2010年5月

 

心臓の核医学イメージングでは、さまざまな放射性薬剤を用いることによって、心筋の血流、代謝、交感神経機能などがわかります。また、心電図同期撮影によって心筋の動き(収縮)を評価することもできます。さらに研究として心筋の受容体(レセプタ)などのイメージングも行われています。

 

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(1)心筋血流のイメージング

心筋血流SPECT製剤である201Tl-塩化タリウム、99mTc-sestamibi(MIBI)、99mTc-tetrofosmin(TF)は、いずれも注射したときの血流に応じて心筋に分布します。このうち、タリウムイオン(201Tl+)はカリウムイオン(K+)と同じように能動輸送によって心筋に取り込まれます。また、MIBIとTFは拡散によって心筋に取り込まれます(注1)。PETで用いられる13NH3は拡散によって心筋に取り込まれ、グルタミンとなってとどまります。

心筋のイメージングでは断層画像(SPECTやPET)を撮ります。心臓は体軸に対して傾いているので、斜めの断面像を作成することによって、心軸に垂直な短軸断層像(左心室壁の心筋がドーナツ状に描出される)や、心軸に平行な長軸断層像にて、読影評価します。

冠動脈(心筋を栄養する動脈。心臓の外壁を「冠」のようにとりまく)が動脈硬化や血栓(血の塊)によって閉塞する(へいそく=つまる)と、その先への血流が減るため、「虚血(きょけつ)」という状態になり、さらに進むと心筋の一部が死んでしまう「心筋梗塞(こうそく)」となります。したがって、心筋梗塞や高度の虚血の部位は、心筋血流イメージングで欠損や集積低下として描出されます。一方、冠動脈の狭窄(きょうさく=せまくなる)があっても、軽度であれば、安静時には血流が保たれるので心筋血流イメージングで異常がありません。しかし、運動すると、心筋が多くの酸素と栄養を必要とするため正常な心筋の血流は増えますが、冠動脈狭窄がある部位の心筋の血流は十分増えず、心筋血流イメージングで欠損として現れます。臨床的には、運動すると心筋虚血によって胸痛をきたす患者があり、「労作性狭心症」と呼ばれます。労作性狭心症では、虚血心筋は、心筋血流イメージングで安静時に血流が保たれ運動時に欠損を呈します。なお、高齢者など十分運動ができない患者では、運動させる代わりに薬で冠動脈血流を増やす薬物負荷によって検査を行います。このように、虚血性心疾患では安静時と負荷時にそれぞれ放射性薬剤を注射して撮像し、安静時と負荷時の血流画像を比較することが一般に行われます。

201Tlは時間がたつにつれて心筋からゆっくりと洗い出されて、それがその後の血流に応じて再び心筋に取り込まれ保持される部位に残ります(再分布)。そこで運動時または薬物負荷時に201Tl-塩化タリウムを注射して負荷時の心筋血流画像をまず撮像し、2時間の安静の後に再分布画像を撮像して安静状態の血流画像を得る、という方式でも検査が行われます。(MIBIやTFは再分布しないので2回注射が必要です)。

心筋血流イメージングでは、心電図同期撮影(注2)をすることによって、各心時相の画像を得ることができ、そこから心筋の動き(拍動)や心内腔の容積、拍出量など、血液を送り出すポンプとしての心機能を測定することができます。

(2)心筋代謝のイメージング

心筋は主に脂肪酸をエネルギー源としています。123I-BMIPPは脂肪酸を123Iで標識した放射性医薬品でエネルギーを使っている心筋に取り込まれます。

急性の心筋梗塞の患者では、発生直後に閉塞した冠動脈を再開通させることによって梗塞になりかけた心筋を救う治療が行われます。このようにして血流が回復した心筋では、しばらくの間心筋の動き(収縮)が低下することがあり、「気絶心筋」と呼ばれています。これは、血流が回復しても代謝がすぐには回復せず、エネルギーが使えないためです。SPECTを行うと、気絶心筋は201Tlなどによる心筋血流イメージングでは集積が見られますが、123I-BMIPPの集積が低下します。

心筋は、食後などインスリンや血糖の高い状態では、ブドウ糖もエネルギー源とします。そこでFDGを用いてPET撮像すると、心筋のブドウ糖代謝がわかります。冠動脈閉塞や狭窄のある患者では、冠動脈を広げたりバイパス血管を取り付けたりして血行を再建する治療が行われますが、すでに死んでしまった心筋に対しては血行を再建しても動きは改善しません。心筋が真に回復しうる(バイアブル)かどうかを判定するために、ブドウ糖負荷のもとにFDGによるPET検査が行われることがあります。ブドウ糖負荷のもとでFDGの集積があれば、バイアブルな心筋であると考えられます。

(3)心筋交感神経のイメージング

心筋には、心拍数や収縮の強さを調節するために、自律神経(交感神経と副交感神経)が分布しています。123I-MIBGは交感神経の終末に取り込まれます。交感神経は虚血に弱いと言われており、冠動脈の閉塞や狭窄によって「除神経」と呼ばれる交感神経が破壊された状態になると、心筋の血流が保たれていても123I-MIBGの集積が低下します。また、心不全(心臓全体としての血液を送り出すポンプ機能がわるくなる状態)になると、交感神経終末が異常をきたすことが知られており、123I-MIBGの集積が低い心不全患者は予後が悪いことが知られています。

注1:能動輸送とは、膜を通して低濃度側から高濃度側へと、濃度勾配に逆らって物質が輸送されることをいいます(注:電気を帯びた物質の場合には単に濃度差だけでなく膜の電位差も関係します)。そのために、膜に「ポンプ」などと呼ばれるタンパク質があって、いわば低いところから高いところに汲み上げるように、エネルギーを使って物質を輸送します。これに対して、拡散あるいは受動輸送とは、高濃度側から低濃度側へと勾配に従って物質が輸送されることをいいます。多くの物質は膜を自由に通過できませんが、膜には「チャンネル」と呼ばれるタンパク質でできた扉付きの穴があって扉が開くと物質が通るようになっていたり、あるいは膜に「トランスポータ」と呼ばれるタンパク質の「船」があってそれに乗って物質が膜を通過します。

注2:同期(ゲート)とは何かにタイミングをあわせてデータ収集することを言います。心電図同期撮影では、心電図のR波(各部位の心筋に収縮のタイミングを伝える刺激伝導系を電気信号が通り抜けるときに出る波。収縮が始まる直前すなわち拡張末期のしるし)にあわせて1フレーム数十ミリ秒の速いダイナミックスキャン(本シリーズ第18回参照)を行い、次の心拍のR波が来れば、最初に戻って、第1フレームからそれまでのデータの上に足し込んでゆきます。そのようにして数百心拍加算すると、心臓の拍動にあわせた、R波から始まる各時相の画像が得られ、これを動画で表示すれば心臓の動きがわかります。さらに、心筋SPECT画像を三次元的に扱って、各時相での心内腔の容積を計算すれば、拡張末期と収縮末期の左心室の容積が計算でき、心拍出量もわかります。

 

脳の核医学イメージングでは、さまざまな放射性薬剤を用いることによって、受容体(レセプタ)など脳における特定の分子(ターゲット)の働きを画像化することができます。本シリーズで前回述べた「血流」や「代謝」のイメージングでは脳の全般的働きがわかりますが、今回述べる受容体など特定の分子を画像化すれば、ずばり病気の本態や治療効果に迫れることもあります。下の表に脳における特定の分子(ターゲット)をイメージングする放射性薬剤の例をいくつかあげます。これ以外にも百を超える多数の放射性薬剤が開発され、脳のさまざまなターゲット分子のイメージングに研究利用されています。

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 (1)ドパミン系神経伝達機構のイメージング
脳は多数の脳細胞がそれぞれ枝を伸ばし、シナプスと呼ばれる接続部で相手の脳細胞に情報伝達をしていますが、そのシナプスでは、情報を送る側(シナプス前、節前)の細胞から神経伝達物質という特殊な物質が放出され、情報を受け取る側の細胞(シナプス後、節後)の細胞の表面にある受容体(レセプタ)に結合することによって、情報伝達が起こります。神経伝達物質は数多くの種類があり、受容体もそれに応じて異なります。脳の病気には、特定の神経伝達物質や受容体の異常に関係するものがあるので、それらを画像化すれば正確な診断と重症度の評価ができ、治療効果の評価も可能となります。
ドパミンは神経伝達物質のひとつでパーキンソン病と密接な関係があります。核医学ではこのドパミン系神経伝達機構のイメージングが最も研究開発が進んでいます。
18F-FDOPAはDOPA(ドーパ)というドパミンの原料をフッ素-18(18F)で標識した放射性薬剤で、DOPAと同じようにドパミン系節前細胞に取り込まれて18F-フルオロドパミンに変わり、節前終末に蓄えられるので、放射能集積からドパミン系節前細胞の機能がわかります。また、節前細胞の表面にはドパミントランスポータといって、放出したドパミンを再び取り込む機構がありますが、123I-FP-CITや11C-CFTはドパミントランスポータに結合するので、同様にドパミン系節前細胞の機能がわかります。これに対して、123I-IBZMや11C-RACは、ドパミン受容体(詳しくはD2タイプの受容体)に結合するので、ドパミン系神経伝達機構における節後の機能がわかります。
ドパミン系の神経伝達は脳の深部にある線条体(せんじょうたい)と呼ばれるところで行われます。パーキンソン病では、線条体でのドパミン系節前細胞の機能が低下するので、18F-FDOPAで画像化すると、線条体の放射能の取り込みが低下します。一方節後の受容体は最初のうちは傷害されないか、またはむしろ代償的に亢進するので、11C-RACで画像化すると線条体の放射能集積は正常か亢進します。これに対して、パーキンソン病とよく似た症状を呈する多系統萎縮症などパーキンソン症候群と呼ばれる疾患群では、節後の細胞が傷害されるので、11C-RACでドパミン受容体を画像化すると線条体の放射能集積が低下します。このように、ドパミン系神経伝達機構の異常でパーキンソン病様の症状(パーキンソニズム)をきたすいくつかの似た疾患を、PETやSPECTを用いて鑑別することができます。シナプスでの節前と節後のすきま(シナプス間隙)はきわめて狭く電子顕微鏡でなければ見えませんが、このように核医学イメージングを用いれば節前と節後のどちらが傷害されているかを見分けることができます。
ドパミン系以外にも、セロトニン、アセチルコリンなど、さまざまな神経伝達物質があり、それぞれの神経伝達機構を画像化する放射性薬剤の開発が進められています。
また、一般に脳の薬は受容体やトランスポータに効くものが多くあるので、脳疾患の患者においてこれらの薬が効くか、効いているかを見るために、核医学イメージングが用いられることもあります。
受容体やトランスポータなど特定の分子を画像化する放射性薬剤は、そのターゲット分子に結合する(特異的結合といいます)以外に、弱い結合ながらターゲット分子以外のさまざまな分子にも結合します(非特異的結合といいます)。上に述べたドパミン系神経伝達機構のイメージングにおいても、線条体の放射能集積には特異的集積以外に非特異的集積が含まれ、定量化するためには補正が必要です。そのためによく用いられるのが、ターゲット分子が存在しない参照領域(reference region)です。ドパミン系神経伝達機構は小脳には存在しないので、ドパミン系のイメージングでは小脳の放射能は非特異的結合を表します。そこで、小脳を参照領域とし、線条体の放射能集積と小脳の放射能集積との差や比から、線条体の特異的結合すなわちドパミン系の節前や節後の機能を評価することができます(注1,2)。

(2)中枢性ベンゾジアゼピン受容体のイメージング
ベンゾジアゼピン受容体(正確には中枢性ベンゾジアゼピン受容体)は脳細胞の本体の表面に広く分布しているので、123I-IMZや11C-FMZで画像化すると、傷害されていない脳細胞体の分布がわかります。
脳血管障害で血流が低下したり、あるいは脳梗塞の遠隔効果(注3)によって代謝や血流が低下しても、脳細胞体が傷害されていなければベンゾジアゼピン受容体が残っているので、123I-IMZや11C-FMZで正常に描出されます。
てんかんでは、焦点と呼ばれる異常な発火の発生源でベンゾジアゼピン受容体が低下することが知られており、焦点を検出するのに有用です。焦点では、代謝や血流が、発作の無い時期に低下し、発作中には増加するので、代謝や血流のイメージングでも焦点を描出できます。しかし、代謝や血流の異常は焦点を含む広い領域でみられるのに対し、ベンゾジアゼピン受容体は焦点の狭い領域でのみ低下するので、より正確に焦点を描出できるとされています。

(3)ベータアミロイドのイメージング
ベータアミロイドは、アルツハイマー病などにおいて脳に蓄積するたんぱく質で、脳細胞が壊れてでき、また、それ自体毒性があってアルツハイマー病における脳細胞の破壊に寄与します。そこで、上の表のように、アミロイドに結合する物質を放射性同位元素で標識した放射性薬剤がいくつも考案され、治験や研究などで用いられています。
アルツハイマー病では、発病の何年も前から脳にアミロイドが蓄積することが知られており、物忘れを訴える患者が年齢相応なのかそれともアルツハイマー病の初期なのかを鑑別するのに役立ちます。また、認知症をきたす疾患としてアルツハイマー病以外に前頭側頭葉変性症などがあり、鑑別が難しいこともありますが、後者ではアミロイドが蓄積しないので、アミロイドのイメージングを用いてアルツハイマー病と前頭側頭葉変性症を鑑別することができ、患者にとって適切な治療を選択することができます。
アルツハイマー病の治療薬としてアミロイドを溶かす薬が開発されつつありますが、その治療薬が効いているかどうかをアミロイドのイメージングで確認することもできます。


注1) 放射性薬剤の集積が特異的かどうか(放射能集積のうち何%が特異的か)を見る方法として、飽和性を調べる方法がよく用いられます。ターゲットとなる受容体などの分子はごくわずかな量しか存在しないので、放射性薬剤を物質として大量に投与すると(すなわち比放射能を下げると)、放射性同位元素の大部分はターゲット分子に結合せず、特異的集積が著名に低下します。これに対して、非特異的結合の相手となる分子は大量に存在するので、飽和がおこらず、非特異的集積は影響をうけません。(比放射能を下げるためには、実際には同じ化合物で非放射性のものを大量に混ぜて投与します。)
もう一つの方法として、競合や阻害をみる方法があります。そのターゲットに結合することが知られる薬を投与すると、ターゲットが占拠されたり放射性薬剤がターゲットに結合するのと競合するため、放射性薬剤の特異的集積が低下します。その際、非特異的集積はもちろん影響を受けません。
放射性薬剤の集積が特異的であることは、通常ヒトに投与する前の段階で、すなわち試験管の中であるいは動物実験で確認しますが、動物とヒトは種差のために挙動が異なる場合もあります。

注2) 放射性薬剤の集積が特異的かどうかに加えて、それが「選択的」がどうかも重要です。受容体Aを画像化する目的の放射性薬剤がよく似た受容体Bにも結合する場合には、放射能集積が受容体AとBの両方を反映し、選択性が低いということになります。これを明らかにするためには、受容体Aあるいは受容体Bだけを阻害(ブロック)する薬を投与したときの放射性薬剤の集積の変化から確認することができます。これも、通常はヒトに投与する前の段階で、試験管の中であるいは動物実験で確認します。

注3) 遠隔効果については、本シリーズ第24回の注8と本文を参照。