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ASCA

 第13回 PETカメラ特有の性質

PETカメラは消滅ガンマ線を同時計数することによって放射線を検出するので(本シリーズ第12回参照)、SPECTには見られないいくつかの特徴があります。

 
■飛行時間差(time of flight, TOF)
 
図1で、Sで発した消滅ガンマ線がSAとSBの方向に放射され、検出器AとBによって同時計数されるとします。Aがガンマ線をキャッチする時刻とBがキャッチする時刻は、SAとSBの距離の差によってわずかに違います。この時間差を測定して、Sが直線AB上のどのあたりかを推定し、その情報を画像再構成に活かす方式をTOFといいます。TOFの原理は昔から知られていましたが、検出器とコンピュータが発達した最近になってようやく臨床実用機に取り入れられるようになってきました。
消滅ガンマ線は光の速度(30cm/ns, nsはナノ秒=10-9秒)で飛びますが、現在のTOF型PETカメラの検出器の時間分解能は0.5ナノ秒程度といわれており、その場合ガンマ線の発生源SをAB上7.5cmの範囲に絞ることができます(注1)。TOFを用いると雑音の少ない画像を得ることができ、とくに腹部など被写体が大きい場合にその効果が現れます。たとえば直線ABが被写体中を30cm通るとすると、TOFが無ければSがその30cmの間のどこかわからずどの地点も等しく可能性があるとして画像再構成の計算を行いますが、TOFによって7.5cmの範囲に絞ることができればそれだけ雑音を減らすことができるからです。

 

mrpet13-1.jpg図1:Sで発生したガンマ線がAとBで同時計数される。

 
■吸収補正
 
図1で、Sで発生した消滅ガンマ線の一部は体内で吸収されてAやBに到達しません。PETカメラでは、SがAに近ければBへ飛ぶガンマ線が多く吸収され、Bに近ければAへ飛ぶガンマ線が多く吸収されるため、AとBの両方に到達する割合は、SがAB上のどこにあるかに依存しません(注2)。すなわち、PETではガンマ線の吸収の割合は放射能の分布に依存せず、吸収物質(骨は吸収が大きく、肺は少ない)の分布だけで決まります。そこで、吸収物質の分布を別に測定しておけば正確な吸収補正ができます。PET検査では、トランスミッションスキャンといって体外から放射線をあてて吸収の割合を測定するか、またはPET/CT装置の場合には一緒に撮影するCT画像から吸収物質の分布を計算します。
これに対して、SPECTやシンチグラフィーでは、深い所から発したガンマ線はより多く吸収されるため、吸収補正がPETよりも難しいです。PETがSPECTよりも定量性に優れる、すなわち放射能の量を正確に測定できるのはこのためです。
 
 
■偶発同時計数(ランダム)
 
図2のように、たまたま2箇所で同時に放射性同位元素が崩壊してそれぞれから2本の消滅ガンマ線が放射され、その1本ずつがPETカメラで同時計数されるものを偶発同時計数といいます(注3)。PETの同時計数データには偶発同時計数が必ず含まれるため、真の同時計数を得るために偶発同時計数を推定して引き算する補正処理が行われますが、それに伴って雑音が増えます。
PETでは放射能投与量を増やすことによってカウントを稼ごうとしても(注4)、あるレベルを超えるとむしろ雑音が増えるためにほとんど画質が向上しませんが、これは、真の同時計数が放射能投与量に比例するのに対し、偶発同時計数は投与量の2乗に比例して急激に増加するからです(注3)。
 

 mrpet13-2.jpg

図2:真の同時計数と偶発同時計数(誤って発生源が破線上にあると認識される)

 
注1:SがAB上を動くにつれてSAとSBの一方が長く他方が短くなるので、飛行距離の差はSの位置の2倍となって現れます。したがって、検出器の時間分解能が0.5nsなら、これをAB上Sの位置分解能に換算すると、30cm/ns×0.5ns÷2=7.5cmとなります。しかもこの7.5cmの範囲は均等でなく、Sが中央部にある確率が高くなります。なお、検出器の時間分解能を上げるために、TOF型PETカメラのシンチレータにはLYSOやLSO, LaBr3など発光時間の短い結晶が用いられるとともに、電子回路にも工夫が施されています。
 
注2:少し難しくなりますが、正確に式で書くと、Sで発したガンマ線が途中で吸収されずにAやBに到達する確率は、それぞれ、exp[?∫ASμdl], exp[?∫SBμdl] となります(μは被写体の511keVガンマ線に対する線減弱係数で積分はABに沿って行う)。同時計数されるためには、2本のガンマ線のいずれもが検出器に到達しなければならないので、その確率はexp[?∫ASμdl]×exp[?∫SBμdl]=exp[?∫ABμdl] となってSの位置に無関係となります。
 
注3:検出器対の偶発同時計数率は、同時計数を取る前の各検出器の計数率(シングル計数率)の積にタイムウィンドウ(本シリーズ第12回の注3)を掛けたものに等しくなります。シングル計数率は投与量に比例するので、偶発同時計数率は投与量の2乗に比例します。偶発同時計数は、検出器対の一方を適当な時間遅らせてから同時計数をとる(遅延同時計数)ことによっても測定できます。
 
注4:一般に多くのカウントを稼ぐ(多くの放射線を検出する)ほど、雑音が下がり、画質が向上します。これは、放射性同位元素の崩壊が確率現象だからです(本シリーズ第5回の注1参照)。より多くのカウントを稼ぐためには、放射能投与量を増やすか、撮像時間を長くするか、あるいは感度の高いカメラを用いる必要があります。