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ASCA

 第18回 ダイナミックスキャン

核医学検査において、放射性薬剤投与後にコマ撮りするように時間経過を追って撮影する方法をダイナミックスキャン(動態撮影、経時撮影)といいます。これに対して、放射性薬剤投与後のある1時点において撮影する方法を、スタティックスキャン(静態撮影)といいます。スタティックスキャンがある時点での放射性薬剤の分布や腫瘍などへの集積の強さを見るのが目的であるのに対し、ダイナミックスキャンは分布が時間とともにどのように変わるか、臓器や腫瘍に放射性薬剤がどのような速さで集まりまた出てゆくかという時間経過を見るのが目的です。
図1は、FDG(注1)を静脈投与して頭部をPETカメラでダイナミックスキャンしたもので、横方向には断面(スライス)、縦方向にはコマ撮りした各時点の画像(フレームと言う)が並んでいます。FDG投与直後には血管内にあった放射能が時間とともに脳に集まってゆく様子がわかります。このように、PETやSPECTのダイナミックスキャンのデータは4次元データとなり、通常図1のように表示します。

dinamicscan.jpg

図1: FDGによるPETのダイナミックスキャン。この図では横軸(スライス)縦軸(フレーム)とも間引いて表示してあり、実際にはスライスもフレームももっと多い。

2は、図1の矢印の領域(左前頭葉の一部)の放射能の時間経過を見るために、矢印の画像に関心領域(ROI)(本シリーズ第16回参照)をとり、その放射能の時間経過をグラフにしたものです。このようなグラフを時間放射能曲線(time activity curve, TAC, タック)と呼びます(注2)。もちろん体動が無いことが前提です。

ダイナミックスキャン2.jpg図2:左は図1の矢印の画像にROIをとったもので、ROIが見やすいように画像を白黒で表示した。右は図1のデータにそのROIを適用して得られたTAC。

FDGはブドウ糖代謝に応じて脳に入って蓄積するので、スタティックスキャンとして注射後約50分つまり図1の最下段の画像を撮影すれば脳の糖代謝の分布がわかり、通常の診断はそれで十分です。これに対して、ダイナミックスキャンを行うと、TACから放射性薬剤の集積が速いか遅いか、あるいはすでにピークに達して洗い出されているかどうかなどの時間経過(動態)がわかり、より詳しい情報を得ることができます。当然ですが、放射性薬剤によってはダイナミックスキャンをしなければ用をなさないものもあります。
ダイナミックスキャンとスタティックスキャンの違いは、実は撮像装置の設定の違いであって、それ以上のものではありません。スタティックスキャンを同じ位置で繰り返せば、ダイナミックスキャンと同じ情報が得られますが、撮像装置のコンピュータ内での扱いが違います(注3)。ダイナミックモードで撮影すると、減衰補正が自動的に行われ、PETやSPECTは4次元データとして保存、表示され、ROIを置けば容易にTACが得られます。一方、スタティックスキャンを繰り返した場合には、それぞれの撮影が独立した3次元データとなるため、どのデータが何分後の撮影であったかを自分で管理する必要があるほか、減衰補正も自分で行う必要があります。なにより、図1のような表示ができず、ROIを置いても各時点の放射能濃度が数値で得られるだけで、TACはパソコンにデータを移すなどして自分で描かねばなりません。
図3は全身撮影を経時的に行ったもので、放射能が肝臓に集まり、胆管から腸に排泄されてゆく様子がわかります。全身撮影は、部位によって時間がずれますが1時点の撮影(スタティックスキャン)であり、これを繰り返せば全身分布の経時変化がわかります。(注4)

ダイナミックスキャン3.jpg

図3:ある放射性薬剤を投与後に全身撮影を経時的に行ったもの。PETによる冠状断面像。

注1:FDG(18F-フルオロデオキシグルコース)は、ブドウ糖によく似た物質を18Fで標識したもので、ブドウ糖が使われる速さに応じてブドウ糖と同じように細胞に入り途中まで代謝されますが、ブドウ糖と異なり、完全には分解されず細胞内に蓄積するので、FDG投与後40-60分たつと放射能分布はブドウ糖代謝を反映します。

注2:図2の横軸の値(図1の左端に表示した投与後の時間)は、フレームの中央時間です。たとえば、図1の最下段は投与後47分とありますが、この場合正しくは46分後から48分後までの2分間の画像であり、図2のTACの値もこの2分間の平均放射能濃度です。一般にダイナミックスキャンの各フレームの撮影時間は一定ではなく、放射能の時間変化に応じて自由に設定できます。しかし撮影時間をあまり短く区切るとカウントが少なくなるため、雑音が増えます。装置によっては、リストモードによる撮像を行えば撮影後にフレーム時間の区切り方を決めることができます。(放射線を検出するたびに1つ1つその位置と時刻を記録する方式をリストモードという。これに対して通常の方式はフレームモードという。)

注3:多くの場合、スタティックスキャンは終了後のデータの保存と開始前の設定に時間が必要なので、繰り返しても撮影と撮影の間にすき間があきます。これに対して、ダイナミックスキャンでは通常フレームとフレームとの間は時間があきません。

注4:全身撮影では寝台をスライドさせながら各部位を撮影してゆくため、ダイナミックモードができない装置が多いです。しかし、全身撮影を経時的に繰り返せば図3のように時間経過の情報を得ることができ、(体動が無ければ)ROIを置いて数値を得ることもできます。また、部位によって時刻がずれることに注意すれば、(数値データをパソコンに移して)TACを得ることもできます。