2009年12月

 画素が放射能の値ではなく、それから計算された生物学的・医学的に意味のある値(パラメータ値)を持っている画像を、パラメトリックイメージといいます。
 PETやSPECTの画像は、各画素がその部位の放射能濃度の値を数値として持っていることは以前述べました(本シリーズ第15回参照)。そこで、たとえば放射性薬剤投与後同じ位置で時間をあけて2回撮像し、その差や比をとれば、放射性薬剤が洗い出される(あるいは蓄積する)速さを反映する値が得られます。1回目撮像時の放射能のうち正味何%が2回目撮像時までに出て行ったかを、洗い出し率といいます。画素毎に洗い出し率を計算し、その値を画素値として持つ画像を作成すれば、「洗い出し率」というパラメータのパラメトリックイメージになります。もしその放射性薬剤が血流によって(あるいは代謝・分解されて)臓器や組織から出てゆくなら、洗い出し率はその部位の血流の大きさ(あるいは代謝の強さ)を表す、医学的に有用な指標となります。また、もしその放射性薬剤が正常な細胞には保持されるが傷害された細胞には保持されずに出てゆくならば、洗い出し率は細胞が傷害されている程度を表す指標となります(その場合は洗い出し率ではなく、何%残っているかという「保持率」も使います)。このように、パラメータ値は診断に直結する指標となるため、パラメトリックイメージは臓器内のどの部位がどの程度異常であるかを直接画像に描出することができます(注1、2)。
 患者を同じ位置にて異なる条件で2回検査し、その差や比からパラメトリックイメージを作成することもよく行われます。たとえば、脳血流を増加させるアセタゾラマイドという薬を注射する前(安静時)と後(負荷時)で計2回、脳血流のPETまたはSPECT検査を行えば、薬物負荷による脳血流増加の程度(予備能)を表すパラメトリックイメージが作成できます。
 別の例として、酸素-15標識の二酸化炭素ガスを持続的に吸入させ、脳の放射能が一定になった時点でPETカメラにて脳の放射能を1回撮像すると、脳血流を反映する画像が得られます(注3)。ただ、血流の多い部位は放射能が多く流入しますが洗い出しも多いため、放射能と血流は比例せず、血流が増える割には放射能は増加しません。そこで、血流を定量するために動態モデルを用い、採血して得られた血中放射能値を用いて脳の放射能値を画素毎に血流値に換算します(注4)。このようにして得られた脳血流値の画像も、もとの放射能画像は1枚だけですが、パラメトリックイメージです。
 SUV値(本シリーズ第17回参照)の画像も広い意味ではパラメトリックイメージですが、SUV値はもとの放射能画像に定数をかけるだけで複雑な計算はしないので、パラメトリックイメージという言いかたはあまりされません。
 パラメトリックイメージはダイナミックスキャンにおける動態解析でよく作成されます。本シリーズ第18~20回で説明したように、ダイナミックスキャンを行い、関心領域(ROI)を設定して動態解析を行えば、さまざまな速度定数(k)の値を求めたり、インフラックスや分布体積を求めることができます。この計算をROIではなく画素毎に行えば、k値やインフラックス値や分布体積値などのパラメトリックイメージができます(下図)。ダイナミックスキャンはもとの放射能画像を見ただけではどの部位が正常か異常かを直接読影することが難しいので、パラメトリックイメージがよく活用されます。

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アルツハイマー病の患者において、FDGを用いた脳のダイナミックPETデータから作成したK1, k2, k3値と糖代謝速度(CMRGlu)のパラメトリックイメージ(注5)。2断面示す。雑音が大きいことに注意。


 パラメトリックイメージに関する注意点を以下にいくつか述べます。
 まずパラメトリックイメージは一般に雑音が大きい画像となります。これは、パラメータ値を計算する際に、もとの放射能画像の誤差が拡大することが多く、雑音も大きくなるからです。そのため、もとの放射能画像にスムージング(平滑化)をかけてから計算することも行われますが、そうすると分解能が劣化します。
 次に、パラメトリックイメージからある領域のパラメータ値を得るために、パラメトリックイメージの上にROIを置いて値を抽出することが一般に行われていますが、実はあまり勧められません。これは、雑音が大きいために、ROI内の画素値を平均すると、その平均値の誤差も大きくなりときには真の値からずれるからです。ROI内のパラメータ値を求めたい場合には、パラメトリックイメージを用いずに通常のROI解析をする、すなわちもとの放射能画像の上にROIを置いて放射能値を抽出し、その値を用いてパラメータ値を計算するというのが、より望ましい計算方法です。すなわち、パラメトリックイメージは本来、測るものではなく見るものなのです。
 このほか、パラメトリックイメージの作成に関しては、当然ながら2枚以上の画像から作成する場合にはその間に位置が動いていないことが前提となります。
 また、パラメトリックイメージは画素毎に計算するため、一般に作成に時間がかかります。

注1)本シリーズ第15回で述べたように、核医学画像は同じ画像でも表示条件(カラースケール、グレイスケール)によって見え方が変わるので注意が必要ですが、パラメトリックイメージは色が医学的に意味のある値を表すので、表示条件は特に重要です。

注2)洗い出し率は2回の撮像の時間間隔によってかわり、また1回目の撮像時刻によってもかわります。したがって、撮像時刻などの条件を一定にしなければ他の患者との比較はできません。このように、パラメトリックイメージのパラメータ値は撮像や計算過程のさまざまな条件に影響されるので、その解釈には注意が必要です。

注3)酸素-15標識の二酸化炭素ガス(C15O2)を吸入すると、肺の毛細血管にてカーボニックアンハイドラーゼという酵素の働きで酸素-15標識の水(H215O)となり、血流に応じて臓器に運ばれて組織に入り、血流に応じて洗い出されるとともに、放射能が時間とともに減衰します(半減期2分)。したがって、一定の放射能濃度のC15O2ガスを一定速度で吸入させると、組織に入る放射能が出る放射能プラス減衰とつりあって一定になります。

注4)難しくなりますが、式で表すと、C15O2吸入時の定常状態においては、
 F Ca = F Q/p + λQ   すなわち  F =λ(Ca/Q-1/p) 
の関係が成り立ち、放射能濃度から脳血流値への換算ができます。ここで、Fは脳組織の血流、Qは脳組織放射能濃度、Caは動脈血放射能濃度、pは水の脳血液分配係数、λはO-15の減衰定数です。

注5)いわゆる3Kモデル(本シリーズ第20回参照)で求めたK1, k2, k3値。脳の糖代謝速度= K1k3/(k2+k3)・血糖/LC (本シリーズ第20回の注5参照)。
 

放射性薬剤の臓器や腫瘍(組織という)での挙動は、大きく分けて蓄積型と平衡型に分類されます(注1)。動態解析(注2)においては、放射性薬剤の集積の程度を評価する指標として、蓄積型の場合にはインフラックス(Influx rate, Influx constant, Ki)、平衡型の場合には分布体積(Distribution volume, DV, VD)が、それぞれよく用いられます。

(1)蓄積型ではインフラックス
「蓄積型」とは組織に入った放射性薬剤が非可逆的に蓄積するタイプのもので、FDGの脳における挙動がその代表です。FDGはブドウ糖と同様に組織に入った後、ブドウ糖と同様に代謝されますが、代謝が途中でとまり組織内に蓄積します。そのためFDG投与後の時間経過とともに組織の放射能がどんどん増加し、放射能の増加は血中にFDGがあるかぎり、すなわち入力関数(注3)がゼロにならないかぎり続きます。
インフラックスとは、単位時間にどれだけの放射性薬剤がその組織に蓄積するかを、それがどれだけの量の血中にあるかで表したものです。言い換えると、単位時間にどれだけの血中にある放射性薬剤をすべて取り込んで蓄積したかを意味します(注4)。インフラックスは組織が放射性薬剤を集積する傾向を表す重要な指標となります。FDGの場合には、インフラックスが組織のブドウ糖代謝速度をそのまま反映します(注5)。
図1は脳のFDGでよく用いられる動態モデル(いわゆる3Kモデル)で、FDGは組織中に入り、一部はそのまま出てゆきますが、残りは代謝されて蓄積します。組織中の放射能は未変化のFDGと代謝されたFDGという2つのコンパートメントで表され、この和がPETカメラで測定されます。血漿中のFDG(入力関数)は、採血などによって測定します。3Kモデルでは、インフラックスは K1k3/(k2+k3) で表されます。これを求めるためには、方程式を立てて、実測された入力関数と組織の放射能のデータからカーブフィッティングによってK1, k2, k3を求めそれから計算する方法のほか、図2のようにパトラック(Patlak)プロットと呼ばれるグラフ解析の手法を用いてグラフの傾きから求めることもできます(注6)。

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図1:FDGの動態モデル
 

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図2:蓄積型の放射性薬剤の、グラフによる動態解析の例。蓄積型では入力がある限り組織の放射能が増加する。入力関数と組織の放射能からパトラックプロットによってインフラックスを求めることができる。(この図では入力関数は線で描いてあるが、実際は採血して求めるのでとびとびの点になる。)


(2)平衡型では分布体積
「平衡型」とは組織に入った放射性薬剤が一時的に滞留するものの、血中濃度が下がれば出てゆくタイプをいいます。組織内の受容体などに可逆的に結合する放射性薬剤は平衡型の挙動をとります(注7)。放射性薬剤は組織に入り受容体などに結合しますが、結合は可逆的であり、平衡に達した後は、血中濃度の低下とともに結合がはずれて放射性薬剤が組織から出てゆきます。
放射性薬剤投与後早期には、組織中放射性薬剤濃度が低く血中濃度が高いので、平衡のバランスによって放射性薬剤が組織に入り受容体などに結合するため、組織の放射能が増加します。しかし、時間がたつと血中濃度が下がって平衡のバランスが逆転し、放射性薬剤が受容体からはずれさらに組織外へと出てゆくため、組織の放射能が下がります。
平衡型の放射性薬剤は、もし血中濃度(入力関数)が長時間一定に維持されたならば、ある程度の時間がたって平衡に達した後は、組織の放射能も一定になります。このような仮想的な平衡状態における組織中と血中の放射性薬剤の濃度の比を分布体積と言います。分布体積は、放射性薬剤の受容体等への結合の強さを表す指標として有用なので、平衡型の放射性薬剤の集積の程度を評価するためによく用いられます。分布体積に「体積」という名がつくのは、仮想的平衡状態にて、もし血中濃度と同じ濃度で組織中に放射性薬剤が存在するならばどれくらいの体積を占めるか、という値だからです(注8)。
分布体積は、図3の動態モデルでは DV=K1/k2 、また図4の動態モデルでは DV= K1/k2・(1+k3/k4) となります。これを求めるためには、カーブフィッティングによってk値をすべて求めてそれらから計算する方法のほか、図5のようにローガン(Logan)プロットと呼ばれるグラフ解析の手法を用いてグラフの傾きから求めることもできます(注6)。
 

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図3:いわゆる2Kモデル
 

 

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図4:いわゆる4Kモデル

 

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図5:平衡型の放射性薬剤の、グラフによる動態解析の例。平衡型では入力が下がると組織の放射能も下がる。入力関数と組織の放射能からローガンプロットによって分布体積を求めることができる。(この図では入力関数は線で描いてあるが、実際は採血して求めるのでとびとびの点になる。)



注1)どちらであるかは放射性薬剤によりますが、同じ放射性薬剤でも組織によって挙動が異なる場合もあります。またこの分類はあくまで測定時間内での現象によるので、平衡型でも平衡に達するのが遅い場合は、測定時間内では蓄積型の挙動をとります。

注2)動態解析、入力関数、動態モデル、コンパートメントなどについては本シリーズ第19回参照。

注3)ここでは血液と血漿をあえて区別していませんが、FDGも含めて多くの場合、入力関数は全血液中ではなく血漿中の放射性薬剤の濃度を言います。というのは、赤血球中の放射性薬剤は組織に入らないことが多いからです。多くの場合、「血中」や「血液中」とあるのは、全血中ではなく血漿中の放射性薬剤です。

注4)インフラックスの単位は、ml血漿/分/ml組織  などで表します。

注5)ブドウ糖代謝速度=FDGのインフラックス×血中ブドウ糖濃度÷LCです。LCはlumped constantと呼ばれる定数で、ブドウ糖の速度定数(k値)とFDGのk値を換算する定数です。

注6)グラフ解析は、面倒なカーブフィットをしなくてもよいという利点があります。とくに、個々のk値ではなくインフラックスや分布体積を求めるのが目的であれば、きわめて便利です。放射性薬剤の挙動が動態モデルに厳密に合わない場合や正確なモデルがわからない場合でも使えるという利点もあります。

注7)11C-racloprideによるドパミンD2受容体、11C-フルマゼニルによる中枢性ベンゾジアゼピン受容体、受容体ではないですが11C-PiBによるベータアミロイドのイメージングなどが、平衡型の例です。

注8)分布体積の単位は、ml血漿/ ml組織 などで表します。これが1よりも大きいということは、組織に放射性薬剤が濃縮されて分布することを意味します。もちろん単に分布しているのではなく、放射性薬剤が受容体などに結合するからです。