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ASCA

 第15回 画像の表示条件

核医学の画像は、シンチグラフィーではガンマカメラの視野内の各点に入射し検出された放射線の数を画像にしたものです。また、PETやSPECTといった断層画像では、検出された放射線のデータから視野内各点の放射能の量を計算で求めて画像にしたものです。すなわち、数値を画像にしたものです(注1)。

デジタルカメラで撮った写真のように、一般に画像はコンピュータの中では画素(ピクセル)と呼ばれるマス目からできていて、各画素にどのような色を載せるかというデータがコンピュータに保存され、それに基づいて画面に表示されます(注2)。しかし、核医学の画像では、もともと画素には色ではなく数値が載っていて、表示するときに数値を色に変換して表示します。いくらの数値をどの色にするかという表示条件は、カラースケール(白黒の場合はグレイスケール)と呼ばれる色の配列によって決められます。

下図は、FDGによる脳のPET画像で、もとの画像データ(各画素に載っている数値)としては同一ですが、表示条件を変えると見え方がかなり変わります。医師は、適切な表示条件になるようにコンピュータを操作して、読影診断します(注3)。
 

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図:全く同一のPET画像データを、表示条件を変えて表示したもの。各画像に添えた色の帯はカラーバーと呼ばれ、いくらの値をどの色で表示しているかという数値(放射能濃度で単位はkBq/ml)を付記してある(上限の値をUpper、下限の値をLowerという)。矢印の部分は放射能集積が低下しているが、Cの表示条件ではそれがわからない。


カラー表示は白黒に比べてコントラストが大きいため一見わかりやすいですが、色の境界で不連続にコントラストがつくため病変を見誤ることがあるので、一般に核医学の専門家は、白黒表示を好み、カラースケールを使うときには必ず表示条件(図のUpperとLowerの数値)を変えながら観察します。

文献に掲載されている核医学の画像は、著者がもっとも適切であると考える条件、正確に言うと、著者が主張したいことがもっともよく表現されるような条件で、表示されているはずです。しかしそのことを読者が確かめることはできず、表示条件を変えればどのように見えるか、読者にはわかりません。現に上の図の画像データでも、表示条件によって病変がよく見えたり見えなかったりします。著者が意図的に不適切な表示条件で画像を発表することはないと信じますが、文献に掲載されている画像を見るときは、このように表示条件によって見え方が変わることを念頭におく必要があります(注4)。

核医学の画像データはもともと数値なので、画像だけではせっかく数値で測定されたデータを提示することができません。そこで、画像中の各部位のだいたいの値がわかるように、上の図のようにカラーバーに数値を添えて提示することも行われています(注5)。さらに、画像から数値を抽出して、ある部位(臓器や病変)の放射能集積は何ベクレルであったとか、それは投与した放射能の何%であった、というように数値で結果を提示し報告することも広く行われます。それについては、次回に説明します。

 

注1 X線CTとMRI画像も、それぞれX線吸収係数と磁気共鳴信号の強度という数値が画素に載っているデータなので、本講で述べている表示条件の問題が同様にあてはまります。X線写真も、かつてはフィルムが使われましたが、現在は数値化してコンピュータで保存し表示することが多くなりました。ちなみに、医用画像をコンピュータで保存し表示することによって病院からフィルムを追放する仕組みをPACS(picture archiving and communication system)といい、表示条件を自由に変えられるほか、場所をとらず検索や転送が容易になるなどのメリットもあり、現在は大多数の病院で採用されています。

注2 核医学の画像は、市販のデジタルカメラと比べると画素の数がずっと少なく、PETやSPECTの正方形の断層画像の場合タテヨコせいぜい128×128程度です(断面の数はたくさんあります)。この128×128という数(マトリクスサイズという)は、もとのデータの画素数であり、拡大して表示するときは画素と画素の間を補間して見かけの画素数を増やします。しかし、もとのデータは変わらないので、核医学の画像は拡大してもぼやけるだけで細部まで見えるようになるわけではありません。X線単純写真とX線CTやMRI画像は、核医学画像よりも分解能がよく画素の数も多いので、病院では高精細大画面のディスプレイを使って読影診断が行われます。これに対して核医学の画像は画素数が少ないうえに雑音が多いため、多くの場合一般のパソコン用ディスプレイでも十分に表示し読影することができます。

注3 表示条件を選びながら画像を表示するソフトウエアをビューアといいます。画像データはコンピュータの中では、ヘッダと本体からできていて、ヘッダには患者名、検査日、画像の種類などに加えて、マトリクスサイズなどデータ本体を読むために必要な情報が収められ、データ本体には数値が並んでいます。ヘッダや本体の書き方は、医用画像共通のDICOM(ダイコム)と呼ばれる規格(フォーマット)があり、どのメーカーの装置で撮像されたどの種類の画像データでも、DICOMに対応するビューア(ダイコムビューア)で表示することができる、というのが建前です。実際には、核医学の画像はDICOM化が不完全で、表示はともかく数値を扱うような解析となると、撮像した装置と同じメーカーの核医学画像解析装置を用いなければ正しい値が得られないという事例が時々見られます。

注4 プリンタの設定や調整がわるいと、コンピュータの画面では適切な表示条件でも、印刷してレポートや論文にすると色や濃さが変わってしまうことがあります。

注5 歴史的な話になりますが、1970年代コンピュータが未発達で数値を瞬時に色に変換して表示することができなかったころには、画素の数値をテキスト形式でそのまま紙に出力する、たとえば画素数32×32なら32行32欄に数字をプリントアウトするということも行われました。