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 第30回 ラテン語のはなし(1)

私が義務教育で、中学に入って英語を習い始めた時に、綴りと発音の不規則性にとまどった覚えがあります。たとえば、beatifulという単語を発音とともに習っても、同じ音で-eau-という綴りが入っている言葉が出てこないのを不思議に思ったものです。大学に入ってフランス語を習い始めてみて、こうした疑問の多くが氷解しました。つまり、英語にはかなりフランス語が外来語として入っていて、それらが英語流の発音に(場合によっては綴りも)変化して、不規則にみえることになるのです。

ラテン語は、フランス語自体がその語源のほとんどを負っているだけでなく、ラテン語の語彙自体にも、その変化とともに英語に入っているものが結構あります。ラテン語は独特の変化(動詞の人称・時制変化、名詞の性・数・格)をするため、それがそのまま英語で使われる場合に、英語の中で不規則にみえることになります。たとえば、一般的に使われる言葉で、日本語でもカタカナ語(「データ」)で使われるdataは、辞書をみると単数形datumの複数形だと書いてあります。これは、英文法では説明できませんが、なぜかといえば、ラテン語の変化がそのまま使われているからなのです。

ラテン語名詞は、男性、女性、中性の3種類のどれかに属し、それぞれ独自の変化をします。datumというのは中性名詞で、〈-um〉でおわる中性名詞の複数形は語尾が〈-a〉となるため、datumの複数形はdataとなるのです。医薬用語でこのパターンなのは、「血清」(単数serum→複数sera)、「細菌」(単数bacterium→複数bacteria)などがそうです。それでは男性名詞はどうかと言えば、たとえば「焦点」を意味するfocusはラテン語の男性名詞で、その複数形はfociとなります。つまり〈-us〉という語尾をもつ男性名詞は語尾が〈-i〉となるのです。このパターンには、「場所、遺伝子座」(単数locus→複数loci)、「真菌」(単数fungus→複数fungi)、「気管支」(単数bronchus→複数bronchi)などがあります。

ところで、女性名詞の場合ですが、女性名詞の代表的なものは単数形が〈-a〉で終わるものですが、この複数形は語尾が〈-ae〉となります。この例には、「静脈」(単数vena→複数venae)、「粘膜」(単数mucosa→複数mucosae)、「気管」(単数trachea→複数tracheae)などがあります。ここで気づかれたかと思いますが、女性名詞の単数形と、中性名詞の複数形は、同じ語尾〈-a〉をとることになります。これは、単語ごとに「性」を覚えなければいけないということになり、ちょっと厄介にみえますね。しかし、厄介なのはこれだけではないのです…(それについては次回以降に改めて)。

 

ラテン語名詞の変化表(1)

  主格単数 主格複数
男性名詞 focus foci
女性名詞 vena venae
中性名詞 datum data

 

参考文献:

『新英和大辞典』(研究社)