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 第20回 インフラックスと分布体積

放射性薬剤の臓器や腫瘍(組織という)での挙動は、大きく分けて蓄積型と平衡型に分類されます(注1)。動態解析(注2)においては、放射性薬剤の集積の程度を評価する指標として、蓄積型の場合にはインフラックス(Influx rate, Influx constant, Ki)、平衡型の場合には分布体積(Distribution volume, DV, VD)が、それぞれよく用いられます。

(1)蓄積型ではインフラックス
「蓄積型」とは組織に入った放射性薬剤が非可逆的に蓄積するタイプのもので、FDGの脳における挙動がその代表です。FDGはブドウ糖と同様に組織に入った後、ブドウ糖と同様に代謝されますが、代謝が途中でとまり組織内に蓄積します。そのためFDG投与後の時間経過とともに組織の放射能がどんどん増加し、放射能の増加は血中にFDGがあるかぎり、すなわち入力関数(注3)がゼロにならないかぎり続きます。
インフラックスとは、単位時間にどれだけの放射性薬剤がその組織に蓄積するかを、それがどれだけの量の血中にあるかで表したものです。言い換えると、単位時間にどれだけの血中にある放射性薬剤をすべて取り込んで蓄積したかを意味します(注4)。インフラックスは組織が放射性薬剤を集積する傾向を表す重要な指標となります。FDGの場合には、インフラックスが組織のブドウ糖代謝速度をそのまま反映します(注5)。
図1は脳のFDGでよく用いられる動態モデル(いわゆる3Kモデル)で、FDGは組織中に入り、一部はそのまま出てゆきますが、残りは代謝されて蓄積します。組織中の放射能は未変化のFDGと代謝されたFDGという2つのコンパートメントで表され、この和がPETカメラで測定されます。血漿中のFDG(入力関数)は、採血などによって測定します。3Kモデルでは、インフラックスは K1k3/(k2+k3) で表されます。これを求めるためには、方程式を立てて、実測された入力関数と組織の放射能のデータからカーブフィッティングによってK1, k2, k3を求めそれから計算する方法のほか、図2のようにパトラック(Patlak)プロットと呼ばれるグラフ解析の手法を用いてグラフの傾きから求めることもできます(注6)。

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図1:FDGの動態モデル

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図2:蓄積型の放射性薬剤の、グラフによる動態解析の例。蓄積型では入力がある限り組織の放射能が増加する。入力関数と組織の放射能からパトラックプロットによってインフラックスを求めることができる。(この図では入力関数は線で描いてあるが、実際は採血して求めるのでとびとびの点になる。)


(2)平衡型では分布体積
「平衡型」とは組織に入った放射性薬剤が一時的に滞留するものの、血中濃度が下がれば出てゆくタイプをいいます。組織内の受容体などに可逆的に結合する放射性薬剤は平衡型の挙動をとります(注7)。放射性薬剤は組織に入り受容体などに結合しますが、結合は可逆的であり、平衡に達した後は、血中濃度の低下とともに結合がはずれて放射性薬剤が組織から出てゆきます。
放射性薬剤投与後早期には、組織中放射性薬剤濃度が低く血中濃度が高いので、平衡のバランスによって放射性薬剤が組織に入り受容体などに結合するため、組織の放射能が増加します。しかし、時間がたつと血中濃度が下がって平衡のバランスが逆転し、放射性薬剤が受容体からはずれさらに組織外へと出てゆくため、組織の放射能が下がります。
平衡型の放射性薬剤は、もし血中濃度(入力関数)が長時間一定に維持されたならば、ある程度の時間がたって平衡に達した後は、組織の放射能も一定になります。このような仮想的な平衡状態における組織中と血中の放射性薬剤の濃度の比を分布体積と言います。分布体積は、放射性薬剤の受容体等への結合の強さを表す指標として有用なので、平衡型の放射性薬剤の集積の程度を評価するためによく用いられます。分布体積に「体積」という名がつくのは、仮想的平衡状態にて、もし血中濃度と同じ濃度で組織中に放射性薬剤が存在するならばどれくらいの体積を占めるか、という値だからです(注8)。
分布体積は、図3の動態モデルでは DV=K1/k2 、また図4の動態モデルでは DV= K1/k2・(1+k3/k4) となります。これを求めるためには、カーブフィッティングによってk値をすべて求めてそれらから計算する方法のほか、図5のようにローガン(Logan)プロットと呼ばれるグラフ解析の手法を用いてグラフの傾きから求めることもできます(注6)。

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図3:いわゆる2Kモデル

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図4:いわゆる4Kモデル

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図5:平衡型の放射性薬剤の、グラフによる動態解析の例。平衡型では入力が下がると組織の放射能も下がる。入力関数と組織の放射能からローガンプロットによって分布体積を求めることができる。(この図では入力関数は線で描いてあるが、実際は採血して求めるのでとびとびの点になる。)



注1)どちらであるかは放射性薬剤によりますが、同じ放射性薬剤でも組織によって挙動が異なる場合もあります。またこの分類はあくまで測定時間内での現象によるので、平衡型でも平衡に達するのが遅い場合は、測定時間内では蓄積型の挙動をとります。

注2)動態解析、入力関数、動態モデル、コンパートメントなどについては本シリーズ第19回参照。

注3)ここでは血液と血漿をあえて区別していませんが、FDGも含めて多くの場合、入力関数は全血液中ではなく血漿中の放射性薬剤の濃度を言います。というのは、赤血球中の放射性薬剤は組織に入らないことが多いからです。多くの場合、「血中」や「血液中」とあるのは、全血中ではなく血漿中の放射性薬剤です。

注4)インフラックスの単位は、ml血漿/分/ml組織 などで表します。

注5)ブドウ糖代謝速度=FDGのインフラックス×血中ブドウ糖濃度÷LCです。LCはlumped constantと呼ばれる定数で、ブドウ糖の速度定数(k値)とFDGのk値を換算する定数です。

注6)グラフ解析は、面倒なカーブフィットをしなくてもよいという利点があります。とくに、個々のk値ではなくインフラックスや分布体積を求めるのが目的であれば、きわめて便利です。放射性薬剤の挙動が動態モデルに厳密に合わない場合や正確なモデルがわからない場合でも使えるという利点もあります。

注7)11C-racloprideによるドパミンD2受容体、11C-フルマゼニルによる中枢性ベンゾジアゼピン受容体、受容体ではないですが11C-PiBによるベータアミロイドのイメージングなどが、平衡型の例です。

注8)分布体積の単位は、ml血漿/ ml組織 などで表します。これが1よりも大きいということは、組織に放射性薬剤が濃縮されて分布することを意味します。もちろん単に分布しているのではなく、放射性薬剤が受容体などに結合するからです。