株式会社アスカコーポレーション - 医薬翻訳・英文校正・メディカルライティング ・通訳

ASCA

 第9回 放射線の安全管理

わが国では、医療機関での放射線や放射性同位元素の利用は、「医療法」と「放射線障害防止法」という2つの法律によって、厳重に規制されています(注1)。

放射性同位元素を扱うエリアは「管理区域」といい、人の出入りが制限され、入口には標識が取り付けられています。核医学の診療を行うエリアは当然管理区域となります。管理区域の中は、放射線が飛び交うとともに、物品や床に放射性物質が付着しているおそれがあるという考えに基づいて、専用のスリッパに履き替える、飲食が禁止されるなどのルールがあります(注2)。放射性物質をみだりに管理区域から持ち出すことは禁止され、放射性廃棄物は厳重に保管された後、専門の業者に引き渡されます(注3)。また設計の上でも管理区域は換気と排水が別系統になっていて、排気中や排水中の放射能濃度が限度値以下であることが常に確認されています。さらに、管理区域の内外や医療機関の敷地境界では、飛び交っている放射線の量(空間線量率)が測定されています。

核医学の職員が放射線の安全管理のために日常とくに気をつけていることは、外部被ばくを減らすことと、汚染を防ぐことです。外部被ばくを減らす3原則は「時間」「距離」「しゃへい」です。職員が手際よく作業を行い、線源から少し離れるような行動をとり、鉛のしゃへい用具を使うのはそのためです(注4)。また、放射性物質による汚染にも気をつける必要があります。放射性薬剤を1滴こぼし、それがあちこちに広がると、撮影のときに写って画質が低下するなど誤診の原因となることがあります。また、放射性薬剤投与後の患者の尿には放射性物質が含まれることが多いので、排尿するときは衣服や便器の外側、床などに尿がつかないように気をつける必要があります。

一般に放射線被ばくは、「職業被ばく」「医療被ばく」「公衆被ばく」に分類されます。職業被ばくとは、仕事による被ばくのことで、実効線量の線量限度が年間20mSvと定められています(注5)。放射線や放射性同位元素を扱う職員は定期的に必要な教育訓練と健康診断を受け、仕事中はバッジや線量計を身につけることによって被ばく線量を測定し、限度以下であることを確認しています。医療被ばくとは患者の被ばくで、医師の指示により診療のために患者も承知で行うものをいいます。患者は検査や治療のために放射線をあびるメリットがあり、医療上の必要性とその線量もケースバイケースなので、法令上医療被ばくに限度値は定められていません。公衆被ばくとは一般公衆があびる放射線で、実効線量限度が年間1mSvとされていますが、個人個人で測定することができないため、排気中の放射能濃度や敷地境界での空間線量率を測定することによって管理されています。これらの限度値は国際放射線防護委員会によって定められ、それが各国の法令に取り入れられています。

最後に、放射線防護の考え方に関する3原則をまとめておきます。
(1)行為の正当化。放射線を使うことによる利益が不利益を上回ること。
(2)最適化。放射線の使用による被ばくは合理的に達成できる限り低く抑える。
(3)線量限度。職業被ばくと公衆被ばくの限度を守る。
核医学検査やRI治療に関しては、(1)は患者の被ばくを上回る利益がある場合のみその行為を実施する、つまり不必要な検査はしないことを言っています。(2)はALARA(as low as reasonably achievable、アララ)の原則といい、職員や患者や関係者や公衆の被ばくを減らすために採算面や実際面で合理的に十分実行可能と考えられる範囲の手間とコストを惜しんではならない、逆に言うとその範囲を超えてまで手間とコストをかけて被ばくを減らす必要はない、という意味です。(3)はそれでも職業被ばくと公衆被ばくの線量限度は絶対守らねばならないという意味です。

注1)診断用X線(X線CTを含む)や放射性医薬品(本シリーズ第6回参照)を扱う場合は医療法だけの適用を受け、放射性医薬品以外の放射性同位元素や加速器(サイクロトロンやリニアック)を扱う場合は放射線障害防止法の適用も受けます。したがって、サイクロトロンを設置してPET用放射性同位元素を院内製造しPET検査を行っているところは、医療法と放射線障害防止法の両方の規制を受けることになります。また、職員の被ばくなど健康管理に関しては、労働安全衛生法(公務員は人事院規則)があります。

注2)足の不自由な患者が履き替えずに、時に車椅子のまま入室することは、差し支えありません。また、PET検査の際にFDGの尿への排泄を促すために患者が水を飲むのも、ここでいう飲食にはあたりません。

注3)核医学検査後の患者の体内には放射性物質が残っていますが、量も少なく時間とともに減衰するのでそのまま退室できます(余計な放射性物質が外へ出るのをなるべく減らすために退室前に排尿させるのが普通です)。ただし、例外として、RI治療(本シリーズ第6回参照)のために大量の治療用放射性医薬品の投与を受けた患者は、その種類と量によっては、特殊な放射線治療病室に収容され、体内の放射能が基準値以下になるまでは退室できません。

注4)距離は2乗で効きます。すなわち放射性薬剤投与後の患者に10センチまで近づくのと、1メートル離れるのとでは、100倍違います。病院内には核医学検査後の患者が歩いていて放射線が飛び交っていることを心配する人がいますが、患者に長時間密着しない限り影響ありません。(本シリーズ第7回参照)

注5)正確には、5年で100mSvかつ1年で50mSv。ただし妊娠可能な女性は3か月間で5mSv。実効線量とその単位については本シリーズ第8回参照。なお、職業被ばくと公衆被ばくの限度値には、自然放射線による被ばく(だいたい年間2.4mSv)と医療被ばくは含まれません。

2009.1.5更新