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ASCA

 第32回 翻訳について (1)

このたび、マイナー連載「語源でゴキゲン」を再開させていただくことになりました。その名も「語源で超ゴキゲン」、名前だけは威勢がいいですが、新たな名前に見合った「超ゴキゲン」な内容となるかどうかは、寛容な目で見守っていただければ幸いです。再開にあたって、いまさらですが初心に戻って(?)、著者だけでなく連載させていただいているアスカコーポレーションの中心的業務である「翻訳」について、ただし翻訳そのものについてでなく「翻訳」を表す言葉について書いてみようと思います。

「翻訳する」「翻訳」を意味する英語は、ご存じのようにtranslate、tranlationですが、この言葉の語源を調べてみるとラテン語の動詞transferre(トランスフェッレ、「運ぶ」という意味)に行きつきます(trans=across, beyond、ferre=to bring)。ですがこのラテン語、見覚えがあるような気がしませんか。そうです、英語にはtranferという動詞があって、実はこの言葉の語源も同じラテン語transferreなのです。どういうことかと言えば、transferreという動詞の過去分詞がtranslatus(トランスラートゥス)で、英語のtranslateはこの過去分詞に由来するのです。このように、同じ語源から異なる経路(この場合は異なる品詞への変化形)を通じて借入され、異なる意味の異なる言葉となっているものを、以前にも書いたように二重語といいます。

ご存じのように、医学の世界では翻訳(translation)という言葉は遺伝学の分野で用いられています。遺伝情報(塩基配列)に基づいて蛋白質が作られる過程は、大きく分けて転写(transcription)と翻訳(tranlation)に分けられます。転写は、DNAの塩基配列がRNAに移し取られること、翻訳は転写された塩基配列をもつメッセンジャーRNA(mRNA)から蛋白質が合成される過程です。ちなみに、蛋白質合成の際に蛋白質の構成要素となるアミノ酸を運んでくるRNAはトランスファーRNA(tRNA)と呼ばれます。生命に必須の蛋白質合成においてtranslateとtransferが協働しているわけですね。またtransferに酵素を表す接尾辞〈-ase〉をつけたtransferase(転換酵素or転移酵素)は、「一方の基質から他方の基質へと原子団〈転移基〉を移動させる反応を触媒する酵素」として定義されるものです。近年では、翻訳(translation)という言葉が、トランスレーショナル医学(translational medicine)として、基礎医学の知見を臨床医療に実用化することとして注目を集めています。

今回の主人公となったラテン語transferreの〈trans-〉の方については次回に詳しくみることにして、今回は〈-ferre〉を語源とする言葉をみておくことにしましょう。〈-ferre〉を語幹にもつラテン語に由来する英語をざっと並べてみますと、confer、offer、prefer、suffer、infer、referなどが挙げられます。いずれも何らかのもの(具体的・抽象的をとわず)を移動する、という意味が基本にあります。この中で、confer(授ける)についてとりあげてみますと、これはcon(cum=together)+ferということで、「一緒に運ぶ」という原義になります。実は皆さんがよく行っているconference(会議)は、この動詞conferの名詞形ですから、元の意味からすると「一緒に運ぶこと」になるわけです。「会議なんてしんどいなあ」と日ごろ思っているあなた、会議とは共通の目標に向かって「一緒に担い運ぶこと」だと考えると、見方が変ってくるかもしれませんよ。