薬で発作がおさまればよいのですが、おさまらないときは、焦点を手術で切除する必要がありますが、焦点がどこであるかは、通常の表面脳波検査ではわからず、MRIでも形態異常が無くてなかなかわからないことがあります。そこで、脳血流SPECTやFDG-PET画像をとると、焦点とその周辺部が発作間欠期には血流や代謝の低下として描出されます。とくにFDG-PETが側頭葉型てんかんの焦点検出に優れます。逆に、発作時には焦点の血流が増えるので、患者を観察しながら発作時に脳血流SPECT製剤を注射することによって発作時の脳血流を撮像すると、焦点が高血流領域として描出されます。


注1) フルネームは、123I-IMPはN-isopropyl-p-[123I]iodoamphetamineというアミン、99mTc-HMPAOは[99mTc]hexamethyl propyleneamine oxime、99mTc-ECDは[99mTc]L,L-ethyl cysteinate dimerというエステルです。123I-IMPはヨードアンフェタミンとも呼びますが、これも略称です。

注2) 血液と脳組織の間には血液脳関門(blood brain barrier)と呼ばれる「関所」があり、一般に脂肪によく解ける物質は通過しやすく、水溶性の物質は通りにくいという特徴があります。

注3) 捕獲型の放射性薬剤で血流を定量する場合は、何らかの方法で入力関数(本シリーズ第19回参照)。を測定するか推定し、マイクロスフェア法(脳に入ったきり出てゆかないと仮定して式を立てる)やオートラジオグラフィー法(脳に入った後で出てゆくとして式を立てる。注5)などを用いて血流を計算します。ただ、SPECTカメラの物理学的定量性自体がPETほどにはよくないこともあって、SPECTでの脳血流の定量測定は負荷試験などとくに必要な場合以外はあまり行われていません。

注4) 部分容積効果については本シリーズ第17回の注4。

注5) 平衡法は本シリーズ第21回の注3と注4参照。また、オートラジオグラフィ法とは一般に1時点の撮像データから1つの未知数を求める方法を言いますが、脳血流の測定ではいわゆる2Kモデル(本シリーズ第20回の図3)にて、K1=血流(未知数)、K1/k2=分配係数(既知)とし、実測か推定した入力関数を用いて、K1と脳の放射能との対照表(look-up table)を計算しておき、それを用いてPET画像の画素値を血流値に換算します。なお、「オートラジオグラフィー」とは、動物に放射性薬剤を投与し、屠殺して作成した切片をフィルムにあてて感光させ、切片の放射性同位元素の分布を画像化する方法を言います。PETやSPECTはいわば生きている人間でオートラジオグラフィーができるので「インビボ・オートラジオグラフィー」と呼ばれることがあります。

注6) 酸素摂取率は、供給された酸素のうち何%が使われているかという酸素の需給をあらわす指標です。酸素消費量=血流×動脈血中の酸素含量×酸素摂取率 という関係があります。

注7) FDGによる脳のブドウ糖代謝の定量的測定には、3Kあるいは4Kモデルが用いられます。スタティックスキャンによるオートラジオグラフィー法、ダイナミックスキャンによるカーブフィッティング法、パトラックプロットなどが用いられます。

注8) 片側の大脳の梗塞によって反対側の小脳の血流が低下する「crossed cerebellar diaschisis」が有名です。また、大脳の深部の小梗塞によって同側の大脳皮質の血流や代謝が広汎に低下することもあります。