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ASCA

 第8回 線量の単位 グレイとシーベルト

生体が浴びた放射線の量を表すために、グレイ(Gy)とシーベルト(Sv)という2種類の単位が用いられます(注1)。

グレイは吸収線量(absorbed dose)の単位です。吸収線量とは、生体が吸収した放射線のエネルギーで、1グレイは1キログラム当たり1ジュール(1Gy=1J/kg)の熱量の吸収にあたります。放射線が生体に影響するのはエネルギーを生体に与えるからであって、エネルギーを与えずに通り抜けて行くだけの放射線は何ら生体に影響しないので、生体が吸収したエネルギーがその効果の目安となります。ただし、このエネルギーは熱量としては微々たるものです。たとえば、人間が全身に10Gyの被ばくを受けたとすると、それによるエネルギーは熱としてはホットコーヒー1杯の熱量にもなりませんが、もし本当にそれだけ被ばくすれば多くの人は死んでしまいます。実は、ごくわずかなエネルギーでも、放射線はDNAに対して直接または間接的に有害物質の生成を介して作用し、DNAが損傷を受けると細胞分裂ができなくなるので大きな生物学的効果となって現れるのです。たとえば、皮膚に大量の放射線を浴びるとヤケドに似た放射線熱傷になりますが、これは皮膚が熱で傷害されるからではなく、皮膚に新たな細胞を補充するための細胞分裂ができなくなるからです(注2)。

これに対して、シーベルトは実効線量(effective dose)あるいは等価線量(equivalent dose)の単位です。これらは、生物学的効果の目安で、実効線量は全身についての値、等価線量は個々の臓器についての値です。放射線によって生体が吸収したエネルギー(グレイ数)が同じでも、生物学的効果は放射線の種類や臓器の種類によって変わるため、それらを補正したものがシーベルトです。臓器によって放射線感受性の高い臓器(放射線に弱い臓器)と低い臓器(強い臓器)があるので、各臓器の吸収線量に重み(荷重係数)をかけて合計することによって、全身の目安である実効線量を算出します。数値の上では、実効線量のシーベルト数は全身吸収線量のグレイ数に近い数となります。

核医学検査における各臓器の吸収線量と実効線量は、放射性薬剤ごとに以下に述べるミルド(MIRD)と呼ばれる方法で計算され、文献に報告されています。まず代表的な人体の構造(どの位置にどのような成分の臓器があるか)をコンピュータの中で作成し、予め放射性同位元素の種類ごとに、各臓器に単位放射能が単位時間あるときその臓器およびそれ以外のすべての臓器にどれだけの吸収線量が及ぶかを物理学的に計算して表を作っておきます。次に、実際に人間に放射性薬剤を投与し、何分後にどの臓器にどれだけの放射能が集まるか、時間を追って撮影し測定します。そのデータと表から、掛け算と足し算を繰り返すことによって、放射性同位元素が排泄と減衰でなくなるまでの間に各臓器にどれだけの吸収線量が及ぶかを計算するわけです。さらに、それに荷重係数をかけて全身の臓器を合計することによって、実効線量を計算します。ここで注意すべきことは、計算に用いた人体構造は大人をモデルにしているので小児では変わってくるということ、また放射性薬剤の分布と時間経過も健常者データに基づいているので、たとえば腎不全で尿に排泄されるべき放射能が排泄されないなど、患者で分布や時間経過が異なる場合には文献値と異なるかもしれないということです。

実効線量は、被ばくの目安をひとつの数値で表すことができて便利なのでよく使われます。たとえば、FDGによるPET検査を受ける患者の内部被ばくは、実効線量で0.019mSv/MBq(つまり185MBq投与なら3.5mSv)というわけです(注3)。ちなみに、自然放射線による被ばくは年間約2.4mSvといわれています(注4)。ここで注意すべき点として、実効線量はあくまで全身に対する目安なので、X線CTやX線透視など、被ばくがある部位に集中する場合には、その部位の線量が重要であり、実効線量はあまりよい指標となりません。一般に核医学検査では放射性薬剤を投与するので全身ほぼ均等に被ばくし、実効線量がよい指標となりますが、時には特定の臓器の線量が他に比べて大きくなることもあります。たとえば、FDGは尿に排泄されるので膀胱の線量が比較的高くなって排尿の仕方にもよりますが0.16mGy/MBqくらいです。

もう一点、吸収線量は物理学的に定義された量ですが、実効線量は生物学的効果をどう評価するかによって変わる概念であり、実際、実効線量を計算する際に用いる荷重係数も改定されることがあります。したがって、古い文献の実効線量の値はそのまま使えない場合があります。

(注1)古くは、グレイのかわりにラド(rad)、シーベルトのかわりにレム(rem)が用いられました。1Gy=100rad、1Sv=100remです。グレイもシーベルトも大きい単位なので、通常はその1000分の1のミリグレイ(mGy)やミリシーベルト(mSv)などが使われます。

(注2)一般に細胞分裂の盛んな細胞(および将来細胞分裂する回数の多い細胞、すなわち未分化な細胞)ほど放射線の影響を受けて傷害されやすいことが知られ、ベルゴニエ・トリボンドーの法則といいます。これによれば、放射線感受性の高いものから臓器を分類して順に並べると、だいたいの目安として、骨髄・精巣・卵巣>消化管粘膜>眼の水晶体・膀胱>甲状腺・肺・肝・膵・腎>成長した骨・筋肉・脳、という順になります。また、がん細胞も一般に未分化で細胞分裂が盛んなため、放射線に傷害されやすく、その性質を利用して放射線によるがんの治療がおこなわれています。放射線治療では、がんに隣接する正常臓器の放射線感受性が高い場合には、位置決めなどに注意が必要です。

(注3)FDGの被ばく線量は、文献によって若干異なる値も報告されています。

(注4)自然放射線被ばくとは、宇宙線、大地からの放射線、さらに空気中や水中および人間も含めて動植物の体内に自然に存在する放射性同位元素による被ばくです。地域によって差があります。

2008.12.2更新