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ASCA

 第21回 パラメトリックイメージ

 画素が放射能の値ではなく、それから計算された生物学的・医学的に意味のある値(パラメータ値)を持っている画像を、パラメトリックイメージといいます。
 PETやSPECTの画像は、各画素がその部位の放射能濃度の値を数値として持っていることは以前述べました(本シリーズ第15回参照)。そこで、たとえば放射性薬剤投与後同じ位置で時間をあけて2回撮像し、その差や比をとれば、放射性薬剤が洗い出される(あるいは蓄積する)速さを反映する値が得られます。1回目撮像時の放射能のうち正味何%が2回目撮像時までに出て行ったかを、洗い出し率といいます。画素毎に洗い出し率を計算し、その値を画素値として持つ画像を作成すれば、「洗い出し率」というパラメータのパラメトリックイメージになります。もしその放射性薬剤が血流によって(あるいは代謝・分解されて)臓器や組織から出てゆくなら、洗い出し率はその部位の血流の大きさ(あるいは代謝の強さ)を表す、医学的に有用な指標となります。また、もしその放射性薬剤が正常な細胞には保持されるが傷害された細胞には保持されずに出てゆくならば、洗い出し率は細胞が傷害されている程度を表す指標となります(その場合は洗い出し率ではなく、何%残っているかという「保持率」も使います)。このように、パラメータ値は診断に直結する指標となるため、パラメトリックイメージは臓器内のどの部位がどの程度異常であるかを直接画像に描出することができます(注1、2)。
 患者を同じ位置にて異なる条件で2回検査し、その差や比からパラメトリックイメージを作成することもよく行われます。たとえば、脳血流を増加させるアセタゾラマイドという薬を注射する前(安静時)と後(負荷時)で計2回、脳血流のPETまたはSPECT検査を行えば、薬物負荷による脳血流増加の程度(予備能)を表すパラメトリックイメージが作成できます。
 別の例として、酸素-15標識の二酸化炭素ガスを持続的に吸入させ、脳の放射能が一定になった時点でPETカメラにて脳の放射能を1回撮像すると、脳血流を反映する画像が得られます(注3)。ただ、血流の多い部位は放射能が多く流入しますが洗い出しも多いため、放射能と血流は比例せず、血流が増える割には放射能は増加しません。そこで、血流を定量するために動態モデルを用い、採血して得られた血中放射能値を用いて脳の放射能値を画素毎に血流値に換算します(注4)。このようにして得られた脳血流値の画像も、もとの放射能画像は1枚だけですが、パラメトリックイメージです。
 SUV値(本シリーズ第17回参照)の画像も広い意味ではパラメトリックイメージですが、SUV値はもとの放射能画像に定数をかけるだけで複雑な計算はしないので、パラメトリックイメージという言いかたはあまりされません。
 パラメトリックイメージはダイナミックスキャンにおける動態解析でよく作成されます。本シリーズ第18?20回で説明したように、ダイナミックスキャンを行い、関心領域(ROI)を設定して動態解析を行えば、さまざまな速度定数(k)の値を求めたり、インフラックスや分布体積を求めることができます。この計算をROIではなく画素毎に行えば、k値やインフラックス値や分布体積値などのパラメトリックイメージができます(下図)。ダイナミックスキャンはもとの放射能画像を見ただけではどの部位が正常か異常かを直接読影することが難しいので、パラメトリックイメージがよく活用されます。

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アルツハイマー病の患者において、FDGを用いた脳のダイナミックPETデータから作成したK1, k2, k3値と糖代謝速度(CMRGlu)のパラメトリックイメージ(注5)。2断面示す。雑音が大きいことに注意。


 パラメトリックイメージに関する注意点を以下にいくつか述べます。
 まずパラメトリックイメージは一般に雑音が大きい画像となります。これは、パラメータ値を計算する際に、もとの放射能画像の誤差が拡大することが多く、雑音も大きくなるからです。そのため、もとの放射能画像にスムージング(平滑化)をかけてから計算することも行われますが、そうすると分解能が劣化します。
 次に、パラメトリックイメージからある領域のパラメータ値を得るために、パラメトリックイメージの上にROIを置いて値を抽出することが一般に行われていますが、実はあまり勧められません。これは、雑音が大きいために、ROI内の画素値を平均すると、その平均値の誤差も大きくなりときには真の値からずれるからです。ROI内のパラメータ値を求めたい場合には、パラメトリックイメージを用いずに通常のROI解析をする、すなわちもとの放射能画像の上にROIを置いて放射能値を抽出し、その値を用いてパラメータ値を計算するというのが、より望ましい計算方法です。すなわち、パラメトリックイメージは本来、測るものではなく見るものなのです。
 このほか、パラメトリックイメージの作成に関しては、当然ながら2枚以上の画像から作成する場合にはその間に位置が動いていないことが前提となります。
 また、パラメトリックイメージは画素毎に計算するため、一般に作成に時間がかかります。

注1)本シリーズ第15回で述べたように、核医学画像は同じ画像でも表示条件(カラースケール、グレイスケール)によって見え方が変わるので注意が必要ですが、パラメトリックイメージは色が医学的に意味のある値を表すので、表示条件は特に重要です。

注2)洗い出し率は2回の撮像の時間間隔によってかわり、また1回目の撮像時刻によってもかわります。したがって、撮像時刻などの条件を一定にしなければ他の患者との比較はできません。このように、パラメトリックイメージのパラメータ値は撮像や計算過程のさまざまな条件に影響されるので、その解釈には注意が必要です。

注3)酸素-15標識の二酸化炭素ガス(C15O2)を吸入すると、肺の毛細血管にてカーボニックアンハイドラーゼという酵素の働きで酸素-15標識の水(H215O)となり、血流に応じて臓器に運ばれて組織に入り、血流に応じて洗い出されるとともに、放射能が時間とともに減衰します(半減期2分)。したがって、一定の放射能濃度のC15O2ガスを一定速度で吸入させると、組織に入る放射能が出る放射能プラス減衰とつりあって一定になります。

注4)難しくなりますが、式で表すと、C15O2吸入時の定常状態においては、
 F Ca = F Q/p + λQ   すなわち  F =λ(Ca/Q?1/p) 
の関係が成り立ち、放射能濃度から脳血流値への換算ができます。ここで、Fは脳組織の血流、Qは脳組織放射能濃度、Caは動脈血放射能濃度、pは水の脳血液分配係数、λはO-15の減衰定数です。

注5)いわゆる3Kモデル(本シリーズ第20回参照)で求めたK1, k2, k3値。脳の糖代謝速度= K1k3/(k2+k3)・血糖/LC (本シリーズ第20回の注5参照)。