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 第6回 放射性医薬品(放射性薬剤)

放射性同位元素で標識された化合物を広く「標識化合物(labeled compound)」といい、医療以外にも、さまざまな実験や測定に用いられています。標識化合物のうち、診断や治療に用いるもので、厚生労働省の承認を受けて医薬品としてわが国で発売されているものを「放射性医薬品(radiopharmaceutical)」といいます。放射性医薬品には、(1)インビトロ核医学に用いるもの、(2)インビボ核医学に用いるもの、(3)RI治療に用いるものがあります(下図および本シリーズ第1回参照)。

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このうち、(1)は医薬品とは言うものの患者に投与するわけでなく、実験室での測定に用いる「試薬」なので、通常「放射性医薬品」と言うときは(1)を含めないこともあります(注1)。また、数の上では、(3)は(2)に比べて非常に少ないです。

放射性医薬品は承認され発売されているものをいいますが、核医学の文献には外国での報告や未承認薬を用いた臨床試験の結果も発表され、さらに大部分のPET用薬剤のように半減期が短く院内製造されるものは発売されないため承認の対象にもなりません。そこで、それらも含めて、診断や治療や医学研究のために人間に投与する標識化合物を一般に「放射性薬剤(radiopharmaceutical)」と呼ぶことがあり、本シリーズでも「放射性薬剤」という語を用いています。

放射性薬剤の最大の特徴は、物質としての量(グラム数)が非常に少ないことです。普通の治療薬は、有効成分としてミリグラム単位で投与されるものが多いです。しかし、放射性薬剤の1回の投与量に含まれる有効成分は、物質としてはマイクログラム(ミリグラムの千分の1)やナノグラム(さらにその千分の1)単位です。このようにごく微量であるため、薬としての人体への作用(薬理作用)がほとんどありません。これは非常に都合がよいことです。というのは、放射性薬剤は投与後しかるべきところに分布し放射線を出して光ればよい(RI治療薬なら周囲のがん細胞を照射すればよい)のであって、たとえば血圧を下げたり眠気を催したりというような、薬としての作用は無いほうがよいからです(注2)。現在用いられている放射性薬剤のなかにはミリグラムやグラム単位で投与すれば副作用が出るものもあります。そもそも放射性薬剤は、がんに集まったり脳に集まったりと、期待する分布が得られるように生物学的性質を考えて設計され開発されるので、物質として大量に投与すれば何らかの薬理作用を発揮することが多いのです。

放射性薬剤も一般の治療薬と同じように、投与されると体内に分布した後、代謝(metabolism)され、排泄(excretion)されます。ここで注意すべきことは、放射性薬剤が代謝されると化合物の形が変わり、極端な場合放射性同位元素が化合物から外れてしまうこともあります。化合物の形が変わると当初の性質が失われ、全く異なる分布を示すのが普通です。撮影の対象は放射性同位元素なので、それがもとの放射性薬剤なのか代謝物なのか、区別がつきません。放射性薬剤が代謝によってどのような形になるかは、微量であるため確認することが容易ではありませんが、非常に重要な点なので、開発の段階で投与後経時的に採血や採尿を行い化学分析と放射線測定を組み合わせることによって、詳細に検討されます。なお、非放射性部分の化学形、たとえば放射性同位元素が外れ去った後や放射能崩壊後に関しては、測定できないため誰にもわかりません。また、放射性同位元素の排泄の経路と速さは、投与後時間を追って分布を撮影すればわかりますが、腎臓から尿に排泄されるものが多く、また肝臓から胆汁を経て腸管に排泄される場合もあります。

放射性薬剤の品質管理としては、「放射化学的純度(radiochemical purity)」と「比放射能(specific activity)」が重要です。放射化学的純度は放射性同位元素がしかるべき化学形となっている、つまりしかるべき化合物に標識されている割合です。これは100%近い数値である必要があり品質管理上重要です。しかも製造後投与するまでの間に分解すると放射化学的純度が低下するので、安定性も重要です。一方、比放射能は放射能をグラム数(またはモル数)で割った値です。多くの放射性薬剤では、有効成分と全く同じ化合物で非放射性のもの(キャリアー)が混じっているため、比放射能はキャリアーフリーの理論値(本シリーズ第5回の注3を参照)よりも低くなります。もし何らかの理由で物質としての量が多くなると薬理作用や副作用を心配する必要があるため、比放射能も品質管理上重要です。

(注1)本シリーズでもとくにことわらない限り、「放射性医薬品」はインビトロ用を含みません。

(注2)実は、放射性同位元素は、一般に物質としてごく微量でも測定するに十分な信号(放射線)を出す、という性質があるために、取り扱いが面倒であるにもかかわらず、さまざまな分野で用いられているのです。(本シリーズ第5回参考)

2008.10.6更新