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ASCA

 第14回 融合画像

PETやSPECTといった核医学検査では放射性薬剤の分布すなわち生体や臓器の「はたらき」が画像化され、CTやMRI検査では臓器の「かたち」が画像化されます(注1)。そこで、PETやSPECT画像を診断する際には、同じ位置のCTやMRIを横に置いて見比べながら読影すると、きわめて役立ちます。

下の図の左は肺がん患者のFDGによるPET画像(胸部の断面)、中央は同じ患者のほぼ同じ断面のX線CT画像です。PET画像では異常な放射能集積があることはわかりますが、何に集積しているのかよくわかりません。一方、CT画像ではリンパ節があることはわかりますが、小さいためCTだけではがんが転移しているとは言えません。両者を組み合わせることによって、リンパ節にFDGの異常集積があることが確認され、リンパ節転移が強く疑われると診断できます。このように、核医学画像を形態画像と組み合わせることによって診断精度が格段に向上します。

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図:左は肺がん治療後の患者のFDGによるPET画像で胸部の断面、中央は同じ患者のほぼ同じ断面の造影X線CT画像、右は両者を融合したもの。FDGはブドウ糖を放射能標識した放射性薬剤で、ブドウ糖が使われるところに集まる。多くのがんは一般にブドウ糖をよく使うのでFDGが集積するが、がん以外に炎症や筋肉などにもFDGが集積することがある。
 
PETとCTとを重ねて表示すればよりわかりやすいので、PETをカラーでCTを白黒で表示したのが図の右で、融合画像(フュージョン)といいます。融合させるためには、2つの画像が全く同じ位置で撮影されている必要がありますが、それぞれ別々の装置で撮影したのでは同じ位置になりません。そこで、コンピュータの中でPET画像を動かしてCTと同じ位置になるようにする処理が行われます。これをレジストレーションといいます(注2)。
 
PETやSPECTと同じ位置のCTが直接撮像できると都合よいので、PET装置(またはSPECT装置)をX線CT装置と共通の寝台で連結した一体型のPET/CT装置やSPECT/CT装置が実用化されました。PET/CT装置やSPECT/CT装置を用いれば、患者は寝台に一度寝ているだけで、一回の検査でほぼ同じ位置のPET(またはSPECT)とCTが撮像できるので、レジストレーション処理をしなくても融合画像が作成でき、きわめて便利です(注3)。とくにPET/CT装置はFDGによるがんの診断にきわめて役立つため広く使われるようになりました。
 
PET/CT装置やSPECT/CT装置では、PETやSPECTの吸収補正(本シリーズ第13回参照)をCTで行うことが多いです。CT画像の濃淡はX線の吸収の程度を表し、X線はPETやSPECTのガンマ線とはエネルギーが異なるものの同じ電磁波なので、吸収の程度を換算すればCT画像を吸収補正用のデータとして使えるからです。ただし、呼吸などで位置のずれがあったり、人工物や造影剤などガンマ線のエネルギーへの換算が不正確になる吸収体があると、吸収補正に誤差が出て画像上アーチファクトが生じることがあります。
 
このようにPETやSPECTとCTとは相性がよいので、一体型装置の開発が進みました。これに対して、MRIは強い磁場を使い、磁場によってPETやSPECTの放射線検出器で用いられている光電子増倍管が狂うため、核医学とMRIとの一体型装置の開発は遅れています(注4)。臨床的ニーズの点からは、MRIがCTに比べて断然威力を発揮するのは脳のイメージングですが、脳は剛体(注2)とみなせるので、PETやSPECTとMRIとを別々に撮像してソフトウエア的にレジストレーションすることができます。したがって、実際上、脳の融合画像の作成はそれほど困難ではありません。
 
 
 
注1) CT(X線CT)はX線の吸収の程度を断層画像にしたもので、肺は黒く骨は白く、一般の臓器はそのX線吸収度に応じてさまざまな濃さの灰色に写るので、形態の描出に優れます。MRI(磁気共鳴画像)は患者を大きな磁石(磁場)の中に入れて電磁波を当て体内の水素原子が共鳴するのを測定して断層画像にする方法で、水素原子すなわち水分や脂肪などの分布がよくわかるコントラストの優れた画像が得られ、工夫すれば臓器のはたらきを画像化することもできます。
 
注2) 三次元の移動は回転が3方向、平行移動が3方向なので、6つの自由度があります。脳は頭蓋骨に囲まれていて2つの画像の間で曲がったりへこんだりしない(剛体)と考えられるので、この6つの未知数を求めれば両画像のレジストレーションが可能であり、脳に関しては自動的にその計算を行うソフトウエアもあります。しかし、体幹部(首から下)に関しては、呼吸運動があるうえ、身体も臓器も柔らかいため、患者を一度寝台から下ろして別の装置へ連れて行くと全く同じ姿勢で寝かせることはきわめて難しく、剛体を仮定した計算ではうまくレジストレーションできないのが現実です。そこで体幹部に関しては、さまざまな道具を使ってなるべく同じ姿勢で撮像し、レジストレーションも半自動のインタラクティブなソフトウエアを用いて行われることが多いです。上に掲げた図はそのようにしてレジストレーションしたPETとCTです。
 
注3) 一体型PET/CTやSPECT/CTを用いても、撮影は全く同時ではないので、両画像は全く同じ位置にはなりません。特に呼吸の影響は不可避で、PETやSPECTは分単位、CTは秒単位の撮像時間なので、どうしても呼吸の相が合わず、肺や肝臓などが全く同位置にはなりません。しかし多少のずれは医師が目で見て補正するので、診断には差し支えありません。
 
注4) 最近開発が進んでいるPET/MRI装置では、PETの放射線検出器には光電子増倍管のかわりに磁場の影響を受けないアバランシェフォトダイオード(本シリーズ第10回参照)が用いられています。また、設計と運用を容易にするため、PET装置を小型化して大きなMRI装置のガントリ(トンネル)の中にすっぽり挿入(インサート)できるようにし、普段は通常のMRIとして使い、PET/MRI撮像をするときだけPETインサートを挿入するという設計がされています。