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 第29回 食べることと話すこと (2)

さて、今回のタイトルからすでに予想された読者もおられたかもしれませんが、医学用語に dysphagia とか aphagia と言う言葉があるのですが、文字が一つ違うだけの言葉(読みをカタカナにすると同じ言葉)で、dysphasia とか aphasia という言葉があります。前回紹介したように、〈phago-〉という接頭辞ギリシャ語で「食べる」を意味する動詞ファゲイン phagein に由来するのですが、〈-phagia〉も同様です。そこから、dysphagia は「嚥下障害」を、aphagia は「嚥下不能」と言う意味になるのですが、これには〈dys-〉と〈a-〉という接頭辞が効いています。

医学用語でもおなじみの英語の〈dys-〉は、ギリシャ語の接頭辞デュス〈dus-〉に由来し、「悪化」「不良」などを意味します。また、英語の〈a-〉という接頭辞はいろいろな意味がありますが、その中の一つに、ギリシャ語の〈a-〉(母音またはhの前ではan-)に由来して、「無」「ない」という否定を表すものがあります。もっとも anemia(a+haima〔ギリシャ語で「血」〕)や arrhythmmia(a+rhythnmos〔リズム〕)といっても「血がない」「リズムがない」わけではなく、必ずしも厳密に使い分けられてはいませんが、aphagia と dysphagia は「無食症」と「嚥下困難」、aphasia と dysphasia とは「失語」と「不全失語」なので、ある程度対応しています。〈-phasia〉のほうは、やはりギリシャ語で「話す to speak」を意味する動詞ファナイ phanai に由来して「話 speech」を意味します。

Phanai に由来する言葉はほかにもあります。たとえば、prophete という言葉はギリシャ語の prophetes (プロフェーテース)からきています。〈pro-〉は「前に」の接頭辞、phetes も phanai の派生語で「話す人」を意味します。それで、「前に話す」=「予言する」となるわけです。phanai(一人称単数 phemi)から派生して「話」を意味するフェーメー pheme と言う言葉もあります。英語の fame「名声」「評判」や famous は、ここからきています。英語の blaspheme(冒涜する)と言う言葉がありますが、これは「偽りのfalse」を意味する接頭辞〈blas-〉に pheme が付いたものです。実は「非難する」を意味する blame という言葉は、blaspheme が短縮したもので、本来同じ言葉だったそうです。こういう言葉、すなわち英語の blame と blaspheme のような言葉を「二重語」と呼びます。

ところで、英語で phone というと、現代ではもっぱら「電話(機)」のことを指すようになってしまいましたが、本来は「音」を意味するギリシャ語の phone(フォーネー)で、「音を出す」と言う意味の動詞 phonein(フォーネイン)に由来します。先の phanai とかこの phonein は、いずれも同じ起源をもつようです。そういえば、日本語でも「話す hanasu」「話 hanashi」といいますが、ギリシャ語を始めとする印欧語と一脈通じているようにも聞こえますね。

 

参考文献:
『新英和大辞典』(研究社)