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ASCA

 第16回 関心領域 (ROI)

PETやSPECTの画像は、各画素にその地点の放射能濃度の値が乗っていて、その値を表示条件に従って色に置き換えて画像に表示したものです(注1)。したがって、ある臓器や病変に集積した放射能の量や濃度を、画像データから数値として得ることができます。そのためには画像の上で測定したい部位を囲みます。これを、関心領域(region of interest, ROI, ロイ)を設定するといいます。ROIは円形、方形、フリーハンドなど、さまざまな形のものが用いられます。また、複数のROIを組み合わせたものを1つのROIとして扱うこともあり、その複数のROIは異なる断面にまたがることもあります(注2)。

下図は脳のFDG-PET画像の1断面において、右(画面では左)の前頭葉と呼ばれる部位にさまざまな位置、形、大きさのROIを設定し、その領域の放射能濃度を測定したものです。

16-1.jpg


図:脳FDG-PET画像にて右前頭葉にさまざまなROIを設定した。(PET画像は3枚とも同じ)。

各ROIの放射能濃度測定値は、#1: 25.1 #2: 26.0 #3: 20.4 #1?3の集合: 23.7

#4: 20.1 #5: 25.7 #6: 24.7 #7: 25.1 #8: 23.0 #4?8の集合: 23.8

#9: 23.6 #10: 24.9 (単位はいずれもkBq/ml)。

脳は構造が複雑で、前頭葉といっても広く、放射能の分布が不均一なので、ROIの位置を動かしたり形や大きさをかえると値が変わります(注3)。したがって、脳画像のROI取りにはかなりの経験が必要です。論文などには、前頭葉の放射能濃度(あるいはそれから計算した血流量など)がいくらであったと書かれていますが、その数値を得るために用いたROIによって結果が変わりうることを念頭に置いて論文を読む必要があります。そのため、論文によっては、どのようなROIを設定したかを論文中に図として提示しているものもあります。

ある部位の放射能濃度(Bq/ml)ではなく、ある臓器や高集積病変に集まった放射能の合計(Bq)を測定したいときは、それが写っているすべての断面において臓器や病変全体を囲むようにROIをとる必要があり、かなり面倒です。そのような場合には、画素値がある値以上の領域を自動的に囲むソフトウエアが用いられることもあります。

核医学の画像は形態情報が乏しいため、ROIを取りたい臓器や病変の放射能集積が低い場合など、対象とする画像上にROIをとる手がかりが無い場合もあります。そこで、ほぼ同じ位置で撮影されたCTやMRI、あるいは形態がよくわかる別の核医学画像と見比べながらROIを取るのもよい方法です。もしその参照画像が完璧に同じ位置であるなら(すなわちCTやMRIとレジストレーション(注4)されているか、同一検査同位置での別画像なら)、ROIの設定操作自体を参照画像の上で行うことも可能です。ただし、レジストレーション処理にはどうしてもわずかなずれが伴うので、CTやMRIで取ったROIが、測定対象の核医学画像上で適切な位置になっているか、ROIを表示して確認する必要があります。

ROIを人間が取るとどうしても主観が入り、また時間もかかります。それを嫌って、客観的にROIを取る方法も用いられています。ひとつの方法は、ある値以上の画素値をもつ画素を囲う方法で、上に述べたように放射能が集積した臓器や病変全体を囲うのに適しています。もうひとつは、標準となる画像にあらかじめROIを定義しておきそれを対象画像に合わせこむ方法で、脳においてよく用いられます。しかし、そのような「客観的な」方法で常に適切にROIが取られるかは保証の限りではありません。

以上はPETやSPECTのように、画素値が放射能濃度の単位で得られる断層画像の場合です。これに対して、シンチグラフィーの画像(シンチグラム)では、各画素の値はガンマカメラの視野内の各点に入射し検出された放射線の数なので、前後の重なりがあり、また体内の深い所は浅い所に比べて放射線が多く吸収されるため寄与が少なくなります。したがって、シンチグラムでは画素値は単なるカウントとして扱います。シンチグラム上にROIをとって臓器や病変に集積した放射能を測定する場合には、必ずその近くにバックグラウンド(背景)ROIを取ります。測定したい臓器や病変の前後には放射能がわずかながら存在し、その分がROI値に加算されているため、バックグラウンド領域にROIを取って引き算し補正するわけです。


注1:画素に数値が乗っていることに関しては、本シリーズ第15回参照。なお、画素の単位が放射能濃度(Bq/ml)で表されるためには、装置の定量性すなわち吸収や散乱などの補正が適切に行われ、さらに画素値を放射能値(ベクレル値)に換算するための校正(クロスキャリブレーション)が行われていることが前提です。クロスキャリブレーションが行われていない場合、画素値は相対的な放射能濃度となりますが、目的によってはそれで十分な場合もあります。

注2:ROIが複数の構成成分からなる場合には、混同を避けるためその成分を「閉曲線」と呼ぶこともあります。また、隣接する断面にまたがるROIを取れば立体的な領域に分布する放射能を測定することができますが、そのようなROIは三次元ROIあるいはVOI(Volume of interest)と呼ばれることもあります。ROIは、コンピュータの中では各画素がそのROIに属するか否か(1か0か)にて定義されることが多く、画面で円形に見えるROIもその実体は画素に沿ったギザギザの多角形となります。最近の画像処理装置では、ROIの境界上にある画素はその何%がROI内にあるか(実数値)を定義するものもあります。

注3:脳の表面は大脳皮質と呼ばれ、脳細胞が多く集まっていて血流や代謝がさかんなので、一般に放射性薬剤も多く集積します。この大脳皮質が「前頭葉」「頭頂葉」「後頭葉」など、いくつかの部位に分けられています。脳は部位によって働きが異なるので、血流や代謝がいくらであるとか、低下しているとかいう場合には、部位を特定することが非常に重要です。これに対して脳の深部には、神経線維(いわば脳細胞間を結ぶ電線)や脳脊髄液など、放射性薬剤の集積が低いところが多くあります。PETやSPECTのような断面画像の上では、大脳皮質は周辺部(ふち、へり)に位置しcortical rimと呼ばれます。cortical rimは、脳の標本を拡大して観察すると、実は灰白質(脳細胞が集まっている所)と白質(神経線維が走っている所)が複雑に入り組んでいます。核医学画像は、分解能がそれほどよくないため両者を分離して描出することができず、灰白質が多いところは画像上放射能集積が高く、少ないところは低くなり、結果としてcortical rimが不均一に写るわけです。

注4:本シリーズ第14回の注2参照。